[PD077] 大学生の知的障害のある児童生徒に対する教師効力感の検討
Keywords:特別支援教育, 大学生, 教師効力感
はじめに
教員養成課程では,特別支援教育の専門性を高めることが課題となっている。その一つとして,知的障害のある児童生徒に対する教師効力感(知的障害児対応教師効力感)を促すことが重要だと考えられる。本研究では,特別支援教育を専攻する大学生1年生と4年生を比較し,在学中に知的障害児対応教師効力感をどのように高めるのかについて検討を行う。
方 法
1.対象者 国立大学法人A大学の教員養成課程で特別支援教育を専攻する大学生101名であった。内訳は,1年生58名(男性11名,女性47名),4年生43名(男性7名,女性36名)であった。2.調査内容 知的障害児対応教師効力感の調査に用いた尺度は「知的障害のある児童生徒の成績が良くなったとき,それは,自分の教え方が功を奏したからだ」「自分が一生懸命やれば,非常に難しい,あるいはやる気のない知的障害のある児童生徒でも指導できる」などの9項目から構成された。質問紙には,尺度の他に「あなたが教師として就職したとして,最初の1,2年間の自分を予想して,あなたの考え方にあてはまるかどうか判断してください」といった教示文が記された。これを調査者が口頭で読み上げ,十分に理解できたか確認をした後に評定を求めた。評定は「非常にあてはまる」から「まったくあてはまらない」の7段階で行い,「非常にあてはまる」の回答から順に7~1点で得点化された。
結 果
1.知的障害児対応教師効力感尺度の分析 因子分析(最尤法,プロマックス回転)を実施した結果,Table 1に示すような2因子構造が見出された(累積寄与率51.1%)。第1因子は寄与率28.08%(固有値2.61)であり,「授業中に,知的障害のある児童生徒が騒いだり,授業の妨害をしたりしたとき,自分は素早く効果的に対応できる」「学習課題が知的障害のある児童生徒にとって難しいと思われたとき,常に自分は彼らのレベルに合った課題に切り替えている」などの項目に高い因子負荷量を示している。これらは指導が難しい状況において,適切に対応できるかに関する効力感を測定していると考えられたので,「指導困難対応教師効力感」とした。第2因子の寄与率は23.02%(固有値2.07)で「知的障害のある児童生徒の成績が良くなったとき,それは,自分の教え方が功を奏したからだ」「知的障害のある児童生徒が普段よりもいい点数を取ったとき,それは自分がその概念を教えるのに必要な手立てを施したからだ」などの項目が因子負荷量が高かった。これらの項目は,適切な指導をやり遂げることに関する効力感を測定していると推定し,「指導遂行教師効力感」とした。また,これらの尺度のα係数は,「指導困難対応教師効力感」.83,「指導遂行教師効力感」.79であった。知的障害児対応教師効力感尺度における「指導困難対応教師効力感」に高い因子負荷量を示した5項目,「指導遂行教師効力感」では4項目の平均値をそれぞれ指導困難対応教師効力感得点,指導遂行教師効力感得点とした。2.知的障害児教師効力感の学年差 指導困難対応教師効力感得点では,4年生が1年生よりも有意に得点が高かった(F (1, 99)=13.80, p<.01)。一方,指導遂行教師効力感得点では,学年の間に有意差はみられなかった(F (1, 99)=1.24, n.s.)。
考 察
本研究の結果から,4年生は1年生よりも,知的障害児の指導がより困難な状況において,対応できるという効力感を高めている可能性が示された。4年生は,大学の講義や教育実習,ボランティアを通して,実践的知識やスキルを習得してきたことが影響したと考えられる。他方,知的障害児に対して適切な指導を行うことができるという効力感に学年差がないことは,4年生が学習経験を通し,教師としての自己理解を深め,客観的に自分の実践的知識やスキルを捉えることができたからだと推察する。今後,実際の知識やスキル,性格面の相違の影響について検討を加える予定である。
付 記
