[PE059] 状態感謝と心理的負債の弁別に関する検討
キーワード:状態感謝, 心理的負債, 特性感謝
問題・目的
「感謝」とは,他者の善意によって自己が利益を得ていることを認知することで生じるポジティブな感情であり(Tsang, 2006),特性感謝と状態感謝に区分できる(Watkins et al., 2009)と定義されている。感謝と類似した概念として「心理的負債」がある。心理的負債とは,他者に返報する義務がある状態であり(Greenberg, 1995),他者からの好意や援助に対する負い目の感覚であると定義される(相川・吉森,1995)。
状態感謝と心理的負債は,他者から利益を得たと認知できるときに生じる感情という点が類似しており,規定因を示す式においてもその類似点は明らかである。くわえて,両概念の相関係数は非常に高いとも指摘もされている(e. g. 一言ら, 2008; Tessere et al., 1968)。
状態感謝の規定因(Tesser et al., 1968)
Gratitude=β1 Intentionality+β 2 Value+β 3 Cost
心理的負債の規定因(Greenberg, 1980)
Indebtedness=x1 Benefit+x2 Cost (x1>x2)
状態感謝と心理的負債の研究は,諸外国では操作的定義を用いた両概念の効果の差異に関する研究がなされている(e. g. Watkins, 2006; Tsang, 2006)。いずれの研究も状態感謝と心理的負債は固有な概念であることを前提としているが,その前提自体を実証的に示すことは行われていない。
状態感謝と心理的負債が個々に固有な概念であるならば,状態感謝を感じる個人差である「特性感謝」は,それぞれの概念と異なる関係を持つと考えられる。予測される関係は,特性感謝と状態感謝は有意な関係であり,特性感謝と心理的負債は有意な関係ではないだろう。なお,検討の際,状態感謝の規定因であるとすでに検証されている,他者から受けた利益に対する受益者の主観的評価である「利益の評価」(Wood et al., 2008;吉野・相川,2014)の統制を行う。「利益の評価」は,状態感謝だけでなく心理的負債の規定因と照らし合わせても,一致するものが多いため,心理的負債と強い関係を持つことが予想されるためである。
以上より本研究は,「利益の評価」を統制することにより,特性感謝が状態感謝と心理的負債に及ぼす影響を調査し,状態感謝と心理的負債が異なる概念であることを明らかにすることを目的とする。
方法
調査方法:質問紙法 調査対象者:大学生168名(男性91名・女性76名・不明1名)
質問紙の内容:他者からの受益場面を調査対象者に思い出させ,その出来事について記述しながら質問に回答させた。質問項目は,①受益場面の利益の評価3項目(「価値」,「コスト」,「誠実性」)(Wood et al., 2008),②状態感謝を測定する3項目,③心理的負債を測定する2項目(一言ら,2008),④特性感謝を測定するGQ6(McCullough et al., 2002)6項目であった。
結果・考察
特性感謝が状態感謝と心理的負債に及ぼす影響を検討するために,Amosを用いて共分散構造分析を行った。「利益の評価」,「特性感謝」,「状態感謝」,「心理的負債」の潜在変数を作成し,「利益の評価」と「特性感謝」が「状態感謝」と「心理的負債」を予測する,というモデルの分析を行った(Figure1)。モデルの適合度は,GFI=.935, AGFI=.900, CFI=.987, RMSEA=.044であり,よい適合度を示した。「利益の評価」は,「状態感謝」と「心理的負債」ともに有意な正の関係を示した。「状態感謝」と「心理的負債」は同様の規定因を持つことが明らかになった。
「特性感謝」は,「状態感謝」と有意な正の関係を示し,「心理的負債」とは,有意な関係を示さなかった。「特性感謝」と両概念との関係は,単相関では,それぞれ有意な正の関係を示していたが,「利益の評価」を統制することで,異なる関係を示した。「状態感謝」と「心理的負債」が異なる概念であることが,明らかになった。
「感謝」とは,他者の善意によって自己が利益を得ていることを認知することで生じるポジティブな感情であり(Tsang, 2006),特性感謝と状態感謝に区分できる(Watkins et al., 2009)と定義されている。感謝と類似した概念として「心理的負債」がある。心理的負債とは,他者に返報する義務がある状態であり(Greenberg, 1995),他者からの好意や援助に対する負い目の感覚であると定義される(相川・吉森,1995)。
状態感謝と心理的負債は,他者から利益を得たと認知できるときに生じる感情という点が類似しており,規定因を示す式においてもその類似点は明らかである。くわえて,両概念の相関係数は非常に高いとも指摘もされている(e. g. 一言ら, 2008; Tessere et al., 1968)。
状態感謝の規定因(Tesser et al., 1968)
Gratitude=β1 Intentionality+β 2 Value+β 3 Cost
心理的負債の規定因(Greenberg, 1980)
Indebtedness=x1 Benefit+x2 Cost (x1>x2)
状態感謝と心理的負債の研究は,諸外国では操作的定義を用いた両概念の効果の差異に関する研究がなされている(e. g. Watkins, 2006; Tsang, 2006)。いずれの研究も状態感謝と心理的負債は固有な概念であることを前提としているが,その前提自体を実証的に示すことは行われていない。
状態感謝と心理的負債が個々に固有な概念であるならば,状態感謝を感じる個人差である「特性感謝」は,それぞれの概念と異なる関係を持つと考えられる。予測される関係は,特性感謝と状態感謝は有意な関係であり,特性感謝と心理的負債は有意な関係ではないだろう。なお,検討の際,状態感謝の規定因であるとすでに検証されている,他者から受けた利益に対する受益者の主観的評価である「利益の評価」(Wood et al., 2008;吉野・相川,2014)の統制を行う。「利益の評価」は,状態感謝だけでなく心理的負債の規定因と照らし合わせても,一致するものが多いため,心理的負債と強い関係を持つことが予想されるためである。
以上より本研究は,「利益の評価」を統制することにより,特性感謝が状態感謝と心理的負債に及ぼす影響を調査し,状態感謝と心理的負債が異なる概念であることを明らかにすることを目的とする。
方法
調査方法:質問紙法 調査対象者:大学生168名(男性91名・女性76名・不明1名)
質問紙の内容:他者からの受益場面を調査対象者に思い出させ,その出来事について記述しながら質問に回答させた。質問項目は,①受益場面の利益の評価3項目(「価値」,「コスト」,「誠実性」)(Wood et al., 2008),②状態感謝を測定する3項目,③心理的負債を測定する2項目(一言ら,2008),④特性感謝を測定するGQ6(McCullough et al., 2002)6項目であった。
結果・考察
特性感謝が状態感謝と心理的負債に及ぼす影響を検討するために,Amosを用いて共分散構造分析を行った。「利益の評価」,「特性感謝」,「状態感謝」,「心理的負債」の潜在変数を作成し,「利益の評価」と「特性感謝」が「状態感謝」と「心理的負債」を予測する,というモデルの分析を行った(Figure1)。モデルの適合度は,GFI=.935, AGFI=.900, CFI=.987, RMSEA=.044であり,よい適合度を示した。「利益の評価」は,「状態感謝」と「心理的負債」ともに有意な正の関係を示した。「状態感謝」と「心理的負債」は同様の規定因を持つことが明らかになった。
「特性感謝」は,「状態感謝」と有意な正の関係を示し,「心理的負債」とは,有意な関係を示さなかった。「特性感謝」と両概念との関係は,単相関では,それぞれ有意な正の関係を示していたが,「利益の評価」を統制することで,異なる関係を示した。「状態感謝」と「心理的負債」が異なる概念であることが,明らかになった。