[PD075] 気になる子として認識される心理過程の分析
乳児保育担当者による語りから
キーワード:気になる子, 心理過程, M-GTA
問題と目的
保育現場における「気になる子」の相談事例の報告や研究で取り上げられる子どもは,多くの場合,クラス集団が形成され始め,対人関係の問題が顕在化しやすい3歳児以上の幼児期が中心である。しかし保育者の多くは乳児期に違和感を覚えている(倉掛・増田, 2008; 田中, 2012)。結果,療育現場では初診の年齢は2,3歳が中心と低年齢化し,園からの紹介が増加していると指摘されている(宮嶋, 2012)。ただ,「気になる子」は保育の環境設定でも生み出されるのに,発達障害という子どもの発達要因だけで捉えられ,不適切に対応される危険性についても懸念されている(赤木・岡村, 2013)。とはいえ,保育者はなぜ子どもを「気になる」対象として捉えるのか,という問題に対して保育者の認識を対象に分析した研究は少なく,発達相談でも障害を念頭に気になる子を捉える現状が見受けられる。本研究では上記のような問題意識から,違和感を覚える乳児期に保育で気になる子どもについての保育者の語りを分析対象として,その認識の心理過程を質的に明らかにすることを目的とした。
方 法
調査1:2013年3月から5月を調査期間,並びに2014年12月を追加調査期間として,3園の保育所で乳児保育(0歳~2歳)を担当する保育者8名に質問紙調査を行った。質問紙は自由記述方式で,質問項目として,この半年間で気になった子どもの 1.気になる様子・姿の具体的な内容,2.保育者にとってその様子や姿がどうして気になるのか,3.その様子や姿に対してどのように配慮したか,の3点について回答を求めた。分析方法としては自由記述された内容を調査者がKJ法を参考にして分析し,乳児保育に関心を持つ心理学研究者1名と福祉学研究者1名と結果の妥当性を検討した。
調査2:2013年3月~14年2月を調査期間,並びに2014年12月を追加調査期間として,調査1に協力した保育者を対象とし,質問紙の自由記述内容について詳細に聞き取ることを目的に,非構造化面接法によるインタビュー調査を行った。そのデータを逐語録に起こし,その結果を修正版グランデッド・セオリーアプローチ:M-GTA(木下, 2003; 2007)を用いて分析し,結果図を作成した。
結 果
調査1:自由記述の内容は①障害の疑い:何らかの障害を疑っていることがうかがわれるもの,②発達の遅れ:障害というよりも発達の遅れとして捉えているもの,③家庭環境:家庭の環境が気になる姿・様子の主原因と考えているもの,④個体差:発達よりもある具体的な行動が気になっているもの,の4点に整理された(重複あり)。
調査2:M-GTAの分析過程で生成された概念は37に上ったが,削除や統合を繰り返した結果,24の概念に落ち着き,①保育者個人の認識,②保育者集団の認識,③結論的な語り,という3つのカテゴリーと,それぞれのカテゴリーの内部で合わせて4つのサブカテゴリーが生成された(Figure 1)。
また子どもが気になるプロセスにおいて重要な概念は保育者個人で抱えていた気になる点を同僚と共有し合う「同僚との共有」であると分析できた。
考 察
調査1における①②④は調査2における〈気になる子に対するイメージ〉,③は〈保護者に対するイメージ〉に関連していると思われる。重要なのは「気になる」と表現されるためには同僚との共有を経ている点で,気になる子として表現される場合,気になるとして挙げるだけの確信が保育者集団にすでに形成されていることである。単に「気になる」のではなく,配慮すべき対象として「気になる」のである。美馬(2012)は気になる子という表現は日常の保育用語ではなく,発達障害との関連で使用される実態を指摘したが,その背景には「気になる」と他者に表現した時点で配慮が必要という認識がすでに生じているからと思われる。このことから,心理学の専門家が現場で支援する際には,保育者が子どもと家庭に注目しがちになる点,それも確信に近いということを受けとめつつ,外部の視点で保育環境やプログラムに関連する可能性も捉えながら,具体的な配慮の内容を保育者とともに考える必要性がある。
