[PE033] 予備校生の学習観
自由記述調査による探索的研究
キーワード:予備校生, 学習観
問 題
大学受験を目指して学習をしている予備校生(本研究では,高校卒業または同程度の生徒を対象とした全日制の専修学校一般課程に所属する生徒とする)は,どのような学習観をもって学習をしているのだろうか。植木(2002)は,高校生を対象に学習観の構造を検討する中で,環境志向,方略志向,学習量志向の3つの学習観を抽出した。たしかに,年齢やそれまでの学習経験が高校生と近い予備校生は,高校生のもつ学習観と同じような学習観をもつと考えられる。しかし,予備校は高校までの学校教育とは大きく違う環境であり,学習の目標が大学受験という明確なものであることや,短期間の在籍期間であることなどを考えると,生徒のもつ学習観も違ったものになると考えられる。本研究では,予備校生がもつ学習観を探索的に研究し,今後の研究の基礎的資料を得ることを目的とした。
方 法
調査対象:東北地区の予備校の通学する生徒91名
調査内容:「あなたが効果的だと思う学習方法について自由に思いつくだけ書いてください。実際にあなたが行っているかいないかは関係ありません。」という質問に対して,自由記述を求めた。
結 果
調査対象91名全員からの回答が得られた。また記述された回答数は181で,一人当たり平均1.99個(1~5個)の記述が得られた。「プライドが高すぎない」「将来役に立つ」「入試に受かることができる」のような,学習方法の記述と理解できない回答を除外し,質問文に対して回答していると読み取れる回答のみを分析対象とした。除外した回答数は5個だった。その後,回答を内容的に関連のあるものにカテゴリー化した。分析にあたっては,大学院で心理学を専攻している現職の予備校講師に協力をしてもらい,分析内容の妥当性を高めた。
分析の結果,予備校生のもつ学習観として,大きく二つのカテゴリーが抽出された。一つ目のカテゴリーは,「ポジティブにものを考える」「勉強そのものに楽しみを感じる」「学習することが将来役立つと考えて学習する」「目的を考えて学習する」のようなサブカテゴリーからなるものだった。このカテゴリーでは,生徒が効果的な学習方法を,「…と考える(ことによって効果的に学習が進む)」と考えているもののまとまりとして捉えた。つまり,生徒が「…である」と考えることによって,学習に対するモチベーションをあげ,学習が効果的に進むと考えていることがうかがわれるということである。もう一つのカテゴリーは,「まずは量より質」「関連づけた学習をする」「時間の使い方を工夫する」「反復する」などの具体的な学習方法を述べた回答群からなるサブカテゴリーからなっていた。また,各カテゴリーを【モチベーション志向】,【方略志向】と名付けた。なお,【モチベーション志向】のカテゴリーに入った回答数(記述数)は全体の回答数の23.6%,【方略志向】のカテゴリーに入った回答数は,全体の71.1%だった。その他の回答はいずれのカテゴリーにも分類できず,また,別のカテゴリーをつくるものでもなかった。
考 察
本研究では,予備校生が持つ学習観を探索的に検討すべく,自由記述によって予備校生に「効果的な学習方法とはどのようなものか」について回答を求めた。その結果,【モチベーション志向】【方略志向】の二つの学習観が抽出された。【方略志向】について,本研究では,学習者が何らかの学習方法を使うことによって効果的な学習ができる」という学習観として,植木(2002)で指摘された学習観である「方略志向」よりも広い概念として捉えた。このカテゴリーの中には分析回答数の7割の回答が入っていて,その内容も多岐に渡るため,より詳細な分析が必要となると考える。また,本研究では【モチベーション志向】が抽出されたが,これは予備校生が「…のように考えることで学習がうまくいく」と考えていることを示していて,これは,実質的な学習方法との結びつきが薄く,学習効果が表れにくい学習観の一つであると考えられる。今後は,回答のより詳細な分析をするとともに,予備校生の学習観を測定する尺度の開発などをしていきたい。
引用文献
植木理恵 2002 高校生の学習観の構造,教育心理学研究,50,301-310.
