[PD034] 相互レビューを活用した読解要約
高等学校現代文での実践報告
キーワード:相互レビュー, 要約, 高等学校
高等学校国語科の課題
「国語を適切に表現し的確に理解する能力を育成し,伝え合う力」(指導要領)を修得させるべき高等学校の国語であるが,実際には大学受験のための技術指導が中心となっている。基礎学力の徹底に割く時間は限られ,表現力を伸ばすための個別指導や習熟度別指導も難しい。
そこで集団での交流を活用し学習者自身の学びを引き出すピア・ラーニングという学習観に注目した。これまでも,高校生に紙上交流を取り入れ意見文作成の技術向上を目指した清道(2011)や,大学一年生のライティング能力習得を相互レビューによる交流で実践した白石・鈴木(2008)など,能力の近い学習者が交流することで相互に能力を伸ばした報告がある。複数教員で行う全体指導のカリキュラムの中で「表現」力と「理解」力と「伝え合う力」を伸ばすため,相互レビュー法を取り入れた現代文の読解授業を実施し,その効果を検証した。
授業の方法
普通科高校2年生3クラス(111名)を対象とした。事前の要約力を把握するため,授業実施前に2人ペアによる要約原案と相互レビュー,完成要約を作成する事前評価を実施した。評価は教員2名で行い,あらかじめ設定した4個のキーワードの数を計上した。
授業は4人班を作成し,4段落構成の評論文を4人が一回ずつ要約担当となり,班員によるキーワード提示,担当の要約原案の作成,相互レビュー,完成要約の提出という活動を行った。次回の授業開始時に各班の完成要約をまとめたものを提示しながら教員が評価する以外は,生徒同士の相互活動のみで文章読解を進めた。教員の評価も要約の作成方法の指導に留め,正答例の提示など教唆的な介入はしなかった。
その後,事前評価と同様の形式で事後評価を行い,生徒の感想をアンケートで集めた。
結 果
・要約力の向上
Figure 1は授業の事前・事後に実施した要約力評価の結果である。事前,事後テストの平均は各々2.03,2.55であり,有意な差があった(t(110)=2.40, p<.01)。授業前の評価でキーワード発見数0であった者が事後は大幅に減少し,発見数3の者が大きく増加している。授業前発見数2以下で授業後3以上に成長した者は52.8%であり,授業後も2以下の生徒は29.7%であった。
・向上班と効果無し班の比較
授業前評価でキーワード発見数2以下の生徒の動向に注目し,授業後に発見数が上昇した生徒が2名含まれる班を「向上班」,授業後も変化の無い生徒が2名含まれる班を「効果無し班」として調査した。(残り2名は授業前評価の段階で能力があり対象外)対象外の生徒を含む両班の構成員全体の事前要約力調査の平均の差は0.1以内であり,この両班の事前の成績に相違はない。
要約原案に対する相互レビューの内容に注目すると,文章の繰り返しや言い換えをまとめようとする「抽象化表現」,要約原案に含まれないキーワードを提示する「キーワード追加表現」が「向上班」には多く見られた。「向上班」と「効果無し班」の合計数がTable 1である。相互レビュー活動の中で,班員同士の交流から文章の抽象化・キーワード探索という作業をモデリングすることで班員それぞれの要約力が向上していると考えられる。
・学習態度の変化
授業後のアンケートより,「今回の形式の授業を今後も続けたい」と回答した生徒は68.5%であった。板書形式の授業からの戸惑いはあるものの,90.1%の生徒が「班員からのコメントが要約作成の参考となった」と回答している。
ま と め
相互レビューを取り入れることで全体の要約力と学習態度が向上した。課題は班員構成を考慮せずに授業を実施したことである。「班員のメンバーや性格などが,学習成果を変えると思うか?」という質問に対し,「強く思う」「思う」が70.5%(「どちらでもない」20.5%,「あまり思わない」8.9%)と,班員に対する影響力が大きいことを示している。今後は,グループ構成による班員同士の抽象化・キーワード探索の働き・影響とモデリングの効果についての評価の必要があるだろう。
