日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PD

2015年8月27日(木) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PD063] 中学生は自身の特別な支援ニーズや特性をどのように捉えるのか

ASIST学校適応スキルプロフィールによる自記式シートの開発

熊谷亮1, 橋本創一2, 三浦巧也3 (1.東京学芸大学, 2.東京学芸大学, 3.大正大学)

キーワード:中学生, 特別な支援ニーズ, 特性理解

【問題と目的】
学校適応を考えた場合,本人の学校生活への満足度などの適応感に加え,自身の特性や感じ方を理解した上で,自身の置かれている環境と折り合いをつけることが求められる。学校生活を送る上で必要となるスキルや不適応行動を測定する他者評定尺度としてASIST学校適応スキルプロフィール(橋本他,2014)が標準化されているが,自身の特性理解を促し,より正確なニーズをくみとることができる自記式シートは開発段階となっている(熊谷他,2014)。本研究では,中学生を対象に本人が感じている特性の実態を学校生活満足感と生徒指導上の特別な配慮の有無という観点から分析を行い,ASIST自記式シート作成のための知見を得ることを目的とする。
【方 法】
調査の概要:東京都内の公立中学校に通う中学1,2年生計214名(男89名,女124名,不明1名)を対象とし,2014年12月に実施した。
手続き:担任教諭に教示文を渡し,質問紙をクラスごとに実施するよう依頼し,後日回収した。また,研究倫理を遵守し,研究協力者には研究趣旨を説明し了解を得た上で記入を依頼した。
調査内容:ASISTのB尺度[特別な支援ニーズの把握]について,中学生が記入するための負担を考慮して,学校適応に重要と考えられる項目を各領域2項目ずつ(学習領域は3項目)を専門家チームで抽出した。項目の意味内容が変わらないように留意しながら中学生に理解可能な表現に変更した。専門家チームには,スクールカウンセラーや巡回相談を行う臨床心理士や学校心理士の資格を有し,特別支援教育を専門とする大学教員,生徒指導・教育相談を専門とする大学教員が含まれた。また,学校生活の満足度について3件法で尋ねた。
【結 果】
学校満足感の程度ごとに本人が感じている特別な支援ニーズの差を検討するため,各領域得点及び総合評価について学校満足感を要因とする一元配置分散分析を行った(表1)。その結果,意欲領域,集中力領域,話し言葉領域,ひとりの世界・興味関心の偏り領域,心気的な訴え,総合評価において有意な主効果が認められた。Bonferroniによる多重比較を行った結果,学校満足感の低群,または中群,その両方が高群よりも特別な支援ニーズが有意に高いことが示された。また,生徒指導上特別な配慮を要する生徒(生徒指導対象生徒)(51名)と一般生徒における特別な支援ニーズの差異を検討するため,各領域得点及び総合評価についてt検定を行ったところ,学習領域(t (97)=2.58, p<.01)及び多動性・衝動性領域(t (208)=2.53, p<.01)のみ有意な差が認められ,生徒指導の対象となっている生徒の得点が高かった。さらに,生徒指導対象生徒の特別な支援ニーズの特徴を検討するため,全生徒の領域得点をz得点化し,生徒指導対象生徒の各領域のz得点に関してクラスター分析を行った。その結果,5つのクラスターが抽出され,各クラスターの特徴は図1の通りとなった。
【考 察】
学校不満足の生徒の支援ニーズが高い領域である,話し言葉領域には「家族や決まった人とは話せるがそれ以外の人とは話せない」,ひとりの世界・興味関心の偏り領域には「ルールに従うような集団活動がとても苦手である」等の項目からなり,対人関係や集団参加への困難感を抱えていることがうかがえる。また,生活リズムや不定愁訴について尋ねた心気的な訴え・不調領域の支援ニーズも高いことから不適応症状が顕在化している可能性が示唆された。従って,学校生活への満足感の低い生徒に対しては内的な問題に対する対応に加え,SST等を用いた対人関係支援も求められる。また,生徒指導対象生徒と一般生徒との支援ニーズの比較では,生徒指導対象生徒は学習領域及び多動性・衝動性領域の得点が高かった。しかし,生徒指導対象生徒の領域得点のクラスター分析を行ったところ,特別な支援ニーズの特徴から5つのクラスターに分類され,特別な支援ニーズを全般的に高く評価している群や逆に全般的に低く評価している群,運動面のみ顕著に高く評価している群など,様々な特徴を示した。そのため,生徒指導上の配慮が必要な生徒と一括りにして捉えるのではなく,生徒一人ひとりの特性を考慮しつつ支援を行うことが必要だと考えられる。