[PF013] 幼児版社会性と情動の学習(SEL-8N)プログラムの実践効果
SDQアンケートを用いた検討
Keywords:社会性と情動の学習, 幼児, 心理教育プログラム
問題・目的
SEL-8S(小泉,2011)は,子どもの社会的能力を育成する心理教育プログラムの1つであるが,これまで小中学校での実践による様々な効果が示されている(例えば,宮原・小泉(2009))。しかし,幼児期に仲間関係のつまずきがあると児童期まで持ち越されやすいこと(佐藤・佐藤・岡安,1998),小学校中学年以降になると,新たに仲間集団に加わって,仲間からの社会的受容を得ることが少しずつ困難になること(Mize & Ladd, 1990)などから,幼児期における社会的能力育成の重要性が指摘されている。こうした背景から,山田・小泉(2014)は,幼児用のSELプログラム(以下,SEL-8Nとする)の試案構成を作成した。
本研究では,幼児を対象にSEL-8Nを実施し,幼児の社会的行動に与える教育効果を検討することを目的とした。
方 法
調査対象者と評定者:福岡県内の幼稚園(全12学級)に在籍する幼児402名(年少131名,年中140名,年長131名)。評定者は,学級担任12名。
調査時期:事前調査を2014年6月,事後調査を翌年2月に実施。
調査内容:子どもの強さと困難さアンケート(以下,SDQとする)(Matsuishi et al., 2008),5因子(攻撃的行為,多動,情緒,仲間関係,向社会性)各5項目の計25項目。学級担任が学級内の幼児1人ずつの行動を3件法で評定。
実施内容:2014年6月~翌年3月の実施期間中に,計26回のSEL-8Nを実施。1回の活動は,15~20分程度で行われ,年少,年中,年長ごとに1つのテーマを,幼児の実態に合わせた活動に修正し,実施した。また,SEL-8Nの実施に関する教員研修を,SEL-8Nの実施前に1回(6月)と,実施期間中に3回(7月,10月,翌年2月),実施幼稚園内で行い,教員間での共通理解とSEL-8N実践に関する資質の向上を図った。
結果・考察
調査対象者のうち,事前および事後調査で回答に欠損のない幼児372名(年少124名,年中122名,年長126名)分が分析対象となった。そして,SEL-8Nの効果を検討するため,SDQの各因子得点(総和得点)を算出し,実施前後の得点をt検定によって分析した。
その結果,全ての因子において実施前後で有意差が示された(Table)。具体的には,攻撃的行為,多動,情緒,仲間関係では,実施前後で得点が低下し,向社会性では,実施前後で得点が増加した。この結果から,SEL-8Nの実践によって,幼児の社会的行動の改善が示唆された。
今後の課題として,統制群を設けた効果検討を行うことが挙げられる。また,年齢による効果差の検討や社会的能力の低い幼児に対する効果検討を行うことが必要と考える。
さらに,幼児期における社会性能力の育成が,幼稚園での学級適応や人間関係にどのような影響を及ぼすのか,また,幼稚園から小学校への進級場面での社会的能力が一因となる「小1プロブレム」への影響,児童期における学校適応への影響についても検討していくことが重要と考える。
※向社会性は得点が上がるほど,それ以外の因子は得点が下がるほど,行動の改善を示す。
引用文献
小泉令三(2011).社会性と情動の学習(SEL- 8S)の導入と実践 ミネルヴァ書房.
Matsuishi T, Magano M, Araki Y, Tanaka Y, Iwasaki M, Yamashita Y, Nagamitsu S, Iizuka C, Ohya T, Shibuya K, Hara M, Matsuda K, Tsuda A, Kakuma T (2008). Scale properties of the Japanese version of the Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ): a study of infant and school children in community samples. Brain and Development, 30, 410-415.宮原紀子・小泉令三(2009)中学校の学校行事と関連づけた社会性と対人関係能力の向上--社会性と情動の学習(SEL)プログラムの活用による試行的実践 教育実践研究(福岡教育大学教育学部付属教育実践総合センター),17,143-150.
