日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE016] 協働学習認識と学校への適応感との関連

中学生・高校生の学校段階差に着目して

石橋太加志 (東京大学教育学部附属中等教育学校)

キーワード:協働学習, 学校への適応感, 中等教育

問題と目的
近年,生徒が積極的にお互いの考えを出し合い,学び合う授業づくりが高まっている(松尾・丸野,2007)。中等教育において授業にこうした協働学習を導入することで,どのような効果が得られるかの研究は十分ではない。石橋・千葉・橋本・細矢・南澤・秋田・小国・小玉(2014)は,教師への記述調査から協働学習の有効な観点を概念化し報告しているが,その中の一つに生徒の人間関係や情緒の安定など,学校への適応を挙げている。本研究では,中等教育の生徒を対象とし,学校段階別に協働学習をどのように認識するかによって,学校への適応感との関連についての検討を目的とする。
方 法
質問紙の構成(1)協働学習認識尺度:石橋(2015)が作成した協働学習認識尺度を用いた。この尺度は生徒が協働学習をどのように認識しているかを測る尺度で,「協働効用感」,「協働不満足感」,「協働不必要感」,「協働期待感」の4因17項目からなる。回答形式は,「全くそう思わない」(1点)~「とてもそう思う」(5点)までの5件法である。「協働効用感」得点,「協働不満足感」得点,「協働不必要感」得点,「協働期待感」得点は,各因子に含まれる項目得点の和を項目数で除したものである。(2)学校への適応感尺度:学校への適応感尺度(大久保,2005)を用いた。「居心地の良さの感覚」,「課題・目的の存在」,「被信頼・受容感」,「劣等感の無さ」の4因子30項目からなる尺度であり,中学生,高校生,大学生を調査対象として,開発されているものである。回答形式は,「全くあてはまらない」(1点)~「非常によくあてはまる」(5点)までの5件法である。大久保(2005)にならい,各因子に含まれる項目の得点を合計し,それぞれ「居心地の良さの感覚」得点,「課題・目的の存在」得点,「被信頼・受容感」得点,「劣等感の無さ」得点とした。
調査対象者 都内中学生314名(男子152名,女子162名),都内高校生320名(男子158名,女子162名)の計634名が調査に参加した。そのうち,欠損値28名を除く,中学生296名(男子139名,女子157名),高校生310名(男子153名,女子157名)の計606名のデータを採用した。
結果と考察
協働学習認識尺度と学校への適応感との相関係数を算出した(Table1)。その結果,学校への適応感の各下位尺度得点は,「協働効用感」と「協働期待感」とに有意な正の相関が認められ,「協働不満足感」と「協働不必要感」とに有意な負の相関が認められた。
協働学習の認識が中高生の学校への適応感の各側面にどのように影響しているかを検討するため,学校への適応感尺度の各下位尺度得点を目的変数,協働学習の各因子得点を説明変数として強制投入法による重回帰分析を学校段階別に行った(Table2,Table3)。
「居心地の良さの感覚」得点では,中高ともに「協働期待感」から有意な正の影響がみられた。さらに,中学では「協働不必要感」が有意な負の影響がみられ,高校では「協働効用感」に有意な正の影響がみられた。「課題・目的の存在」得点では,中高ともに「協働効用感」,「協働期待感」から有意な正の影響,「協働不必要感」から有意な負の影響がみられた。「被信頼・受容感」得点では,中高ともに「協働期待感」から有意な正の影響に加え,中学だけは「協働不必要感」から有意な負の影響がみられた。「劣等感の無さ」得点では,中学は「協働期待感」から有意な正の影響,「協働不満足感」「協働不必要感」から有意な負の影響がみられたのに対し,高校は「協働効用感」から有意な正の影響がみられた。
学校への適応感尺度の各下位尺度得点では,協働学習認識の各因子得点からみられる有意な影響は,「課題・目的の存在」得点を除き中学と高校で異なっており,発達段階によるものか,協働学習を重ねる年数が多くなるにつれて,有意な影響が変化している可能性がある。