日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PE

2015年8月27日(木) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PE065] WISCーⅣにおける検査行動のアセスメント

事例研究によるその意義と課題の検討

岡田智1, 田邊李江#2, 小林玄3 (1.北海道大学, 2.北海道大学, 3.立教女学院短期大学)

キーワード:WISCーⅣ, 発達障害, 検査行動

1.ウェクスラー式検査の概要
本研究で扱う日本版児童用ウェクスラー知能検査第4版(以下WISC-Ⅳ)は,第3版から,理論的にも内容的にもより一層の精錬を目指して大きな変更が加えられ,2010年に刊行された。この改訂における具体的な変更点としては,ベルビュー検査以来,個人内差の測定のキー概念となっていた「言語性IQ」と「動作性IQ」を廃止したことだった。また,因子分析などの統計的なエビデンスを重視し,4つの指標得点(VCI,PRI,WMI,PSI)を全検査IQ(FSIQ)の次に重要な測定概念として採用したことも大きな変更点であった。更に,最近では,知能研究領域の代表的理論である CHC理論に則った解釈が試みられるようになった(フラナガンら,2014)。
2.WISC-Ⅳの解釈にかかわる問題
ウェクスラー検査は,教育,福祉,医療などの多分野で広く使われており,常に実践からのフィードバックにさらされている検査とも言える。常に実践性が問われており,信頼性,妥当性といったツール自体の精度だけでなく,それが子どもの特性や実態の把握につながるのか,指導・支援に役に立つ情報を提供するのかといった有用性(Utility)の観点も必要とされる。
WISC-Ⅳは15の下位検査から成り立ち,基本的なプロフィール分析に関して9つのステップが設定されており(Wechsler,2010),FSIQといった大きな視点から,下位検査間の詳細な得点の分析といった小さな視点へ検討を行っていくことが解釈マニュアルに明記された。この流れは,GluttingやMcDermottらのプロフィール分析や下位検査分析は信頼性が低く,安定性がない,また,学力を予測することもないとしたイプサティブ分析 への批判やそれに関係する諸研究の影響を多分に受けている(フラナガンら,2014)。
合成得点(FSIQや指標得点)を中心に解釈していくことは,その得点の信頼性を考慮すると妥当なことであると考える。しかし,4つの指標得点は,複数の特性について解釈が可能であり,また,その影響因についても加味しなければならない。測定値だけに焦点を当てるだけでは,検査結果の解釈及び影響因の判断は難しい。Saklofske etal(2012)は,検査解釈についての検討は「生態学的な文脈」の中で行われる必要があり,検査場面における行動などボトムアップ方式の解釈アプローチも採用することで,有意義な臨床的解釈の探索が可能であることに言及している。検査で得られた測定値の妥当性を判断する際には検査行動のアセスメントが重要であることを指摘している。また,これまで,検査解釈に関わる研究の多くは,臨床群の指標得点や下位検査プロフィールに焦点が当たってきた(大六,2011)。ただ,その認知特性や障害特性をウェクスラー式検査の測定値で直接的に把握するには限界があることも指摘されている(岡田ら,2010;水野・岡田;2012)。検査の測定値にあらわれない特性や状態を把握するためにも,検査行動の質的情報でどのような手がかりが得られるのかを検討することも重要な課題である。
3.本研究の目的
以上の課題を受けて,検査行動のアセスメントにおける公式な尺度を(岡田・田邊・飯利・小林,2015)及びプロセス分析情報シートを用いて,検査行動のアセスメントを含めた事例研究を行い,検査行動のアセスメントの臨床的有用性(Clinical Utility)について考察する。なお,本研究は2015年1月に北海道大学教育学研究院の研究倫理委員会の承認を受けた。

キーワード
WISC-Ⅳ 発達障害 検査行動 行動観察