[PC069] 保育実習における不安と保育(者)観の変化におよぼす保育者効力感の効果
4年制大学における実習の進行による変化
Keywords:保育者効力感, 保育者養成, 保育実習
保育者を志望する学生においては,知識や技術とともに,保育者として良好な活動を行えるという自信(保育者効力感)の獲得が課題となる。保育者効力感の獲得の契機としては保育現場における実習経験が挙げられる(三木・桜井, 1998)。田爪・廣瀬(2013)は,保育者効力感の高い者は保育実習の印象が肯定的で,不安が小さいことを指摘した。また,実習の進行に伴う変化について検討した田爪・廣瀬(2015)は,初期の実習においては保育の計画や運営に対する効力感の高さが保育内容の多様性の気づきを促す要因となり,実習が進行した場合においても,保育者効力感の高い学生は低い学生に比べて不安が低いことを明らかにした。
本研究では,短期大学を対象に調査を行った田爪・廣瀬(2015)と同様の検討を,4年制大学の保育者養成課程について検討する。すなわち,1回目と2回目の保育所実習の終了後(以下,それぞれ実習Ⅰ後,Ⅱ後)における,実習の印象と保育者効力感との関係の変化について検討する。
方 法
調査対象 保育士,幼稚園教諭の養成を主とする4年制大学の3年生110名(女性72名,男性31名,不明7名)。保育実習Ⅰ後(9月)およびⅡ後(2月)に質問紙調査を実施した。
質問項目 (1)保育者効力感 三木・桜井(1998)による保育者効力感尺度を使用した。原本は1因子からなるが,本研究では田爪・廣瀬(2013)と同様に「対人場面における効力感[対人効力感]」,「計画保育やクラス運営における効力感[計画運営効力感]」の2因子を使用し,全項目の平均値(全得点)および各因子項目の平均値(尺度得点)を算出した。(2)実習で感じた不安 田爪・小泉(2012)の尺度(「実習態度面の不安」,「保育技量面の不安」の2因子)を用い,尺度得点を算出した。(3)保育者観の変化,(4)保育観の変化 保育所実習の経験による保育者観や保育観(保育(者)に対するイメージ)の変化(5件法)およびその内容(自由記述)について回答を求めた。
結果と考察
分析方法 質問項目(2)(3)(4)の各尺度得点を従属変数とした。(1)保育者効力感尺度の全得点または各因子の尺度得点について,M±0.5SDを基準に高/中/低群に分け,群(高/中/低)×実習の時期(実習Ⅰ後,Ⅱ後)の分散分析を行った(Figure 1)。
実習で感じた不安 「実習態度面の不安」においては,保育者効力感の[対人効力感]因子の高群は低群よりも得点が高かった。また実習Ⅰ後よりもⅡ後の得点が低かった。「保育技量面の不安」因子においては,保育者効力感の高低による差異はみられず,実習Ⅰ後よりもⅡ後の得点が低かった。つまり,実習の進行に伴い実習に対する不安は減少するが,対人場面の効力感が高い者は実習の態度面における不安が高いといえる。
保育者観の変化 保育者効力感の全得点および各因子の高群は中,低群よりも得点が低く,保育者観の変化が小さかった。また実習の進行によって,保育者観の有意な変化はみられなかった。
保育観の変化 保育者効力感の全得点および各因子の高低,および実習の進行によって,保育者観には変化はみられなかった。
短期大学との差異 以上の結果について,短期大学の結果(田爪・廣瀬, 2015)と比較すると,実習の進行に伴い実習に対する不安が減少する点については共通していた。しかしながら,保育者効力感の効果については,短期大学では保育者効力感の高い者は実習の不安が低く,保育観の変化が大きい点については,本研究の結果とは異なっている。この点に関する1つの解釈として,4年制大学において保育者効力感の高い者は保育者観が安定し,より高い水準での課題を持つために実習に対する不安が高い可能性が考えられるが,両者の養成課程の特色の差異や,保育者効力感の質的な差異などの点から慎重に検討する必要がある。
本研究では,短期大学を対象に調査を行った田爪・廣瀬(2015)と同様の検討を,4年制大学の保育者養成課程について検討する。すなわち,1回目と2回目の保育所実習の終了後(以下,それぞれ実習Ⅰ後,Ⅱ後)における,実習の印象と保育者効力感との関係の変化について検討する。
方 法
調査対象 保育士,幼稚園教諭の養成を主とする4年制大学の3年生110名(女性72名,男性31名,不明7名)。保育実習Ⅰ後(9月)およびⅡ後(2月)に質問紙調査を実施した。
質問項目 (1)保育者効力感 三木・桜井(1998)による保育者効力感尺度を使用した。原本は1因子からなるが,本研究では田爪・廣瀬(2013)と同様に「対人場面における効力感[対人効力感]」,「計画保育やクラス運営における効力感[計画運営効力感]」の2因子を使用し,全項目の平均値(全得点)および各因子項目の平均値(尺度得点)を算出した。(2)実習で感じた不安 田爪・小泉(2012)の尺度(「実習態度面の不安」,「保育技量面の不安」の2因子)を用い,尺度得点を算出した。(3)保育者観の変化,(4)保育観の変化 保育所実習の経験による保育者観や保育観(保育(者)に対するイメージ)の変化(5件法)およびその内容(自由記述)について回答を求めた。
結果と考察
分析方法 質問項目(2)(3)(4)の各尺度得点を従属変数とした。(1)保育者効力感尺度の全得点または各因子の尺度得点について,M±0.5SDを基準に高/中/低群に分け,群(高/中/低)×実習の時期(実習Ⅰ後,Ⅱ後)の分散分析を行った(Figure 1)。
実習で感じた不安 「実習態度面の不安」においては,保育者効力感の[対人効力感]因子の高群は低群よりも得点が高かった。また実習Ⅰ後よりもⅡ後の得点が低かった。「保育技量面の不安」因子においては,保育者効力感の高低による差異はみられず,実習Ⅰ後よりもⅡ後の得点が低かった。つまり,実習の進行に伴い実習に対する不安は減少するが,対人場面の効力感が高い者は実習の態度面における不安が高いといえる。
保育者観の変化 保育者効力感の全得点および各因子の高群は中,低群よりも得点が低く,保育者観の変化が小さかった。また実習の進行によって,保育者観の有意な変化はみられなかった。
保育観の変化 保育者効力感の全得点および各因子の高低,および実習の進行によって,保育者観には変化はみられなかった。
短期大学との差異 以上の結果について,短期大学の結果(田爪・廣瀬, 2015)と比較すると,実習の進行に伴い実習に対する不安が減少する点については共通していた。しかしながら,保育者効力感の効果については,短期大学では保育者効力感の高い者は実習の不安が低く,保育観の変化が大きい点については,本研究の結果とは異なっている。この点に関する1つの解釈として,4年制大学において保育者効力感の高い者は保育者観が安定し,より高い水準での課題を持つために実習に対する不安が高い可能性が考えられるが,両者の養成課程の特色の差異や,保育者効力感の質的な差異などの点から慎重に検討する必要がある。