[PD006] いじめ被害経験と加害経験の有無がレジリエンスに及ぼす影響
青年期における回顧的研究
Keywords:いじめ, レジリエンス, 青年期
問題と目的
いじめは,一般に心的外傷体験とみなされているが,他者からの気づきや援助により,被害による悪影響から回復する者もいる(小山・市井・福井,2013)。また,女性では被害・加害経験のどちらも有する者が,他者との関係における心的外傷後成長が促進されることが明らかにされている(小山・福井,2015)。こうした回復にはレジリエンスが関連していると思われるが,いじめ被害と加害経験の両方がレジリエンスに与える影響について検討したものは見当たらない。
そこで,本研究では大学生を対象に,過去のいじめ被害・加害経験の有無がレジリエンスに及ぼす影響について検討した。
方法
調査対象者:平均年齢19.77歳(SD =1.72)の大学生472名(女性257名,男性212名,未記入3名)の協力を得た。
尺度構成:レジリエンスを測定するために,精神的回復力尺度(小塩ら,2002)を用いて,「新奇性追求」,「感情調整」,「肯定的な未来志向」の3つの下位尺度得点を得た。データは,上述した小山・福井(2015)と一部重複している。
結果
精神的回復力の各尺度得点を従属変数として,2(性別)×2(被害経験の有無)×2(加害経験の有無)の3要因分散分析を行った。感情調整について,加害の主効果が有意であり,加害無し群の方が高かった。肯定的な未来志向について,被害×加害の交互作用が有意であったため,単純主効果の検定を行った結果,被害経験有り群・無し群ともに加害の主効果に有意傾向が見られた。前者では加害有り群が無し群よりも高く,後者では加害無し群が有り群よりも高かった。加害有り群では,被害の主効果は有意ではなかったのに対して,加害無し群で被害の主効果が有意となり,被害無し群の方が高かった。新奇性追求について,二次の交互作用が有意であったため,性別毎に2(被害)×2(加害)の2要因分散分析を行った結果,女性で交互作用が有意となった。単純主効果の検定を行った結果,被害有り群で加害の主効果が有意となり,加害有り群の方が高かったが,被害なし群では加害の主効果は有意ではなかった。また,加害有り群では被害の主効果は有意ではなく,加害無し群では被害の主効果が有意となり,被害無し群の方が高かった。つまり,女性では被害のみが有る場合に新奇性追求が低くなった。性別毎の尺度得点をFigure 1に示した。続いて,被害の有無で調査協力者を二群に分け,2(性別)×2(加害)の2要因分散分析を行った結果,被害有り群で交互作用が有意傾向となった。単純主効果の検定を行った結果,被害の有る女性で加害の主効果が有意となり,加害有り群の方が高かった。被害無し群では交互作用は有意ではなかった。
考察
本研究から,いじめ加害がレジリエンスに関与していることが分かった。特に,加害経験は感情調整におけるレジリエンスを下げていた。肯定的な未来志向は,被害・加害を併せ持つか,どちらも無い場合に高くなることが分かった。新奇性追求では,女性において,肯定的な未来志向と同様の傾向が見られた。今後,そうした性差の背景について,さらなる研究が期待される。
キーワード:いじめ,レジリエンス,青年期
いじめは,一般に心的外傷体験とみなされているが,他者からの気づきや援助により,被害による悪影響から回復する者もいる(小山・市井・福井,2013)。また,女性では被害・加害経験のどちらも有する者が,他者との関係における心的外傷後成長が促進されることが明らかにされている(小山・福井,2015)。こうした回復にはレジリエンスが関連していると思われるが,いじめ被害と加害経験の両方がレジリエンスに与える影響について検討したものは見当たらない。
そこで,本研究では大学生を対象に,過去のいじめ被害・加害経験の有無がレジリエンスに及ぼす影響について検討した。
方法
調査対象者:平均年齢19.77歳(SD =1.72)の大学生472名(女性257名,男性212名,未記入3名)の協力を得た。
尺度構成:レジリエンスを測定するために,精神的回復力尺度(小塩ら,2002)を用いて,「新奇性追求」,「感情調整」,「肯定的な未来志向」の3つの下位尺度得点を得た。データは,上述した小山・福井(2015)と一部重複している。
結果
精神的回復力の各尺度得点を従属変数として,2(性別)×2(被害経験の有無)×2(加害経験の有無)の3要因分散分析を行った。感情調整について,加害の主効果が有意であり,加害無し群の方が高かった。肯定的な未来志向について,被害×加害の交互作用が有意であったため,単純主効果の検定を行った結果,被害経験有り群・無し群ともに加害の主効果に有意傾向が見られた。前者では加害有り群が無し群よりも高く,後者では加害無し群が有り群よりも高かった。加害有り群では,被害の主効果は有意ではなかったのに対して,加害無し群で被害の主効果が有意となり,被害無し群の方が高かった。新奇性追求について,二次の交互作用が有意であったため,性別毎に2(被害)×2(加害)の2要因分散分析を行った結果,女性で交互作用が有意となった。単純主効果の検定を行った結果,被害有り群で加害の主効果が有意となり,加害有り群の方が高かったが,被害なし群では加害の主効果は有意ではなかった。また,加害有り群では被害の主効果は有意ではなく,加害無し群では被害の主効果が有意となり,被害無し群の方が高かった。つまり,女性では被害のみが有る場合に新奇性追求が低くなった。性別毎の尺度得点をFigure 1に示した。続いて,被害の有無で調査協力者を二群に分け,2(性別)×2(加害)の2要因分散分析を行った結果,被害有り群で交互作用が有意傾向となった。単純主効果の検定を行った結果,被害の有る女性で加害の主効果が有意となり,加害有り群の方が高かった。被害無し群では交互作用は有意ではなかった。
考察
本研究から,いじめ加害がレジリエンスに関与していることが分かった。特に,加害経験は感情調整におけるレジリエンスを下げていた。肯定的な未来志向は,被害・加害を併せ持つか,どちらも無い場合に高くなることが分かった。新奇性追求では,女性において,肯定的な未来志向と同様の傾向が見られた。今後,そうした性差の背景について,さらなる研究が期待される。
キーワード:いじめ,レジリエンス,青年期