[PD050] 保育学生の幼稚園教諭と保育士の職業イメージの違い
色彩連想テストから
キーワード:幼稚園教諭と保育士, 色彩連想テスト, 職業観
問題と目的
近年,少子化の進行や共働き世帯の増加により,幼児教育の在り方も検討され,幼稚園と保育所を統一しようとする,いわゆる幼保一元化の動きが活発化している。しかし,幼稚園は,文部科学省が管轄する学校教育を行う場であり,保育所は,厚生労働省が管轄する児童福祉施設であり,それぞれに保育内容や教育方法など受け継がれてきた歴史がある。両者を一体化することは,幼稚園教諭と保育士の意思疎通・理念の共有が難しいといわれている。現在,このように保育制度改革が進行しているなかで,保育学生は,幼稚園で教育実習,保育所で保育実習を体験することになるが,彼らが抱いた両者のイメージの違いはどのようなものであろうか。豊田他(2008)は,現場の保育者や保護者,女子学生を対象に,松岡(1983,1999)の理論による色彩連想テストから,幼稚園と保育所のイメージを比較調査している。その結果によると,幼稚園は,「黄色」に象徴されるように,「歓喜,快活」のイメージであるのに対して,保育所は,「ピンク色」に象徴されるように「愛らしさ,清純,未成熟」というイメージを持っていた。このように,幼稚園と保育所に対するイメージには違いがあるが,両者で実習を終えた保育学生も,幼稚園教諭や保育士の職業イメージにも違いがあるのではないだろうか。そこで本研究は,保育学生の幼稚園教諭と保育士の職業イメージの違いについて,色彩連想テストにより検討を行うことを目的とする。
Ⅱ 方法
調査対象者:近畿圏内にある保育者養成の短期大学で,筆者の担当する授業において,5分程度の時間を使い,質問紙による調査を行った。2 年生105名の内,記述内容が不明瞭な者を除き101名を分析の対象とした。なお,分析対象者は,調査日までに幼稚園教育実習及び保育実習を終えている。
Ⅲ 結果と考察
保育学生の幼稚園教諭および保育士に対する連想色彩名のうち,10%以上の連想率があった上位色彩名が,Table 1に示されている。幼稚園教諭は,ほぼ同じような割合で「赤」「オレンジ」「青」「黄」の連想があり,保育士は,「ピンク」が2位以下の連想よりも,2倍近く多くなっている。両者の異なる上位色から,幼稚園教諭は,「赤」「青」のイメージがあり,保育士は,「ピンク」「水」のイメージを持っていることが窺える。また,「オレンジ」「黄」が両者に共通の連想色彩名として挙がっている。
松岡(1983,1999)の理論から,保育学生の幼稚園教諭の職業イメージは,「赤」に象徴される「情熱・怒り」などの感情の強くきついイメージを持つ反面,「青」に象徴される「冷静な・落ち着き」というイメージを持っていることが示された。これは,保育学生が,幼稚園教諭は喜怒哀楽の感情表現豊かに保育,教育しつつも,常に様々な場面で,客観的な判断を求められる職業であると考えていることが窺われる。また,保育士は,主として「ピンク」に象徴されるように,「弱い,やさしい,快い」など温和なイメージや,「水」に象徴されるように,幼稚園教諭よりもソフトなイメージを持っていることが考えられる。これは,保育学生が,保育士業務は養護の視点である「子どもの生命の保持及び情緒の安定」という,乳児や幼児に対する弱き存在への配慮を大切にしていることを理解しているのではないだろうか。しかし,両者の職業観には違いがあるものの,共通する点もあることが窺われた。それは,「オレンジ」に象徴される「陽気・にぎやか・暑い」というイメージや,「黄」に象徴される「歓喜・快活」というイメージから,保育学生は,幼稚園教諭も保育士も,元気で明るく喜びにあふれた職業であると捉えていることが考えられる
引用文献
松岡 武(1983,1999)色彩とパーソナリティー―色で探るイメージの世界 金子書房 ※1999年出版は決定版
豊田 弘司・米谷 光弘・圓 正博(2008)色彩連想テストにおける幼児教育概念の心理的意味 ―保育士・幼稚園教諭,母親,女子学生の比較― 奈良保育学院研究紀要 第13号 pp.65-70
