日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD061] 聴覚障害学生の音声に関する発音評価(2)

清音,濁音,半濁音における受聴音節

加藤靖佳 (筑波大学)

キーワード:聴覚障害, 音声, 受聴音節

1 問題の所在と目的
聴覚障害を有する大学生・大学院生の中には発音・発語の指導を希望する学生がみられる。聴覚障害学生を対象として発音・発語指導を行う際,発音評価が重要となる。聴覚障害学生が音節ごとに発音した音声資料について一般聴取者が聴き取りを行いその受聴音節について分析を行った。発音指導の基礎的資料とすることを目的とする。
2 方 法
⑴ 対象者:発音に関心を示す聴覚障害学生3名(21~24歳)。良聴耳の平均聴力レベルは85dBHL~100dBHLであった。
⑵ 評価者:評価者は健聴成人30名であった。1グループ10名の評価者で構成された。
⑶ 音声サンプル:日本語100音節を用いた。各音節には,清音,濁音,半濁音が含まれていた。
⑷ 録音方法:対象者の音声は口前に置かれたコンデンサーマイクロホンを通してリニアPCMレコーダに録音された。各対象者の音声サンプルはアンプ及びスピーカを通して,評価者に対して65dBSPLで呈示された。
⑸ 評価方法:音声サンプルは1音節ごとに再生され,評価者は聴こえた通りに書き取った。
3 結果と考察
対象者が発音した音声の中で発語の明瞭性が40%以下の行における音節を分析対象とした。表1~表4に一般聴取者が聴き取った際の受聴音節を示す。括弧内の数字は同じ音節として受聴した人数を表す。対象者Aでは,サ行,ラ行の清音及びガ行,ザ行,バ行の濁音に受聴音節数が多く,一定の音素に受聴される傾向が認められた。対象者Bでは,サ行の清音とザ行の濁音に発音の誤りが認められ,発語明瞭度が低くなる音節はサ行,ザ行に限定されおり/s/は/h/に受聴されることが認められた。対象者Cでは,タ行の清音とガ行,ザ行の濁音,パ行の半濁音に発音の誤りが認められた。一定の音素として受聴される傾向にあるものの,/te/においては多様な音素に受聴され音節数が多かった。
対象者ごとに受聴音節及び音節数は異なり個人差が認められた。一定の音素に置き換わって受聴される音節,多様な音素に置き換わって受聴される音節等が認められた。母音は正しく発音されている場合が多く子音の置き換えが顕著であった。
発音指導を行う上で,受聴音節を把握し受聴傾向から改善する音節を決定することが考えられる。一定の音素に受聴される傾向にある音節は発音の改善方法が明確化しやすく,発語明瞭度を高められることが期待できる。聴覚障害学生の発音指導を考えるうえで,受聴音節を分析し,発音の受聴傾向を把握することは,発音を改善するための基礎的資料となることが示唆された。
〈文 献〉
加藤靖佳:一般聴取者が受聴する重度聴覚障害者の構音に関する一考察.Audiology Japan, 46, 44~51, 2003