日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC033] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(14)

養育態度と社会性に関する中学生の親子ペアデータを用いた検討

浅野良輔1, 吉澤寛之2, 吉田琢哉3, 原田知佳4, 玉井颯一5, 吉田俊和6 (1.浜松医科大学, 2.岐阜大学大学院, 3.岐阜聖徳学園大学, 4.名城大学, 5.名古屋大学, 6.岐阜聖徳学園大学)

キーワード:社会化, エージェント, 多層的影響

子どもの社会化にとって,養育者は最も重要なエージェントであり,とくに応答的・受容的な養育態度といった“protection”領域と,統制的な養育態度などの“control”領域は,社会化に対して独立した機能をもつ(Grusec, 2011; Grusec&Davidov, 2010)。浅野ら(2014)は,養育者による小学生時の応答性や中学生時の受容が,子どもの応答性認知や受容認知を媒介して社会的情報処理のバイアスを低減すると報告した。しかし,この知見には,(a)社会化がすでにある程度発達した大学生を対象としている,(b)養育態度や養育認知が回顧法により測定されている,(c)結果変数が反社会性としての社会的情報処理に限定されている,といった限界があった。本研究では,中学生とその養育者のペアデータを用いて,小学生時と中学生時の養育者の養育態度が,子どもの養育認知に影響することで子どもの共感性や社会的情報処理を規定する,というプロセスモデルを検討する。
方 法
対象者 A県内の平均的な特徴をもつ1公立中学校の生徒488名(男子220名,女子268名;1年生206名,2年生184名,3年生98名)と,その保護者(父親33名,母親429名,その他4名,不明22名)から回答を得た。
測定内容 小学生時の養育者の養育態度 “応答性”と“統制”からなる養育態度尺度(中道・中澤,2003)を回顧法用に改訂して用いた(各5項目4件法)。小学生時の子どもの養育認知 養育態度尺度(中道・中澤,2003)を子ども用に改訂して用いた。中学生時の養育者の養育態度 “受容”(10項目)と“統制”(6項目)からなる養育認知尺度(姜・酒井,2006)を保護者用に改訂して用いた(5件法)。中学生時の子どもの養育認知 養育認知尺度(姜・酒井,2006)を用いた。共感性 児童用多次元共感性尺度(長谷川ら,2009)の“共感的関心”(7項目)と“視点取得”(9項目)を測定した(5件法)。社会的情報処理 認知的歪曲尺度(吉澤・吉田,2010;14項目6件法)と,一般攻撃信念尺度(吉澤ら,2009;8項目4件法)を測定した。
分析計画 構造方程式モデリングによる媒介分析(最尤法)を行った。リサンプリング数を5000回としたバイアス修正ブートストラップ法により,間接効果の信頼区間を推定した。
結果と考察
小学生時の養育態度が社会化に与える影響 小学生時の養育態度について分析を行った結果,データに対して良好なあてはまりを示すモデルが得られた(χ2 (11, N=488)=17.42, p=.096, CFI=.992, RMSEA=.035, SRMR=.026)。間接効果を検討したところ,養育者の応答性→子どもの応答性認知→共感性の媒介過程(B=0.026, 95% CI [0.007, 0.059])と,養育者の統制→子どもの統制認知→共感性の媒介過程が認められた(B=0.049, 95% CI [0.016, 0.092])。また,養育者の応答性→子どもの応答性認知→社会的情報処理の媒介過程(B=-0.018, 95% CI [-0.042, -0.004])と,養育者の統制→子どもの統制認知→社会的情報処理の媒介過程が認められた(B=-0.040, 95% CI [-0.078, -0.012])。
中学生時の養育態度が社会化に与える影響 中学生時の養育者の養育態度に関して分析を行った結果,データに対して良好なあてはまりを示すモデルが得られた(χ2 (11, N=488)=33.22, p<.001, CFI=.974, RMSEA=.064, SRMR=.037; Figure 1)。間接効果を検討したところ,養育者の受容→子どもの受容認知→共感性の媒介過程(B=0.066, 95% CI [0.031, 0.112])と,養育者の統制→子どもの統制認知→共感性の媒介過程が認められた(B=0.039, 95% CI [0.010, 0.081])。また,養育者の受容→子どもの受容認知→社会的情報処理の媒介過程(B=-0.053, 95% CI [-0.090, -0.027])と,養育者の統制→子どもの統制認知→社会的情報処理の媒介過程が認められた(B=-0.048, 95% CI [-0.096, -0.017])。なお,統制→共感性の直接効果も認められ,養育態度の内在化を経ずに共感性が醸成されるプロセスの存在も示唆された。
以上の結果は概して,養育者が社会化エージェントとしてprotectionやcontrolの機能を発揮し,子どもがそれを内在化することで,子どもの社会化が達成されることを示唆している。今後,この媒介過程を縦断データによって確認する必要がある。