[PE061] 順唱と逆唱に関わる認知機能
キーワード:数唱, ワーキングメモリ, 因子分析
問題と目的
数唱は臨床現場で頻繁に使われる認知機能検査課題であり,ワーキングメモリを測定するとされている。しかし,数唱を構成する順唱と逆唱のそれぞれの検査がどのような認知機能を測っているのかについて,ワーキングメモリ理論に基づいた見解が,知能検査の理論・解釈マニュアルには示されてはいない。
順唱が音韻ループの機能を反映しているのに対し,逆唱では,視空間スケッチパッドの機能を反映しているという考え方がある(St Clair-Thompson & Allen, 2013)。逆唱において,構音リハーサルだけでは数字を逆の順番で再生するのは難しい。効率的に数字を並び替えるために,数字の視覚イメージが使用されていると考えられている。この仮説を踏まえると,刺激の提示モダリティを変えると,順唱,逆唱において使用される認知機能の差が顕著になると考えられる。たとえば,視覚提示の課題は,視覚処理を促すと考えられる。
本研究では,提示モダリティの影響を個人差の要因も含めて検討することで,順唱で主に音韻処理,逆唱では音韻処理に加えて視覚処理が行われている,という視覚イメージ仮説を検証することを目的とする。
実験1 方法
参加者 大学生30名(男性15名,女性15名)が参加した。平均年齢は21.8歳(SD=1.8)であった。
手続き 2(モダリティ)×2(再生方向)の被験者内計画であった。順唱,逆唱の順に実施され,提示モダリティの実施順はカウンターバランスされた。順唱は数字3個,逆唱は2個から開始し,参加者が正答すると数字系列の長さは1増加し,同じ長さの数字系列に2連続で失敗した場合,系列の長さを1減少させた。1つの条件では10試行,全条件で40試行を行った。
採点方法 それぞれの長さの数字リストでの正答率を算出し,順唱では2.5,逆唱では1.5を足して得点とした。
結果と考察
課題得点に対して因子分析を行い(主因子法, バリマクス回転),2因子を抽出した(Table 1)。音韻的処理と相性の良い二つの順唱課題と聴覚提示された逆唱課題の得点への負荷量が高いことから因子1は音韻処理を反映していると考えられる。成人を対象にした研究では,逆唱における視覚イメージの使用は効率的な方略であることが示唆されている(St Clair-Thompson & Allen, 2013)。イメージ方略と相性が良い2つの逆唱課題において負荷量が高い因子2は視覚処理を反映していると考えられる。以上から,それぞれの因子を音韻処理因子,視覚処理因子と命名する。
実験2 目的
因子負荷の差が顕著な視覚提示順唱と視覚提示逆唱での視覚妨害の影響の程度から,因子2が視覚処理を反映するかどうかを検討する。第1実験で得られたデータから視覚処理因子の因子得点が0以上を高群,0未満を低群とする。視覚処理因子の高い高群では,逆唱において視覚妨害の影響を強く受けるはずである。
方法
参加者 第1実験に参加した実験協力者24名(男性13名,女性11名)が再び参加した。
材料 視覚妨害刺激として,Quinn & McConnel (1996)によって開発されたダイナミック・ビジュアル・ノイズ(以下,DVN)を使用した。
手続き 再生段階にDVNが提示される以外は,第1実験の視覚提示条件と同様であった。
結果
因子得点高低を被験者間要因,視覚妨害有無と再生方向を被験者内要因とする3要因分散分析を行った。
分析の結果2次の交互作用が有意だった(F (1, 22)=8.31, MSE= 0.54, p=.01, ηp2=.27)。単純交互作用検定を行ったところ,視覚妨害なしにおける因子得点×再生方向の交互作用が有意だった(F(1, 22)=16.53, p=.00)。単純・単純主効果は,因子得点高群の順唱,低群の順唱,因低群の逆唱において,それぞれで有意に視覚妨害ありの方が高かった(F (1, 22)=14.19, p=.00,ηp2=.392;F (1, 22)=6.44, p=.02, ηp2=.23;F (1, 22)=6.93, p=.02, ηp2=.24)(Figure 1)。一方,因子得点高群の逆唱においては有意ではなかった(F (1, 22)=1.02, p=.32, ηp2=.04)。妨害ありにおいてはこの交互作用は有意でなかった(F (1, 22)=0.04, ,p=.84)。
考察
課題得点に関して視覚処理低群では順唱,逆唱ともに視覚妨害条件では得点が有意に高くなっていた。一方,視覚処理高群では順唱のみ有意に得点が高くなっており,逆唱では差は認められなかった。視覚妨害ありにおける成績向上は,あり条件が全てなし条件の後に実施されたために,実験参加者が課題の手続きや遂行に慣れたことが考えられる。しかし,視覚処理高群における逆唱課題では向上せず,DVNによって視覚処理が妨害されたことが示唆された。因子2が視空間スケッチパッドの機能を反映していることが示唆された。
