日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC046] 特別支援学校教員による模擬授業が教員養成課程学生の生徒理解と指導観に与える影響

視覚認知に困難を示す生徒の中学校社会科地理学習

瀬尾美紀子1, 田部俊充#2, 丹治達義#3 (1.日本女子大学, 2.日本女子大学, 3.筑波大学附属視覚特別支援学校)

キーワード:特別支援, 教員養成, 学習困難

問題と目的
小・中学校の通常学級において,2~3名の割合で発達障害の傾向を示す児童生徒が在籍する可能性が明らかになり,小・中学校の教員をめざす学生にとって,特別支援教育に関する理解を深めることは不可欠となってきている。学ぶべき内容は多岐にわたるが,教員養成課程の学生が卒業後に即戦力として指導や支援を行っていくためには,主に以下の2点が学習の中核的な目標になると考える。
1.児童生徒が学習にどのような困難を抱えているか理解する
2.学習の困難に対する指導や支援の方法を検討し実践する力を身につける
本研究では,これらの目標達成をねらいとして,特別支援学校教員による模擬授業および授業解説をセットにした授業プログラムを実施し,その教育効果について明らかにする。
今回の研究では,視覚的な認知と情報処理に困難を持つ児童生徒を具体的なターゲットとした。学習障害とも密接に関連していることから,通常学級における児童生徒への指導に活用できる部分が多いと思われる。学習内容は中学校社会科地理分野を取り上げた。地図やグラフなど視覚的資料を利用する場面が多いことが,学習の特徴である。
方 法
対象者:教員養成課程学生18名。うち16名が幼・小・中・高免許のいずれかあるいは複数の取得を希望。前提となる中学校社会科地理分野の知識を補うため,模擬授業とは別に事前に,当該領域を専門とする大学教員から,学習目標や内容について20分間の概要説明を行った。
視覚特別支援学校教員による模擬授業と授業解説:特別支援学校で行っている授業をできるだけ再現する形で50分間の模擬授業を行った。学生は生徒役として参加した。単元は「日本のさまざまな地域」の中の「九州地方」を取り上げた。本時の目標は,「地図の読み方」及び「地図の記載事項」を理解し,その内容を適切に表現できるようにすることであった。模擬授業実施後,授業解説を30分間行った。主に,視覚に障害のある生徒の学習方法,視覚特別支援学校における授業の特徴,社会科授業実施上の課題と関連づけて解説した。
事前・事後調査:生徒理解や指導観の変化を見るため,以下の項目を設定した。1.視覚認知に困難を抱える生徒が,社会科地理学習で困難を感じること,2.学習指導や教材作成の配慮・工夫,3.自分の日常の教育実践において,「活用したいと思ったこと」と「その理由」。事前調査は,1.2.について思いつくことを短文の箇条書きでできるだけたくさん挙げるよう,事後調査は1.2.について模擬授業を受け新たに理解したことや理解が深まったことと,3.について記述を求めた。
結果と考察
1項目あたりの平均記述数は2.5文であった。
生徒の学習困難に関する理解
事前調査では,「地図や写真を読み取ることができない」,「地域のまとまりを理解するのに困難がある」などの「視覚に直接的に関連する困難」への言及が記述全体の約86%を占めた。一方,事後調査では「処理すべき情報量の多さ(31%)」「言語による学習方法に頼らざるを得ない(14%)」,「集団学習が困難(8%)」,」などの記述が主に見られた。視覚認知の困難から派生する「情報処理に関する困難」や「学習方法の制限」に着目した生徒理解が促されたことが分かる。
学習指導や教材作成の配慮・工夫
事前調査では,触地図など触覚の活用(40%),テキストや場面の音声化(21%),拡大文字や配色など視覚に関する工夫(14%),教師の言語的説明(10%)などが挙げられた。事後調査では,教師の言語的説明(33%),教材の構造化(14%)となり,触覚の活用,音声化,視覚の工夫への言及は5%以下となった。構造化,主要情報の選択,具体例,などを用いた教師による言語的説明の有効性を実感する記述が多く見られた。「授業を受けてみて,教科書を読むよりも(学習内容が)頭に入ってきた」といった感想もあった。
教育実践への活用
6割の学生が,日常の教育実践において「教師による言語的説明の充実」を図りたいと回答した。具体的には「具体例との関連づけによる理解促進」「全体像の把握につながるような発問」,「地図の読み方など具体的スキルの丁寧な指導」などが挙がった。少数ではあったが,実際になぞる・触れることによる理解促進も散見された。