日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC043] 規範逸脱行動に対する態度と適応感の関連

「他者の逸脱頻度」に着目して

出口拓彦 (奈良教育大学)

キーワード:規範, 適応, 大学生

問 題
公共の場における規範逸脱行動に対する態度(行動基準)が適応感に及ぼす影響について,「他者の逸脱頻度」に着目して検討した。
方 法
測定した変数
逸脱頻度 「私語」,「内職」,(大学食堂での)「大声」,(大学内での)「ポイ捨て」,「信号無視」(車がほとんど通っていない道路で,信号を無視して横断歩道を歩く),という行動に対し,「1.ぜんぜんしなかった~5.たくさんした」で回答を求めた。「私語」については,私語尺度(出口・吉田,2005)の4項目(授業と無関係の私語)も使用した。
逸脱行動に対する態度 上の行動に対し,仮想場面4つ(R:自分も周囲も遵守/S:自分は遵守,周囲は逸脱/T:自分は逸脱,周囲は遵守/P:自分も周囲も逸脱)を提示し,各々「1.非常に不満~7.とても満足」で回答を求めた。
大学への適応感 ①対人関係,②学業,という観点からなる尺度(出口・吉田,2005)について,5段階で回答を求めた。
一緒に授業を受けている他者 質問紙実施時(授業中)に「あなたの周りに座っている人」について回答を求めた。回答は,匿名性を保つため,各質問紙に記載されている番号を用いて行った。
手続き
大学生を対象として,2014年7月に授業ごとに集団で実施した(Deguchi(2015発表予定)と同様の調査)。各授業の履修者は50名以上と比較的多数であった。有効回答者数は341名(男性140名,女性188名,不明13名)であった。
結果と考察
指標の算出
「自分の逸脱頻度」は,各項目に対する回答をそのまま指標とした。私語尺度は4項目に対する回答の合計を項目数で除したものを指標とした(単一項目の指標と区別するため,以後は「私語s」と記載)。「逸脱行動に対する態度」は,R,S,T,Pの値を基に,以下の方法(Deguchi, 2015発表予定)で5つの「行動基準」のいずれかに分類した。遵守(「R>T and S>P」「R=T and S>P」「R>T and S=P」),逸脱(「R<T and S<P」「R=T and S<P」「R<T and S=P」),同調(「R>T and S<P」),反対(「R<T and S>P」),中立(「R=T and S=P」)。「大学への適応感」は,2つの下位尺度ごとに合計値を算出し,項目数で除した。「他者の逸脱頻度」は,「一緒に授業を受けている他者」全ての逸脱頻度を合計し,これを選択者数で除した(全被選択者(最多7名)の平均値)。
自分の行動基準と適応感の関連
「自分の行動基準」を独立変数,適応感を従属変数とした,1要因4水準の分散分析を行った。なお,「反対」という行動基準は非常に少なかった(0.00~0.60%)ため,以後の分析から除外した。
分析の結果,「私語」「内職」では,「逸脱」の行動基準を持つ者の「学業に関する適応感」が最も低い傾向(ps<.01)が示された。他の3つの逸脱行動には主効果は示されなかった。これは,教室以外での逸脱行動であったことが一因と考えられる。なお,「対人関係に関する適応感」に対する行動基準の主効果については,一切示されなかった。
他者の逸脱頻度と適応感の関連
「私語」「内職」(教室での逸脱行動)は,「他者の逸脱頻度」の影響も検討した。まず,「他者の逸脱頻度」の平均値を基準に,回答者を高群・低群に2分した。次に,「他者の逸脱頻度」(および「自分の行動基準」)を独立変数,(自分の)「適応感」を従属変数とした分散分析を行った。
その結果,「内職」では,「他者の逸脱行動」が多い者は,「対人関係に関する適応感」が低い傾向(p<.10)が示された。また,「私語s」では,「他者の逸脱行動」が多い者は,「対人関係に関する適応感」が高く,逆に「学業に関する適応感」は低い傾向(ps<.10; Fig. 1)が示された(一方,「私語」では有意な主効果・交互作用は示されなかった)。出口・吉田(2005)は,「自分の私語」が適応感を上げる可能性を報告しているが,「他者の私語」も同様の効果を持ちうることが示唆された。
引用文献
Deguchi,T. (2015発表予定). Effects of individual and situational factors on rule-breaking behaviours in public space. Poster session presented at the 14th European Congress of Psychology.
出口拓彦・吉田俊和 (2005). 大学の授業における私語の頻度と規範意識・個人特性との関連:大学生活への適応という観点からの検討 社会心理学研究, 21, 160-169
※本研究はJSPS科研費26380885の助成を受けた。