日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD057] 援助されなかった経験と感情反応

女子大生の自由記述から

山村麻予 (大阪大学)

キーワード:援助, 自由記述, 向社会性

【問題と目的】
向社会的行動および援助行動に関する研究は,援助者・被援助者両方の観点から,さまざまな検討が行われている。また,向社会的行動を行うことは,人間関係を円滑にし,社会生活を営む上で必要なことであることは周知の事実である。
しかし,「あえて助けない」ことを向社会的行動の一部とする筆者らの研究(山村・中谷,2012)が示すように,具体的な援助が表出しなくても,相手のためを思っている場合がある。これはあくまで援助者側の立場にたっている場合にいえることであって,被援助者の立場にとって,具体的な援助を受けないことをどのようにとられているかの検討は不足している。
そこで,本研究では,これまでの「援助されなかった経験」の有無を問い,その時の感情反応を検討することを目的とした。
【方 法】
対象:近畿圏内の女子大学の2年生2クラス(75名)。実施時期は2014年4月末。
手続き:倫理的配慮に関する項目を記載した用紙を示したうえで音読し,内容に了承したもののみ回答するように依頼した。
教示文:A4サイズ一枚に「こんなこと,なかった?」とタイトルを配置し,「あなたの高校生活,大学生活を振り返って,こんなことはありましたか?思い出してみて,そのときの状況,気持ち,考えを書いてみましょう。」と導入文を示した。そして,「『自分が困っていたけれど,周りの人が援助しない』状況について」とした教示の下に6cm×17cmの自由回答欄を作成した。同じサイズの回答欄をもう一つ作成し,そちらには「『他者が困っていたけれど,わたしが援助をしない』状況について」書くように依頼した。これは援助側の視点に立って想起する箇所があったほうが,逆の立場でも記入がしやすいとの指摘を受けて設けたものである。両方について,それぞれ具体例を一つ示した。
【結果と考察】
まず,回収した質問紙について,回答されているか,教示文に合致しているか(経験についての状況,詳細が書かれているか)について検討したところ,自分が援助されなかった経験について45件の有効回答を得た。つまり,調査協力者の半数以上が,何らかの「援助されなかった経験」を有していることが示された。続いて,記述された内容について,状況の性質によってカテゴリーを作成した結果,部活・体調不良・授業・公共・学習(実技を含む)・悩み・人間関係の7つのカテゴリーが抽出された。これらカテゴリーごと,そして記載された感情反応ごとに分類した表がTable 1である。
援助されなかった経験を受け,ポジティブな感情(うれしかった,ほっとした,助かった)を示した経験は,当時は嫌だったが振り返ってみるとよかったという経験(N→P)を含めると25件であった。とくに「悩み」場面において,援助されないことについてポジティブな感情反応が多くみられる。
追加分析として,「他者が困っているのに,わたしが援助をしない」経験についても,同じようにカテゴリーを分けて検討したところ,同じく45件が抽出され,こちらは学習(実習を含む)が16件と最多となった。その他の特徴としては「twitterで病んでいたけど…」といったSNSに関する記述も見られたことである。なお,この問いについては,意図についての記述が多く,感情反応についての分析は不可能であった。