大学受験を目指して学習をしている予備校生(本研究では,高校卒業または同程度の生徒を対象とした全日制の専修学校一般課程に所属する生徒とする)は,どのような学習観をもって学習をしているのだろうか。植木(2002)は,高校生を対象に学習観の構造を検討する中で,環境志向,方略志向,学習量志向の3つの学習観を抽出した。たしかに,年齢やそれまでの学習経験が高校生と近い予備校生は,高校生のもつ学習観と同じような学習観をもつと考えられる。しかし,予備校は高校までの学校教育とは大きく違う環境であり,学習の目標が大学受験という明確なものであることや,短期間の在籍期間であることなどを考えると,生徒のもつ学習観も違ったものになると考えられる。本研究では,予備校生がもつ学習観を探索的に研究し,今後の研究の基礎的資料を得ることを目的とした。
方 法
調査対象:東北地区の予備校の通学する生徒91名
調査内容:「あなたが効果的だと思う学習方法について自由に思いつくだけ書いてください。実際にあなたが行っているかいないかは関係ありません。」という質問に対して,自由記述を求めた。
結 果
調査対象91名全員からの回答が得られた。また記述された回答数は181で,一人当たり平均1.99個(1~5個)の記述が得られた。「プライドが高すぎない」「将来役に立つ」「入試に受かることができる」のような,学習方法の記述と理解できない回答を除外し,質問文に対して回答していると読み取れる回答のみを分析対象とした。除外した回答数は5個だった。その後,回答を内容的に関連のあるものにカテゴリー化した。分析にあたっては,大学院で心理学を専攻している現職の予備校講師に協力をしてもらい,分析内容の妥当性を高めた。
分析の結果,予備校生のもつ学習観として,大きく二つのカテゴリーが抽出された。一つ目のカテゴリーは,「ポジティブにものを考える」「勉強そのものに楽しみを感じる」「学習することが将来役立つと考えて学習する」「目的を考えて学習する」のようなサブカテゴリーからなるものだった。このカテゴリーでは,生徒が効果的な学習方法を,「…と考える(ことによって効果的に学習が進む)」と考えているもののまとまりとして捉えた。つまり,生徒が「…である」と考えることによって,学習に対するモチベーションをあげ,学習が効果的に進むと考えていることがうかがわれるということである。もう一つのカテゴリーは,「まずは量より質」「関連づけた学習をする」「時間の使い方を工夫する」「反復する」などの具体的な学習方法を述べた回答群からなるサブカテゴリーからなっていた。また,各カテゴリーを【モチベーション志向】,【方略志向】と名付けた。なお,【モチベーション志向】のカテゴリーに入った回答数(記述数)は全体の回答数の23.6%,【方略志向】のカテゴリーに入った回答数は,全体の71.1%だった。その他の回答はいずれのカテゴリーにも分類できず,また,別のカテゴリーをつくるものでもなかった。
考 察
本研究では,予備校生が持つ学習観を探索的に検討すべく,自由記述によって予備校生に「効果的な学習方法とはどのようなものか」について回答を求めた。その結果,【モチベーション志向】【方略志向】の二つの学習観が抽出された。【方略志向】について,本研究では,学習者が何らかの学習方法を使うことによって効果的な学習ができる」という学習観として,植木(2002)で指摘された学習観である「方略志向」よりも広い概念として捉えた。このカテゴリーの中には分析回答数の7割の回答が入っていて,その内容も多岐に渡るため,より詳細な分析が必要となると考える。また,本研究では【モチベーション志向】が抽出されたが,これは予備校生が「…のように考えることで学習がうまくいく」と考えていることを示していて,これは,実質的な学習方法との結びつきが薄く,学習効果が表れにくい学習観の一つであると考えられる。今後は,回答のより詳細な分析をするとともに,予備校生の学習観を測定する尺度の開発などをしていきたい。
引用文献
植木理恵 2002 高校生の学習観の構造,教育心理学研究,50,301-310.