日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC073] 幼児アニミズムの新研究(3):殻に隠れたカタツムリは生きているか

中垣啓 (早稲田大学)

キーワード:アニミズム, 幼児心性, ピアジェ

問題と目的
ピアジェの幼児アニミズム研究(Piaget, 1926)に対して,その後多くの追試的研究,批判的研究がなされ,現在ではAID(Animate-Inanimate Distinction)に関しては幼児期早期から可能であるとする見解が一般的である(Gelman, Spelke, & Meck, 1983, Gelman, 1990, 稲垣, 2005)。しかし,このような見解が受け入れられたのは,子どもが「ある対象を生きている」と判断したとき,「その対象は生き物である」と判断したことと同じことであるかのように,その後の研究者の多くが誤解したことから来ているものと思われる(中垣,2007)。しかし,ピアジェのいう幼児アニミズムは,子どもには意図的行為と機械的運動の区別が難しいために,どんな対象であってもなんらかの活動性と結びつけば,その対象は意図的行為の主体として生命の座となりうるということである。この仮説を検証するためには,静止状態における対象物に対するアニミズム判断とその対象が運動や活動など何か動きを示す場合のアニミズム判断を比較して,対象の活動性の効果を見ることが必要である。その上,ある対象を「生きている」と判断したからといってその対象が動物のような存在であるとは思っていないことをアニミズムとは別の質問によって確認することが必要である。中垣(2012)では,石ころについてこのことを確かめ,静止状態における石を生きているとした者は幼稚園児でも3人に一人であったが,運動状態においては3人に二人が石を生きていると判断すること,石のアニミズムを認めたからといって石が眼や脚などの動物的属性を持っていると考えているわけではないことを明らかにした。更に,中垣(2013)では,水のような液体では運動状態が常態であるために,アニミズムからの脱却は石の場合よりもなお一層困難であることを示した。
それでは,自発的に動くことを大きな特徴とする動物の場合はどうであろうか。当然,動物は「生きている」と最も判断されやすい存在であろうが,睡眠中や休止状態においてはその活動性が失われたように見える。対象の活動性の有無が重要であるなら,その場合動物に対してもアニミズムを否定する者が出てくると予測される。本発表はカタツムリという動物についてこのことを検証しようとするものである(本発表は張路(2007)の修論調査を新しい観点より考察し直したものである)。
方 法
調査対象者:幼稚園年少・年中児21名(平均4歳5ヶ月),公立小学校1年生24名(平均6歳10ヶ月),3年生19名(平均8歳9ヶ月),5年生20名(平均10歳9ヶ月)。
手続き:調査者1名と調査対象者1名の個別面接形式で調査された。予備的質問の後,11個の対象を通常の状態で順次提示して,生きているか,生きていないかを問い(通常状態におけるアニミズム課題),その後,同じ11の対象について活動性を与えて(あるいは,カタツムリのように初めから活動性のあるものについては活動を休止した状態で)生きているか否かについて問うた(介入状態におけるアニミズム課題)。さらに,同じ対象について眼や脚など動物的特徴を持つかどうかを問うた(動物属性課題)。本発表では,カタツムリに対する判断結果のみを報告する。通常状態におけるアニミズム課題ではカタツムリが飼育箱の中で這いまわっている状態で,介入状態のアニミズム課題では外から刺激を与えてカタツムリが体を殻内に引っ込めた状態で問われた。
*表の被験児数は欠陥データを除いた人数である。
(1)幼稚園生を含めほとんどの者が通常状態におけるカタツムリを生きているとした。(2)しかし,直前まで動いていたカタツムリが殻に引きこもると「生きていない」と判断を変える者が年少児において続出した(幼稚園児,小1生とも7名が判断を変え,アニミズム判断の変化は有意p<.01であった)。(3)動物的属性課題については,眼があることを認めるものの脚については判断が別れた。(4)休止したカタツムリになると「生きている」と判断しなくなるという傾向は,仮説が予測する通り,対象の活動性の効果を如実に示している。このことは,寝ている犬のように身近な動物についても見出されることである。