日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD025] 異なる考えから理解を深める協調問題解決授業のデザイン(1)

課題と発話の分析に基づく必要な支援の検討

河崎美保1, 益川弘如2, 遠藤育男#3, 丸井純#4 (1.追手門学院大学, 2.静岡大学大学院, 3.静岡県伊東市立対島中学校, 4.静岡県伊東市立東小学校)

キーワード:協調学習, 算数, 割合

問題と目的
算数授業において自分とは異なる他者の考えに触れて理解を一層深めることは容易でなく,クラス全体ではなくペアなどの半私的なレベルでの説明活動の有効性が示唆されるなど(河﨑・白水,2011),クラス全体の話し合いと少人数での話し合いの差異を仔細に検討し,有効な授業デザインを明らかにすることが求められている。このような中,益川・河崎・遠藤(2014)は知識構成型ジグソー法を用いた算数の授業実践を行い,各班の発表の後,再度,班で解答を検討しなおすことで,理解の深化をねらったが,多くの時間を要した上,班として考えを変えるという効果が見られたケースはわずかであった。そこで本研究では,益川ら(2014)の実践における解答バリエーションと発話データから,学習課題自体の難しさ,および多様な考えに触れながら理解を深めるプロセスに含まれる要素―学習者の視点からどのような論点を取り上げ,吟味することが課題の解決につながりうるか―を分析し,より効果的な授業デザインを検討する。
方法
対象
小学校6年生を担当する30代の男性教員と,勤務校の6年生2クラス。2クラスのうち一方は同教員が担任を務める学級であった。
手続き
単元「割合を使って」(啓林館6年下)の仕事算を題材とし,知識構成型ジグソー法を用いた45分の算数授業を計画,実践した。ジグソー課題は「今日は縦割り活動で,第一音楽室のぞうきんがけをすることになりました。そこで,6 年生のカズヒコさんと,3 年生のケイコさんと,1 年生のイクオさんがいっしょにぞうきんがけをします。3 人ですると何分で終わるでしょうか?」で,エキスパート資料は,各学年の1分間の仕事量を計算する内容だった(6年1/6,3年1/10,1年1/15)。まず教員が担任ではないAクラス,次に担任を務めるBクラスで実施した。Aクラスでのみエキスパート資料に音楽室を表す4㎝×6㎝の長方形の図を掲載した点,および,Bクラスではジグソー活動後と各班の発表(クロストーク)を2回繰り返した点が特に異なった。
結果と考察
2クラス全12班のジグソー課題への解答には表1のようなバリエーションが見られた(B-1,B-2はBクラスの2回のクロストークのそれぞれの結果)。全体を24㎠として3分と求めたのは長方形を提示したAクラスでのみ見られ,エキスパート活動の時点では21名中16名が面積を24として考えていた。また,長方形の提示がなかったBクラスではジグソー活動中に面積がわからないからわからないという発話が見られたり,3人で1分間に1/3掃除ができるので,3分間で教室全体が掃除できる(1/3×3=1)と考える局面で改めて教室全体を1とすることを確認する発話が見られるなど,「全体」を「1」とする割合の考え方の理解が,たとえ「教室の1/6」といった表現を使っていても伴っているわけではないという難しさがうかがえた。またこのために1/3×3=1のそれぞれの数値が面積,人数,分のいずれを表す数値であるか錯綜し解答「(4)9分」のような誤答にもつながっていた。
ジグソー活動中の発話データから,児童らがどのような観点で解答の確からしさを吟味しているかを分析し,表2の観点を抽出した。
たとえば答えが「4分」であれば,6分より短い点でa-2をクリアし,これ以上短いと速すぎるといったa-3によって支えられ,b-1にも反しない。b-2(なぜ割るの?)を検討して初めて考え方を見直す必要性が生まれると考えられる。
しかしこれをクロストークで即座に指摘することは起こり難く,考え方の変容・深化を促そうとジグソー活動とクロストークを2回繰り返したBクラスでは,クロストーク(10分,9.5分)で出た疑問が1回目1件,2回目6件(内教師から2件)で,内容も観点aやb-1や漠然とした不理解の表明が中心で,b-2が問題視されてもb-1の水準の回答に留まるやり取りが見られた。一方,「4分」という解答を変えることのなかったある班でも,2回目のジグソー活動(13分)中の疑問は37件と班の中では表出が増えるが,自分たちの回答の根拠が存在する観点aで他班の解答も吟味することが多く,散発的にb-1,b-2の疑問が生じていた。またその際,黒板に掲示された他班の解答を改めて見たりわざわざ近寄って確認する行動が伴っていた。
以上より,他者の考えを聞くだけでなく参照しながら班で再考しやすいツールがあるとともに,手続きの目的・意味の吟味に至るまでの対話を支えるような活動を含む授業デザインの必要性が示唆される。