数唱は臨床現場で頻繁に使われる認知機能検査課題であり,ワーキングメモリを測定するとされている。しかし,数唱を構成する順唱と逆唱のそれぞれの検査がどのような認知機能を測っているのかについて,ワーキングメモリ理論に基づいた見解が,知能検査の理論・解釈マニュアルには示されてはいない。
順唱が音韻ループの機能を反映しているのに対し,逆唱では,視空間スケッチパッドの機能を反映しているという考え方がある(St Clair-Thompson & Allen, 2013)。逆唱において,構音リハーサルだけでは数字を逆の順番で再生するのは難しい。効率的に数字を並び替えるために,数字の視覚イメージが使用されていると考えられている。この仮説を踏まえると,刺激の提示モダリティを変えると,順唱,逆唱において使用される認知機能の差が顕著になると考えられる。たとえば,視覚提示の課題は,視覚処理を促すと考えられる。
本研究では,提示モダリティの影響を個人差の要因も含めて検討することで,順唱で主に音韻処理,逆唱では音韻処理に加えて視覚処理が行われている,という視覚イメージ仮説を検証することを目的とする。
実験1 方法
参加者 大学生30名(男性15名,女性15名)が参加した。平均年齢は21.8歳(SD=1.8)であった。
手続き 2(モダリティ)×2(再生方向)の被験者内計画であった。順唱,逆唱の順に実施され,提示モダリティの実施順はカウンターバランスされた。順唱は数字3個,逆唱は2個から開始し,参加者が正答すると数字系列の長さは1増加し,同じ長さの数字系列に2連続で失敗した場合,系列の長さを1減少させた。1つの条件では10試行,全条件で40試行を行った。
採点方法 それぞれの長さの数字リストでの正答率を算出し,順唱では2.5,逆唱では1.5を足して得点とした。
結果と考察
課題得点に対して因子分析を行い(主因子法, バリマクス回転),2因子を抽出した(Table 1)。音韻的処理と相性の良い二つの順唱課題と聴覚提示された逆唱課題の得点への負荷量が高いことから因子1は音韻処理を反映していると考えられる。成人を対象にした研究では,逆唱における視覚イメージの使用は効率的な方略であることが示唆されている(St Clair-Thompson & Allen, 2013)。イメージ方略と相性が良い2つの逆唱課題において負荷量が高い因子2は視覚処理を反映していると考えられる。以上から,それぞれの因子を音韻処理因子,視覚処理因子と命名する。
実験2 目的
因子負荷の差が顕著な視覚提示順唱と視覚提示逆唱での視覚妨害の影響の程度から,因子2が視覚処理を反映するかどうかを検討する。第1実験で得られたデータから視覚処理因子の因子得点が0以上を高群,0未満を低群とする。視覚処理因子の高い高群では,逆唱において視覚妨害の影響を強く受けるはずである。
方法
参加者 第1実験に参加した実験協力者24名(男性13名,女性11名)が再び参加した。
材料 視覚妨害刺激として,Quinn & McConnel (1996)によって開発されたダイナミック・ビジュアル・ノイズ(以下,DVN)を使用した。
手続き 再生段階にDVNが提示される以外は,第1実験の視覚提示条件と同様であった。
結果
因子得点高低を被験者間要因,視覚妨害有無と再生方向を被験者内要因とする3要因分散分析を行った。
分析の結果2次の交互作用が有意だった(F (1, 22)=8.31, MSE= 0.54, p=.01, ηp2=.27)。単純交互作用検定を行ったところ,視覚妨害なしにおける因子得点×再生方向の交互作用が有意だった(F(1, 22)=16.53, p=.00)。単純・単純主効果は,因子得点高群の順唱,低群の順唱,因低群の逆唱において,それぞれで有意に視覚妨害ありの方が高かった(F (1, 22)=14.19, p=.00,ηp2=.392;F (1, 22)=6.44, p=.02, ηp2=.23;F (1, 22)=6.93, p=.02, ηp2=.24)(Figure 1)。一方,因子得点高群の逆唱においては有意ではなかった(F (1, 22)=1.02, p=.32, ηp2=.04)。妨害ありにおいてはこの交互作用は有意でなかった(F (1, 22)=0.04, ,p=.84)。
考察
課題得点に関して視覚処理低群では順唱,逆唱ともに視覚妨害条件では得点が有意に高くなっていた。一方,視覚処理高群では順唱のみ有意に得点が高くなっており,逆唱では差は認められなかった。視覚妨害ありにおける成績向上は,あり条件が全てなし条件の後に実施されたために,実験参加者が課題の手続きや遂行に慣れたことが考えられる。しかし,視覚処理高群における逆唱課題では向上せず,DVNによって視覚処理が妨害されたことが示唆された。因子2が視空間スケッチパッドの機能を反映していることが示唆された。