日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC034] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(15)

教師評定による指導スタイルと子どもの社会化指標との関連

玉井颯一1, 吉澤寛之2, 吉田琢哉3, 原田知佳4, 浅野良輔5, 吉田俊和6 (1.名古屋大学, 2.岐阜大学大学院, 3.岐阜聖徳学園大学, 4.名城大学, 5.浜松医科大学, 6.岐阜聖徳学園大学)

キーワード:社会化, 指導スタイル

子どもの社会化を促すエージェントには,養育者や友人関係,地域住民の他に,教師による働きかけがある。Grusec&Davidov(2010)は,子どもの社会化が“protection”,“reciprocity”,“control”,“guided learning”,“group participation”の5領域に大別されると論じ,共通の文化を有した集団への適応能力(i.e.認知・社会・情動スキル)に関連する“guided learning”は,教師による働きかけで促進されることを指摘している。しかし,教師がときに養育者としての役割を果たすこと(Cosford& Draper, 2002),また,友人のような学校生活のサポーターとしての役割も果たすことから(Corden, 2001),教師は他の社会化領域を通じて生徒の社会化に影響することが予想される。以上より本研究では,教師自身の評定に基づき指導スタイルをクラスごとに分類し,中学生の向社会性や反社会性に及ぼす影響を多面的に検討する。
方 法
対象者 A県内の平均的な特徴をもつ公立中学校1校に通う生徒670名(男子336名,女子334名;M=13.72歳,SD=0.89歳)と,その担任教師22名(男性教師15名,女性教師7名;平均勤務年数=3.00年,SD=1.60年)から回答を得た。
測定内容 社会化指標 (a) 児童用多次元共感性尺度(長谷川ら,2009)の“共感的関心”(7項目) と“視点取得”(9項目)を一部改編(5件法),(b)社会的自己制御尺度(原田ら,2008)の“自己主張”(12項目5件法)と“自己抑制”(15項目5件法),(c) 認知的歪曲尺度(吉澤・吉田,2010; 14項目6件法),(d) 一般攻撃信念尺度(吉澤ら,2009; 8項目4件法),(e) 社会的ルールの適切性(吉澤・吉田,2004)を測定した。社会的ルールの適切性は,吉澤・吉田(2004)に従い,規範意識の高さに対応するルール適切性を,3葛藤状況ごとに用いる社会的ルールを選択させ,一般的な適切性得点が付与されたリストと対応づけることで得点化した。教師の指導スタイル 教師のリーダーシップ尺度(三隅・矢守,1989)の“配慮”(4項目),“厳しさ”(3項目),“指導”(4項目),“親近性”(3項目)をそれぞれ5件法により測定した。
結 果
教師の指導スタイルの分類 教師自身の評定によって得られた教師リーダーシップ得点を用いて,クラスター分析(Wald法)により,教師の指導スタイルを分類した。クラスター分析の結果,教師の指導スタイルの特徴を明確に弁別する4クラスターを抽出した。各クラスターの教師リーダーシップの記述統計量に基づき(Table 1),クラスター1を“厳しさ優先群”,クラスター2を“高リーダーシップ群”,クラスター3を“非親近的指導群”,クラスター4を“親近的指導群”と命名した。以下では,分析で得られたクラスター間で生徒の社会化指標を比較する。
社会化指標の指導スタイル間比較 4つのクラスターを独立変数,各社会化指標を従属変数とした一要因4水準の被験者間分散分析を実施した(Table 2)。その結果,全ての社会化指標において,クラスター間に有意な差は認められなかった。
考 察
本研究の結果,学校場面における代表的な社会化エージェントである教師の働きかけと子どもの社会化との関連は示されなかった。しかし,生徒自身が認知した教師の指導スタイルは生徒の社会化に影響を及ぼすことから(吉澤ら,2014),今後は,生徒自身の評定を用いて指導スタイルを分類し,本研究と同様の結果が得られるのか,教師の指導スタイルは,生徒が指導スタイルの認知を媒介する形で効果をもつのか検討する必要がある。
また,従来の社会化研究では,子どもを取り巻くエージェントは,他の環境要因との間で相乗的・相互補完的に働くことが明らかにされていることから(e.g.玉井ら,2014;吉澤ら,2013),今後は,他のエージェントをあわせた交互作用的な影響を検討することが望まれる。