日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE022] 教職課程「児童生徒指導論」における取り組みに関する一考察

石隈・田村式援助チームシートの活用

撹上哲夫 (東洋大学大学院)

キーワード:児童生徒指導論, 石隈・田村式援助チームシート, 自助資源

問題と目的
これまで教職課程「生徒指導論」は,児童・生徒理解,教育相談,生徒指導,進路指導,学級経営等様々な分野を15コマ(2単位)の限られた時間の中で包括的に展開しなければならず,総花的な内容となることが多かった。発表者が関わるT大学での「児童生徒指導論」では,平成26年度,学校現場の問題により対応したシラバスを作成した。その授業のコンセプトは,学生が「教師側」の立場から,生徒指導を考え,実践的な指導力の基礎を理解,習得させることにあった。そこで本研究では,「石隈・田村式援助チームシート」(以下「シート」)を活用した授業から,教職を目指す学生が,チームで子どものいいところ,強いところを発見するチーム支援の方法を知る授業を行った。学生が記した「シート」を分析し,学生が,子どものいいところ,強いところに目を向けるようになったか,その変容を調査した。
「シート」には,1知的能力・学習面 2言語面,運動面 3心理・社会面 4健康面 5生活面,進路面の5領域が横軸にあり,Aいいところ(子どもの自助資源)B気になるところ(援助が必要なところ)Cしてみたこと Dこの時点での目標と援助方針 E援助案 など縦軸に並べられており,苦戦している子どもの現状と援助が合理的に記録できるようになっている。本研究では,A子どものいいところ B子どもの気になるところに着目し,学生が子どもの得意なこと,すきなことを知ることで子どもを援助する糸口が見つかることを「シート」より理解できることを目的とした。
方法
平成26年度都内私立T大学における「児童生徒指導論」のうち,本研究に関わる授業で扱った第9~11回「児童理解 チーム支援の方法」。受講者数は,教育学部2年生139名(2クラス),社会福祉学部3年生9名(1クラス)。
「シート」の活用方法を講義したのち,アニメ「ちびまる子ちゃん」を視聴後,各自シートに書き込み,グループディスカッションを通して,主人公の支援策を考察させた。次時で,さらに別内容の番組を視聴し,別角度から主人公の支援策を重層的にとらえるようにさせた。「シート」の作成を習熟した後,演習問題(発達障害が疑われるA君の記録文)を提示し,学生が多様な児童の見方が育成されたか分析した。最後に,「シート」の活用に関するアンケートを取り,今後の課題を検討した。
結果と考察
【学生が書き込んだシートの分析「A君の記録文」より】
1知的能力・学習面
知的能力・学習面の書き込みを見ると,子どものいいところに着目をした学生が89.8%,気になるところに着目したのは100%であった。このことから,学習面では,子どものマイナス面を見る傾向が強かった。
2言語・運動面
言語・運動面でも,子どもの「いいところ」に着目をした学生は63.5%,「気になるところ」に着目をした学生が97.9%であった。
3心理・社会面
心理・社会面では,子どもの「いいところ」に着目した学生は52.7%,「気になるところ」に着目した学生は98.6%であり,子どもの負の面を考える傾向があった。
4健康面
健康面では,子どもの「いいところ」に着目した学生は,55.4%,「気になるところ」に着目した学生は28.3%で,ここでは子どものプラス面を考える傾向があった。
5生活面,進路面
生活面,進路面では,子どもの「いいところ」に着目した学生は,88.5%,「気になるところ」に着目した学生が68.2%であった。

学生は,学習面や心理面では子どものマイナス面に着目し,健康,生活面ではプラス面に着目をする傾向がある。自助資源としての「よいところ」を見る見方が本授業を通して少しずつ育成されてきたが,さらに子どもの良いところに目を向ける必要がある。将来教職に就く学生は,子どもの「よいところ」を評価することで,苦戦している子どもを解決する糸口となり,多様な子ども観を持つことができる。「シート」は,学生が,子どもの見方の広がりを促す授業方法であることが実証された。