[PF004] 学校危機への臨床心理士による支援の実態(2)
心理士が認知する依頼時の学校の様子
Keywords:学校危機, 緊急支援, 直後の反応
問題と目的
突然の事件・事故への遭遇等によって生じる学校危機への臨床心理士による支援は,徐々に体制が整備され,2009年11月の調査では,児童生徒の自殺を含む重大な事件・事故が発生時に都道府県臨床心理士会の約7割が学校・教育委員会の依頼によって支援を行うとの回答が得られた(窪田,2010)。しかしながら,実施体制や支援プログラムの詳細は明らかではない。本報告では,より実効性の高い体制整備やプログラムの精緻化に向けての基礎資料を得るために実施した臨床心理士アンケートから,臨床心理士が認知する依頼時の学校の様子について検討する。
方 法
調査方法 対象,実施方法,質問紙の構成は窪田ら(2015)の通り。実施に際しては名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会の承認(13-428)を得た。
調査協力者 263名(38都道府県士会)のうち回答に不備のない261名を対象とした。
教示 事案については,これまで経験した緊急支援のうち最も印象に残った事案について自由記述にて回答してもらった。支援開始時の学校の様子については,12項目の選択肢を提示し,複数回答式にて回答してもらった。選択肢については,窪田ら(2012)の危機直後の学校の様子を用いた。
結果と考察
全体の結果 支援開始時の学校の様子12項目を,窪田ら(2012)の下位尺度を用いて,構成員の混乱,学校への非難不信,情報の隠蔽混乱に分類した。全体の結果はTable1に示す。構成員の混乱は,95.8%の事案で生じていたという結果であった。学校への非難不信,情報の隠蔽混乱は,それぞれ約半数の事案で生じていたという結果であった。
事案ごとの結果 印象に残った事案について,自殺,管理内外の事故,教師事案,事件,自然災害として分類を行った。回答に不備が見られるもの,特異性が高く分類不能であるものを除く225名を分析対象とした。
事案と学校の様子についてχ2検定を行ったところ,構成員の混乱,情報の隠蔽混乱について
有意な偏りは見られなかった。学校への非難不
信については有意な偏りが見られた(χ2(4)
=19.064, p<.001)。さらに残差分析(Haberman,1974)も行った。結果はTable2の通りである。
児童生徒の自殺・教師事案では,学校への非難不信が多く見られ,人為的事件では少ないという結果であった。学校への非難不信は,その後の回復感を下げることが示唆されており(樋渡ら,2012),児童生徒の自殺・教師事案においては,学校への非難不信に対する支援をさらに検討する必要が考えられた。
まとめと今後の課題 支援開始時の学校様子として,構成員の混乱がほぼすべての事案で見られ,学校への非難不信に事案毎の差が見られるという結果であった。今回の調査では,調査人数が少なく事案毎の細かな分析が行えなかった。そのため,今後さらに検討を行う必要がある。
*本研究の実施に際しては日本学術振興会科研費 基盤研究(B)(No.25285191)の助成を受けた。
突然の事件・事故への遭遇等によって生じる学校危機への臨床心理士による支援は,徐々に体制が整備され,2009年11月の調査では,児童生徒の自殺を含む重大な事件・事故が発生時に都道府県臨床心理士会の約7割が学校・教育委員会の依頼によって支援を行うとの回答が得られた(窪田,2010)。しかしながら,実施体制や支援プログラムの詳細は明らかではない。本報告では,より実効性の高い体制整備やプログラムの精緻化に向けての基礎資料を得るために実施した臨床心理士アンケートから,臨床心理士が認知する依頼時の学校の様子について検討する。
方 法
調査方法 対象,実施方法,質問紙の構成は窪田ら(2015)の通り。実施に際しては名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会の承認(13-428)を得た。
調査協力者 263名(38都道府県士会)のうち回答に不備のない261名を対象とした。
教示 事案については,これまで経験した緊急支援のうち最も印象に残った事案について自由記述にて回答してもらった。支援開始時の学校の様子については,12項目の選択肢を提示し,複数回答式にて回答してもらった。選択肢については,窪田ら(2012)の危機直後の学校の様子を用いた。
結果と考察
全体の結果 支援開始時の学校の様子12項目を,窪田ら(2012)の下位尺度を用いて,構成員の混乱,学校への非難不信,情報の隠蔽混乱に分類した。全体の結果はTable1に示す。構成員の混乱は,95.8%の事案で生じていたという結果であった。学校への非難不信,情報の隠蔽混乱は,それぞれ約半数の事案で生じていたという結果であった。
事案ごとの結果 印象に残った事案について,自殺,管理内外の事故,教師事案,事件,自然災害として分類を行った。回答に不備が見られるもの,特異性が高く分類不能であるものを除く225名を分析対象とした。
事案と学校の様子についてχ2検定を行ったところ,構成員の混乱,情報の隠蔽混乱について
有意な偏りは見られなかった。学校への非難不
信については有意な偏りが見られた(χ2(4)
=19.064, p<.001)。さらに残差分析(Haberman,1974)も行った。結果はTable2の通りである。
児童生徒の自殺・教師事案では,学校への非難不信が多く見られ,人為的事件では少ないという結果であった。学校への非難不信は,その後の回復感を下げることが示唆されており(樋渡ら,2012),児童生徒の自殺・教師事案においては,学校への非難不信に対する支援をさらに検討する必要が考えられた。
まとめと今後の課題 支援開始時の学校様子として,構成員の混乱がほぼすべての事案で見られ,学校への非難不信に事案毎の差が見られるという結果であった。今回の調査では,調査人数が少なく事案毎の細かな分析が行えなかった。そのため,今後さらに検討を行う必要がある。
*本研究の実施に際しては日本学術振興会科研費 基盤研究(B)(No.25285191)の助成を受けた。