「国語を適切に表現し的確に理解する能力を育成し,伝え合う力」(指導要領)を修得させるべき高等学校の国語であるが,実際には大学受験のための技術指導が中心となっている。基礎学力の徹底に割く時間は限られ,表現力を伸ばすための個別指導や習熟度別指導も難しい。
そこで集団での交流を活用し学習者自身の学びを引き出すピア・ラーニングという学習観に注目した。これまでも,高校生に紙上交流を取り入れ意見文作成の技術向上を目指した清道(2011)や,大学一年生のライティング能力習得を相互レビューによる交流で実践した白石・鈴木(2008)など,能力の近い学習者が交流することで相互に能力を伸ばした報告がある。複数教員で行う全体指導のカリキュラムの中で「表現」力と「理解」力と「伝え合う力」を伸ばすため,相互レビュー法を取り入れた現代文の読解授業を実施し,その効果を検証した。
授業の方法
普通科高校2年生3クラス(111名)を対象とした。事前の要約力を把握するため,授業実施前に2人ペアによる要約原案と相互レビュー,完成要約を作成する事前評価を実施した。評価は教員2名で行い,あらかじめ設定した4個のキーワードの数を計上した。
授業は4人班を作成し,4段落構成の評論文を4人が一回ずつ要約担当となり,班員によるキーワード提示,担当の要約原案の作成,相互レビュー,完成要約の提出という活動を行った。次回の授業開始時に各班の完成要約をまとめたものを提示しながら教員が評価する以外は,生徒同士の相互活動のみで文章読解を進めた。教員の評価も要約の作成方法の指導に留め,正答例の提示など教唆的な介入はしなかった。
その後,事前評価と同様の形式で事後評価を行い,生徒の感想をアンケートで集めた。
結 果
・要約力の向上
Figure 1は授業の事前・事後に実施した要約力評価の結果である。事前,事後テストの平均は各々2.03,2.55であり,有意な差があった(t(110)=2.40, p<.01)。授業前の評価でキーワード発見数0であった者が事後は大幅に減少し,発見数3の者が大きく増加している。授業前発見数2以下で授業後3以上に成長した者は52.8%であり,授業後も2以下の生徒は29.7%であった。
・向上班と効果無し班の比較
授業前評価でキーワード発見数2以下の生徒の動向に注目し,授業後に発見数が上昇した生徒が2名含まれる班を「向上班」,授業後も変化の無い生徒が2名含まれる班を「効果無し班」として調査した。(残り2名は授業前評価の段階で能力があり対象外)対象外の生徒を含む両班の構成員全体の事前要約力調査の平均の差は0.1以内であり,この両班の事前の成績に相違はない。
要約原案に対する相互レビューの内容に注目すると,文章の繰り返しや言い換えをまとめようとする「抽象化表現」,要約原案に含まれないキーワードを提示する「キーワード追加表現」が「向上班」には多く見られた。「向上班」と「効果無し班」の合計数がTable 1である。相互レビュー活動の中で,班員同士の交流から文章の抽象化・キーワード探索という作業をモデリングすることで班員それぞれの要約力が向上していると考えられる。
・学習態度の変化
授業後のアンケートより,「今回の形式の授業を今後も続けたい」と回答した生徒は68.5%であった。板書形式の授業からの戸惑いはあるものの,90.1%の生徒が「班員からのコメントが要約作成の参考となった」と回答している。
ま と め
相互レビューを取り入れることで全体の要約力と学習態度が向上した。課題は班員構成を考慮せずに授業を実施したことである。「班員のメンバーや性格などが,学習成果を変えると思うか?」という質問に対し,「強く思う」「思う」が70.5%(「どちらでもない」20.5%,「あまり思わない」8.9%)と,班員に対する影響力が大きいことを示している。今後は,グループ構成による班員同士の抽象化・キーワード探索の働き・影響とモデリングの効果についての評価の必要があるだろう。