日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE027] 誤答を説明することとその効果

割合の問題を用いて

小林寛子 (東京未来大学)

キーワード:説明, 誤答, 割合

問題と目的
テキスト読解時に,学習者にその内容を説明させると,テキストが示す正しいモデルと学習者のもつ誤ったメンタルモデルとの違いに対する気づきが生じ,メンタルモデルの修正が促されると言う(Chi, 2000)。また,Siegler(1995)は,テキストの代わりに知識レベルの高い人の考えを説明させる効果についても検討を行った。結果,保存課題の正解を示されてそうなる理由を説明した群は,自らが誤答を導出する理由を説明した群よりも保存概念の理解が進んだことが示されている。
他方,誤答を説明することの有効性を主張する論文も多い。例えば,市川(1998)の提唱する「教訓帰納」では,特に問題を解いて間違ってしまった場合に,間違いの原因と対処法を教訓として言語化しておくことが,後の類似問題の解決を促すと指摘されている。
Siegler(1995)と市川(1998)の見解の矛盾は,誤答が間違いであることに気づくか否か,また,その理由を判断する材料の有無という点に起因する可能性が考えられる。この問題について,本研究では,割合の第3用法の文章題を学習課題とし,誤った考えをもつ学習者を対象として検討を行った。具体的には,対象者を,説明を求める内容が誤答か正答かに分け,各群の作成する説明は,割合の第3用法の文章題を解説するテキストを読む前後でどのように変化するのか,また,割合に関する理解はどのように進むのかを検討することを目的とした。
方法
対象者の選定:大学生137名に,割合の問題を解かせた。そして,「バーゲンでTシャツを買いました。20%引きだったので,1880円で買えました。このTシャツのもとの値段はいくらでしょう」といった第3用法の文章題に対し,「1880×(1+0.2)」といった考えを示した40名を抽出した。
条件と手続き:①説明1回目:抽出した40名を,上記問題に「あなたは1880×(1+0.2)と解答した」と示される群(自分の誤答群),「ゆりこさんは1880×(1+0.2)と解答した」と示される群(他者の誤答群),「ゆりこさんは1880÷(1-0.2)と解答した」と示される群(他者の正答群)の3群に分けた1。いずれの群にも,示された解答の正誤判断とそう判断する理由の説明を求めた。②テスト1回目:割合の第3用法の文章題2問と,転移問題として,「もとにする量が異なるとその○%の量も異なる」ことの理解を問う問題を1問出題した。③解説:割合の第3用法の文章題を解説するテキストを与えた。テキストには,割合の公式と「もとにする量はどれか」を考える重要性が示されている。④説明2回目・⑤テスト2回目:解説後に改めて,説明1回目・テスト1回目と同様のことを求めた。⑥テスト3回目:テスト2回目の2・3週間後に,遅延テストとして,テスト1・2回目と同様の内容を実施した。
結果と考察
説明1・2回目に判断理由として挙げられた内容と,テスト1・2・3回目の文章題・転移問題各々の解答を評価した(Table 1)。
各評価点について,群×時期の,時期を対象者内要因とする二要因混合計画分散分析を実施した。説明については,交互作用が見られ(p<.10),単純主効果を分析した結果,自分の誤答群と他者の誤答群において1回目より2回目の点数が高かった。したがって,割合の第3用法の文章題において誤答が間違いであると判断するためには,割合の公式や「もとにする量はどれか」を考える重要性を教示する必要があることが示された。
一方,文章題や転移問題には交互作用は見られなかった。文章題では,時期の主効果が有意(p<.10)であり,割合の第3用法の文章題解決は,その解説によって促されていた。また,転移問題では,群の主効果が有意であり(p<.10),「もとにする量が異なるとその○%の量も異なる」ことの理解は,その理解の不十分さに起因する文章題の誤答を提示され,説明しようと試みることで促されていた。
1 誤答を対象者自身の考えとして示す場合と,他者の考えとして示す場合に分けたのは,他者の考えの方が誤りに気づきやすいという知見(e.g., 清河ら,2004)を考慮したためである。