日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE048] 友人に対する価値観と葛藤解決効力感が精神的健康に及ぼす影響

対人ストレスコーピングを媒介とした影響過程の検討

金子功一 (名古屋大学大学院)

キーワード:友人関係, 効力感, ストレスコーピング

【問題と目的】
青年期の友人関係は,個人の適応や精神的健康に影響する重要な側面である(岡田,2007;丹野,2008)。金子・中谷(2015)は,友人との関係における葛藤場面では,友人に対する価値観(以下;価値観)が,友人との葛藤を適切に解決できるという葛藤解決効力感(以下;効力感)を媒介して,自尊感情と友人関係満足感に正の影響を及ぼすことを実証した。そこで本研究では,友人に対する価値観と葛藤解決効力感が,対人ストレスコーピングとどのように関連し,精神的健康に至るかについて検討することを目的とする。
【方 法】
調査時期:2010年9月
調査対象:A県内の大学生96名(男性33名,女性63名;平均年齢20.34(SD=3.08)歳)。
調査内容:①価値観と葛藤解決効力感:金子ら(2015)の各尺度を用いた(価値観は13項目,葛藤解決効力感は6項目)。②対人ストレスコーピング:加藤(2000)の3下位尺度(ポジティブ関係コーピング(16項目),ネガティブ関係コーピング(10項目),解決先送りコーピング(8項目)を用いた。④精神的健康: 心理的ストレス経験頻度尺度(鈴木・嶋田・三浦・片柳・右馬・坂野,1998)の下位尺度の中から抑うつ・不安(6項目)を用いた。評定は全ての尺度において,「1.全くあてはまらない~4.非常にあてはまる」の4段階とした。
【結果と考察】
尺度構成:価値観,葛藤解決効力感,対人ストレスコーピングの各下位尺度,抑うつ・不安において信頼性係数を算出したところα=.73~.87であり,いずれもある程度高い値であった。
相関分析:価値観と葛藤解決効力感と対人ストレスコーピングの各下位尺度,抑うつ・不安とのピアソンの相関係数を算出したところ,価値観は,葛藤解決効力感(r=.45),ポジティブ関係コーピング(.37),ネガティブ関係コーピング(-.38),解決先送りコーピング(-.28)とそれぞれ有意な相関(p<.01)が示された。また,葛藤解決効力感は,ポジティブ関係コーピング(r=.38),ネガティブ関係コーピング(-.30),抑うつ・不安(-.29)とそれぞれ有意な相関(p<.01)が示された。価値観や葛藤解決効力感が高い人は,積極的に友人との関係を修復するようなコーピングを用いていること,葛藤解決効力感の高さは抑うつ・不安を抑制することが示唆された。
パス解析:価値観と葛藤解決効力感の各尺度が,対人ストレスコーピングの各下位尺度を媒介し,抑うつ・不安に及ぼす影響について構造方程式モデリングによるパス解析を行った。モデル内の変数関係は,前の段階の変数すべてが次の段階の変数に影響するパスを予め仮定した上で,5%水準で有意性のみられなかったパスを削除しながら分析を行った。その結果,最終的なモデルの適合度は,GFI=.98,AGFI=.91,CFI=99,RMSEA=.05という値を示した(Figure 1)。葛藤解決効力感は抑うつ・不安を直接抑制していた。また価値観は,ネガティブ関係コーピングと解決先送りコーピングを媒介し,前者は抑うつ・不安を促進し,後者は抑制していた。解決先送りコーピングが精神的健康をもたらすという結果は,加藤(2001)の知見と類似している。さらに,価値観と葛藤解決効力感は関連し,ともにポジティブ関係コーピングを媒介し,抑うつ・不安を高めていた。友人に対する価値観と葛藤解決効力感の高い青年が,友人との葛藤場面において,積極的に修復しようとするコーピングを用いることは,焦るがためにかえって抑うつ・不安を高めるのかもしれない。これらの結果は,青年期の友人関係をとらえる新たな視点であるため,今後は詳細に検討したい。