日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PF

2015年8月27日(木) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PF020] 英語話者との接触機会と英語力の自信の関係

伊藤健彦 (東京大学)

キーワード:英語話者, 接触機会, 自信

目 的
本研究の目的は,日本の高校生の日常生活における英語話者との接触機会と,英語力への自信の関係を検討するものである。伊藤(2013) では,日本人の英語コミュニケーション行動を予測する心理的過程モデルが作成された。そこでは,英語力の自信と英語学習価値が,英語コミュニケーションへの自信や価値を媒介して,英語コミュニケーション行動に影響するというものだった。期待×価値理論(Eccles & Wigfield, 1995)の観点から作成されたこのモデルは,英語コミュニケーション行動へ影響する心理的要因を明らかにしていた。
しかし,伊藤(2013)では,英語を話すことや聞くことへの自信を促進させる要因が明らかではなかった。英語が外国語である日本では,普段英語話者と接する機会が多いわけではなく,一日中英語を使用しなくても生活に困るわけではない。よって,人によって英語話者との接触機会が大きく異なることが考えられる。英語話者との接触機会は,英語力の自信に大きく影響すると考えられるが,両者の関係を検討したものは見当たらない。そこで本研究では,日本の高校生の英語話者との接触機会と,英語を話すことや聞くことの自信との関係を検討する。
方 法
対象者 神奈川県内の私立の男子高校に通う1~3年生(1年生78名,2年生125名,3年生138名,計341名)が質問紙調査に参加した。このうち,回答に不備のあった者のデータを除外した304名を分析の対象とした。
質問紙 普段の英語話者との接触経験について,「毎日」「一週間に3回」「一週間に1回」「一ヶ月に1回」「まったくない」の5つの選択肢がある尺度を作成した。また,英語を話すことへの自信,英語を聞くことへの自信についての尺度を5件法で作成した。
結 果
上記の尺度で得たデータを分散分析によって分析した。
まず,英語を話すことの自信について,一元配置の分散分析を行った結果,5つのカテゴリー間で差があった(F(4, 282)=4.18, p<.01)であった。さらに多重比較を行った結果,普段英語話者とまったく接しない群に比べて,一週間に3回接する群(p<.05),一週間に1回接する群(p<.05)の方が,有意に英語を話すことへの自信が高かった。
次に,英語を聞くことの自信について,一元配置の分散分析の結果,5つのカテゴリー間で差があった(F(4, 282)=4.46, p<.01) であった。さらに多重比較を行った結果,普段英語話者とまったく接しない群に比べて,一週間に1回接する群(p =.68),一ヶ月に1回接する群(p<.01) の方が有意に,英語を聞くことに自信があると答えていた。
考 察
分析の結果から,普段まったく英語話者と接する機会がないと答えた高校生は,他の高校生よりも,英語を話すことや聞くことに自信がない可能性が示された。この結果は,日本の普段の生活において,まったく英語話者と接触する機会がないと,英語力の自信が低くなる可能性を示唆している。学生の英語力への自信をつけるという教育的観点を考えた時に,日常での英語話者との接触機会という要因は,有益な検討課題となるであろう。
しかし,英語話者との接触機会が多いから英語力への自信がついたのか,それとも,英語力への自信があるから英語話者との接触機会を設けているのかは,この研究からでは明らかではないため,英語教育に示唆を与えるためにも,この点を検討する必要がある。
引用文献
伊藤 (2013). 日本の高校生の英語コミュニケーション行動を予測する心理的過程 心理学研究, 84, 488-497.