山田洋平・小泉令三(2014).幼児のための社会性と情動の学習プログラム(SEL-8N)の試案構成 福岡教育大学紀要,63(4),139-147.
SEL-8S(小泉,2011)は,子どもの社会的能力を育成する心理教育プログラムの1つであるが,これまで小中学校での実践による様々な効果が示されている(例えば,宮原・小泉(2009))。しかし,幼児期に仲間関係のつまずきがあると児童期まで持ち越されやすいこと(佐藤・佐藤・岡安,1998),小学校中学年以降になると,新たに仲間集団に加わって,仲間からの社会的受容を得ることが少しずつ困難になること(Mize & Ladd, 1990)などから,幼児期における社会的能力育成の重要性が指摘されている。こうした背景から,山田・小泉(2014)は,幼児用のSELプログラム(以下,SEL-8Nとする)の試案構成を作成した。
本研究では,幼児を対象にSEL-8Nを実施し,幼児の社会的行動に与える教育効果を検討することを目的とした。
方 法
調査対象者と評定者:福岡県内の幼稚園(全12学級)に在籍する幼児402名(年少131名,年中140名,年長131名)。評定者は,学級担任12名。
調査時期:事前調査を2014年6月,事後調査を翌年2月に実施。
調査内容:子どもの強さと困難さアンケート(以下,SDQとする)(Matsuishi et al., 2008),5因子(攻撃的行為,多動,情緒,仲間関係,向社会性)各5項目の計25項目。学級担任が学級内の幼児1人ずつの行動を3件法で評定。
実施内容:2014年6月~翌年3月の実施期間中に,計26回のSEL-8Nを実施。1回の活動は,15~20分程度で行われ,年少,年中,年長ごとに1つのテーマを,幼児の実態に合わせた活動に修正し,実施した。また,SEL-8Nの実施に関する教員研修を,SEL-8Nの実施前に1回(6月)と,実施期間中に3回(7月,10月,翌年2月),実施幼稚園内で行い,教員間での共通理解とSEL-8N実践に関する資質の向上を図った。
結果・考察
調査対象者のうち,事前および事後調査で回答に欠損のない幼児372名(年少124名,年中122名,年長126名)分が分析対象となった。そして,SEL-8Nの効果を検討するため,SDQの各因子得点(総和得点)を算出し,実施前後の得点をt検定によって分析した。
その結果,全ての因子において実施前後で有意差が示された(Table)。具体的には,攻撃的行為,多動,情緒,仲間関係では,実施前後で得点が低下し,向社会性では,実施前後で得点が増加した。この結果から,SEL-8Nの実践によって,幼児の社会的行動の改善が示唆された。
今後の課題として,統制群を設けた効果検討を行うことが挙げられる。また,年齢による効果差の検討や社会的能力の低い幼児に対する効果検討を行うことが必要と考える。
さらに,幼児期における社会性能力の育成が,幼稚園での学級適応や人間関係にどのような影響を及ぼすのか,また,幼稚園から小学校への進級場面での社会的能力が一因となる「小1プロブレム」への影響,児童期における学校適応への影響についても検討していくことが重要と考える。
※向社会性は得点が上がるほど,それ以外の因子は得点が下がるほど,行動の改善を示す。
引用文献
小泉令三(2011).社会性と情動の学習(SEL- 8S)の導入と実践 ミネルヴァ書房.
Matsuishi T, Magano M, Araki Y, Tanaka Y, Iwasaki M, Yamashita Y, Nagamitsu S, Iizuka C, Ohya T, Shibuya K, Hara M, Matsuda K, Tsuda A, Kakuma T (2008). Scale properties of the Japanese version of the Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ): a study of infant and school children in community samples. Brain and Development, 30, 410-415.宮原紀子・小泉令三(2009)中学校の学校行事と関連づけた社会性と対人関係能力の向上--社会性と情動の学習(SEL)プログラムの活用による試行的実践 教育実践研究(福岡教育大学教育学部付属教育実践総合センター),17,143-150.
山田洋平・小泉令三(2014).幼児のための社会性と情動の学習プログラム(SEL-8N)の試案構成 福岡教育大学紀要,63(4),139-147.