The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PE

Thu. Aug 27, 2015 1:30 PM - 3:30 PM メインホールA (2階)

[PE038] 学習課題の利用価値教授が誘惑時の学習行動に及ぼす影響の実験的検討

中西満悠1, 中谷素之2 (1.株式会社システムリサーチ, 2.名古屋大学大学院)

Keywords:誘惑時の学習, 利用価値, 実験

【問題と目的】
近年,学業場面における我慢強さや誘惑対処などといった,優れた学業達成を促すための自己制御行動の検討が進められている。
学習に対する我慢強さについて,様々な規定要因があげられる中,直面する課題に関する学習者の認知の影響が注目されている。先行研究では,「将来役に立つ」という課題への価値づけを示す利用価値が,将来的な学業達成という報酬のために即時的な誘惑を退ける影響力をもつことが明らかにされている(e.g., Bembenutty, 2004; Bembenutty, 2009)。
ただし,これまでの研究では実証的検討はほとんどなされていなかったため,認知と行動の具体的な関係性には検討の余地がある。よって本研究では,大学生を対象に,コメディという誘惑を目の前にした環境で学習課題をさせる実験を行った。そのような環境下で,課題の利用価値を操作し,学習行動がどのように影響をうけるかを検討した。
【方 法】
調査対象 東海地方の国立大学1校に在籍する1~3年生42名(男性16名,女性26名, 平均年齢19.26(SD=0.89))。利用価値教授条件22名・統制条件20名であった。課題の性質上,参加者は教育学部・法学部・文学部に限定した。
手続き 「ながら学習が課題の取りくみとやる気に及ぼす効果の検討」と称して個別に実験を行った。まず,課題の内容について説明した。この際,利用価値教授条件の参加者にのみ,課題の将来的な有用性について教授した。その後,情動状態を安定させ,目の前で無声コメディが流れ続ける中で課題に取り組ませた。最後に振り返りの質問紙に回答させ,デブリーフィングを行った。
課題 経済学理論の専門書(荒井, 2012)を用意し,指定範囲についての試験勉強という場面を想定した上で,監視者のいない状況で20分間の読書を行わせた。コメディは自由に見ながら行ってよいことを伝えた。
測定変数
1統制変数 課題固有の自己効力感(三宅, 2000),情動状態(PANAS:佐藤・安田, 2001)より
2操作チェック 課題の有用性認知(市原・新井,(2006)の課題価値尺度を参考に作成)
3従属変数 ①学習行動:隠しカメラを用いて「コメディ画面への注視時間」(秒)を計測した。また,「読書量」(頁数)も課題終了後に報告させた。 ②課題および誘惑への意識:課題終了後の質問紙によって「誘惑への意識のなさ」(9件法)・「課題への興味」・「継続意欲」(共に5件法)を報告させた。
※カメラの記録および各質問紙の回答内容は,デブリーフィング後にデータ提供の同意を得た。
【結果と考察】
まず,条件間で課題の取り組みに影響を及ぼしうる心理的変数の差を比較した。その結果,課題固有の自己効力感,情動状態ともに有意差はみられなかった。次に操作チェックの結果,10%水準の有意差で利用価値教授条件の方が統制条件よりも課題の有用性を高く認知していた。
最後に,条件間で,学習行動と課題の取り組みに関する各従属変数の平均値を比較した。その結果,誘惑への意識のなさ・注視時間・読書量に5%水準で有意差がみられた。課題への興味・継続意欲には有意差がみられなかった。
課題の利用価値を教授によって認知した参加者は,統制条件に比べて課題の達成に意識が向き, 誘惑が気にならなかったと考えられる。その結果画面を見ることなく読書に集中し,読書量が多くなったといえる。しかし,課題を面白く感じたり,さらに続けたいと思うような積極的な態度はみられなかった。今後は誘惑の内容や課題の性質についてもさらに検討していく必要がある。