近年,少子化の進行や共働き世帯の増加により,幼児教育の在り方も検討され,幼稚園と保育所を統一しようとする,いわゆる幼保一元化の動きが活発化している。しかし,幼稚園は,文部科学省が管轄する学校教育を行う場であり,保育所は,厚生労働省が管轄する児童福祉施設であり,それぞれに保育内容や教育方法など受け継がれてきた歴史がある。両者を一体化することは,幼稚園教諭と保育士の意思疎通・理念の共有が難しいといわれている。現在,このように保育制度改革が進行しているなかで,保育学生は,幼稚園で教育実習,保育所で保育実習を体験することになるが,彼らが抱いた両者のイメージの違いはどのようなものであろうか。豊田他(2008)は,現場の保育者や保護者,女子学生を対象に,松岡(1983,1999)の理論による色彩連想テストから,幼稚園と保育所のイメージを比較調査している。その結果によると,幼稚園は,「黄色」に象徴されるように,「歓喜,快活」のイメージであるのに対して,保育所は,「ピンク色」に象徴されるように「愛らしさ,清純,未成熟」というイメージを持っていた。このように,幼稚園と保育所に対するイメージには違いがあるが,両者で実習を終えた保育学生も,幼稚園教諭や保育士の職業イメージにも違いがあるのではないだろうか。そこで本研究は,保育学生の幼稚園教諭と保育士の職業イメージの違いについて,色彩連想テストにより検討を行うことを目的とする。
Ⅱ 方法
調査対象者:近畿圏内にある保育者養成の短期大学で,筆者の担当する授業において,5分程度の時間を使い,質問紙による調査を行った。2 年生105名の内,記述内容が不明瞭な者を除き101名を分析の対象とした。なお,分析対象者は,調査日までに幼稚園教育実習及び保育実習を終えている。
Ⅲ 結果と考察
保育学生の幼稚園教諭および保育士に対する連想色彩名のうち,10%以上の連想率があった上位色彩名が,Table 1に示されている。幼稚園教諭は,ほぼ同じような割合で「赤」「オレンジ」「青」「黄」の連想があり,保育士は,「ピンク」が2位以下の連想よりも,2倍近く多くなっている。両者の異なる上位色から,幼稚園教諭は,「赤」「青」のイメージがあり,保育士は,「ピンク」「水」のイメージを持っていることが窺える。また,「オレンジ」「黄」が両者に共通の連想色彩名として挙がっている。
松岡(1983,1999)の理論から,保育学生の幼稚園教諭の職業イメージは,「赤」に象徴される「情熱・怒り」などの感情の強くきついイメージを持つ反面,「青」に象徴される「冷静な・落ち着き」というイメージを持っていることが示された。これは,保育学生が,幼稚園教諭は喜怒哀楽の感情表現豊かに保育,教育しつつも,常に様々な場面で,客観的な判断を求められる職業であると考えていることが窺われる。また,保育士は,主として「ピンク」に象徴されるように,「弱い,やさしい,快い」など温和なイメージや,「水」に象徴されるように,幼稚園教諭よりもソフトなイメージを持っていることが考えられる。これは,保育学生が,保育士業務は養護の視点である「子どもの生命の保持及び情緒の安定」という,乳児や幼児に対する弱き存在への配慮を大切にしていることを理解しているのではないだろうか。しかし,両者の職業観には違いがあるものの,共通する点もあることが窺われた。それは,「オレンジ」に象徴される「陽気・にぎやか・暑い」というイメージや,「黄」に象徴される「歓喜・快活」というイメージから,保育学生は,幼稚園教諭も保育士も,元気で明るく喜びにあふれた職業であると捉えていることが考えられる
引用文献
松岡 武(1983,1999)色彩とパーソナリティー―色で探るイメージの世界 金子書房 ※1999年出版は決定版
豊田 弘司・米谷 光弘・圓 正博(2008)色彩連想テストにおける幼児教育概念の心理的意味 ―保育士・幼稚園教諭,母親,女子学生の比較― 奈良保育学院研究紀要 第13号 pp.65-70