The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PE

Thu. Aug 27, 2015 1:30 PM - 3:30 PM メインホールA (2階)

[PE055] 学校教育への研究的介入とその継続性についての分析(2)

関係者インタビューを加えた検討

中村雅子 (東京都市大学)

Keywords:介入, 総合的な学習の時間, 地震防災

1.研究の背景と目的
研究者が教育の理論的な観点からデザインした実践は,実際の教育の現場では必ずしもそのまま受け入れられない。そのような場合,研究者と現場との間でネゴシエーションが行われるが,その過程についての定式化は未だ十分ではない。研究が蓄積されない一因として,個々の現場の状況が大きく異なるため,定式化が困難であることが挙げられる。
中村(2008)は,地域連携による学習環境の再デザインの試みとして地震防災学習をテーマに小学校2校および中学校1校において学校側の協力を得て「総合的な学習の時間」の一部としてプロジェクトを実施した。この研究では地域連携ネットワークの安定化と継続も重要な観点であったため,その後も学校側と協議し,学校から継続の要請があった場合はその方向で進めることとしたが,結果として小学校の実践は単年度で終了し,中学校の実践は現在に至るまで毎年行われている。本報告は,この中学校との継続的な協働の成立と変遷についてを検討対象とするものである。
昨年の発表では,研究と現場との双方向で流動的な変化を織り込んだ相互占有モデル(MA:mutual appropriation(Cole & Engeström, 2008; Downing-Wilson, Lecusay & Cole, 2011)について紹介した。これは大学と地域の参加者が,互いのイニシアチブについて,「占有したり,操作したり,寸断したりする試み」として捉えるものであり,今回の中学校と大学研究室の協働について,総合的学習の時間の具体的なカリキュラムの変遷を事例に検討した。
なお中村(2014)では,このような協働による授業展開で,生徒が実際に地震防災について主体的に考え,知識を深めたり伝えたりする力を身につけるという点で成果が高いことが生徒へのアンケート調査等によって確認されている。なお,このプロジェクトは,毎年中学1年生約150名全員を対象として正規授業である「総合的な学習の時間」のうち約30時間を使って実施されている。
2.方法
昨年整理した2007年から2014年まで公立の1中学校を対象として実施されている地震防災をテーマとしたプロジェクトのカリキュラム内容の変遷と,内容の打ち合わせの際に意見交換された前年度の成果や次年度に向けた意見交換に関するメモの検討のほか,今回は協働で関わった中学校の校長およびプロジェクト担当教員計5名(うち2名の聞き取りの一部は研究室学生による),教育委員会指導主事1名,連携先の行政防災担当職員1名からのインタビューデータを加えて,総合的な学習の時間に対する捉え方も含めて検討を進めた。
3.結果と考察
当初の研究者の観点は,地域連携を含んだ実践的な学習環境のデザインにあった。昨年のカリキュラム変遷の検討からは,その点では,中学校の取り組みは現実の社会問題への寄与から「学校的実践」へのシフトと解釈可能であった(まち歩きの訪問先が固定的,前年までの学習成果が次の年に反映されない,地域の課題への提言性が弱まってるなど)。一方で,全体の枠組みを変えない範囲ではあるが,新しい試みを許容する中学校の姿勢が,大学生の研究的な関心からの提案を受け入れるなど,大学側の継続的な関与を支えていることが確認された。
今回の分析からは,①授業に従事する中学校の教員は必ずしも「学校的実践」化を意識しているわけではないこと,②新しい取り組みややり方の変更の際に,従来行って成功経験のある方式を取り入れがちで,結果として「学校的実践」を再生産する傾向があること,③地域とのつながりは望ましいが自分から進んで取り組むにはハードルが高いと感じている教員もいること などが示唆された。