備考:本研究の調査方法にかんしては,愛知県立大学研究倫理審査委員会の審査を受け,許可を得ている
保育現場における「気になる子」の相談事例の報告や研究で取り上げられる子どもは,多くの場合,クラス集団が形成され始め,対人関係の問題が顕在化しやすい3歳児以上の幼児期が中心である。しかし保育者の多くは乳児期に違和感を覚えている(倉掛・増田, 2008; 田中, 2012)。結果,療育現場では初診の年齢は2,3歳が中心と低年齢化し,園からの紹介が増加していると指摘されている(宮嶋, 2012)。ただ,「気になる子」は保育の環境設定でも生み出されるのに,発達障害という子どもの発達要因だけで捉えられ,不適切に対応される危険性についても懸念されている(赤木・岡村, 2013)。とはいえ,保育者はなぜ子どもを「気になる」対象として捉えるのか,という問題に対して保育者の認識を対象に分析した研究は少なく,発達相談でも障害を念頭に気になる子を捉える現状が見受けられる。本研究では上記のような問題意識から,違和感を覚える乳児期に保育で気になる子どもについての保育者の語りを分析対象として,その認識の心理過程を質的に明らかにすることを目的とした。
方 法
調査1:2013年3月から5月を調査期間,並びに2014年12月を追加調査期間として,3園の保育所で乳児保育(0歳~2歳)を担当する保育者8名に質問紙調査を行った。質問紙は自由記述方式で,質問項目として,この半年間で気になった子どもの 1.気になる様子・姿の具体的な内容,2.保育者にとってその様子や姿がどうして気になるのか,3.その様子や姿に対してどのように配慮したか,の3点について回答を求めた。分析方法としては自由記述された内容を調査者がKJ法を参考にして分析し,乳児保育に関心を持つ心理学研究者1名と福祉学研究者1名と結果の妥当性を検討した。
調査2:2013年3月~14年2月を調査期間,並びに2014年12月を追加調査期間として,調査1に協力した保育者を対象とし,質問紙の自由記述内容について詳細に聞き取ることを目的に,非構造化面接法によるインタビュー調査を行った。そのデータを逐語録に起こし,その結果を修正版グランデッド・セオリーアプローチ:M-GTA(木下, 2003; 2007)を用いて分析し,結果図を作成した。
結 果
調査1:自由記述の内容は①障害の疑い:何らかの障害を疑っていることがうかがわれるもの,②発達の遅れ:障害というよりも発達の遅れとして捉えているもの,③家庭環境:家庭の環境が気になる姿・様子の主原因と考えているもの,④個体差:発達よりもある具体的な行動が気になっているもの,の4点に整理された(重複あり)。
調査2:M-GTAの分析過程で生成された概念は37に上ったが,削除や統合を繰り返した結果,24の概念に落ち着き,①保育者個人の認識,②保育者集団の認識,③結論的な語り,という3つのカテゴリーと,それぞれのカテゴリーの内部で合わせて4つのサブカテゴリーが生成された(Figure 1)。
また子どもが気になるプロセスにおいて重要な概念は保育者個人で抱えていた気になる点を同僚と共有し合う「同僚との共有」であると分析できた。
考 察
調査1における①②④は調査2における〈気になる子に対するイメージ〉,③は〈保護者に対するイメージ〉に関連していると思われる。重要なのは「気になる」と表現されるためには同僚との共有を経ている点で,気になる子として表現される場合,気になるとして挙げるだけの確信が保育者集団にすでに形成されていることである。単に「気になる」のではなく,配慮すべき対象として「気になる」のである。美馬(2012)は気になる子という表現は日常の保育用語ではなく,発達障害との関連で使用される実態を指摘したが,その背景には「気になる」と他者に表現した時点で配慮が必要という認識がすでに生じているからと思われる。このことから,心理学の専門家が現場で支援する際には,保育者が子どもと家庭に注目しがちになる点,それも確信に近いということを受けとめつつ,外部の視点で保育環境やプログラムに関連する可能性も捉えながら,具体的な配慮の内容を保育者とともに考える必要性がある。
備考:本研究の調査方法にかんしては,愛知県立大学研究倫理審査委員会の審査を受け,許可を得ている