科学研究費補助金・基盤研究(C)(No. 25381302,研究代表者鳥海順子)の補助を受けて実施されました。
教員養成課程では,特別支援教育の専門性を高めることが課題となっている。その一つとして,知的障害のある児童生徒に対する教師効力感(知的障害児対応教師効力感)を促すことが重要だと考えられる。本研究では,特別支援教育を専攻する大学生1年生と4年生を比較し,在学中に知的障害児対応教師効力感をどのように高めるのかについて検討を行う。
方 法
1.対象者 国立大学法人A大学の教員養成課程で特別支援教育を専攻する大学生101名であった。内訳は,1年生58名(男性11名,女性47名),4年生43名(男性7名,女性36名)であった。2.調査内容 知的障害児対応教師効力感の調査に用いた尺度は「知的障害のある児童生徒の成績が良くなったとき,それは,自分の教え方が功を奏したからだ」「自分が一生懸命やれば,非常に難しい,あるいはやる気のない知的障害のある児童生徒でも指導できる」などの9項目から構成された。質問紙には,尺度の他に「あなたが教師として就職したとして,最初の1,2年間の自分を予想して,あなたの考え方にあてはまるかどうか判断してください」といった教示文が記された。これを調査者が口頭で読み上げ,十分に理解できたか確認をした後に評定を求めた。評定は「非常にあてはまる」から「まったくあてはまらない」の7段階で行い,「非常にあてはまる」の回答から順に7~1点で得点化された。
結 果
1.知的障害児対応教師効力感尺度の分析 因子分析(最尤法,プロマックス回転)を実施した結果,Table 1に示すような2因子構造が見出された(累積寄与率51.1%)。第1因子は寄与率28.08%(固有値2.61)であり,「授業中に,知的障害のある児童生徒が騒いだり,授業の妨害をしたりしたとき,自分は素早く効果的に対応できる」「学習課題が知的障害のある児童生徒にとって難しいと思われたとき,常に自分は彼らのレベルに合った課題に切り替えている」などの項目に高い因子負荷量を示している。これらは指導が難しい状況において,適切に対応できるかに関する効力感を測定していると考えられたので,「指導困難対応教師効力感」とした。第2因子の寄与率は23.02%(固有値2.07)で「知的障害のある児童生徒の成績が良くなったとき,それは,自分の教え方が功を奏したからだ」「知的障害のある児童生徒が普段よりもいい点数を取ったとき,それは自分がその概念を教えるのに必要な手立てを施したからだ」などの項目が因子負荷量が高かった。これらの項目は,適切な指導をやり遂げることに関する効力感を測定していると推定し,「指導遂行教師効力感」とした。また,これらの尺度のα係数は,「指導困難対応教師効力感」.83,「指導遂行教師効力感」.79であった。知的障害児対応教師効力感尺度における「指導困難対応教師効力感」に高い因子負荷量を示した5項目,「指導遂行教師効力感」では4項目の平均値をそれぞれ指導困難対応教師効力感得点,指導遂行教師効力感得点とした。2.知的障害児教師効力感の学年差 指導困難対応教師効力感得点では,4年生が1年生よりも有意に得点が高かった(F (1, 99)=13.80, p<.01)。一方,指導遂行教師効力感得点では,学年の間に有意差はみられなかった(F (1, 99)=1.24, n.s.)。
考 察
本研究の結果から,4年生は1年生よりも,知的障害児の指導がより困難な状況において,対応できるという効力感を高めている可能性が示された。4年生は,大学の講義や教育実習,ボランティアを通して,実践的知識やスキルを習得してきたことが影響したと考えられる。他方,知的障害児に対して適切な指導を行うことができるという効力感に学年差がないことは,4年生が学習経験を通し,教師としての自己理解を深め,客観的に自分の実践的知識やスキルを捉えることができたからだと推察する。今後,実際の知識やスキル,性格面の相違の影響について検討を加える予定である。
付 記
科学研究費補助金・基盤研究(C)(No. 25381302,研究代表者鳥海順子)の補助を受けて実施されました。