[PF023] 文系学生における統計の授業に関する調査
キーワード:大学生, 統計
問題と目的
近年,統計学への関心が高まっている。そして心理学を学ぶ者にとっても,心理統計は必須の科目である。統計学は本来数学の延長線上に位置づけられ,数学と切り離すことができない。しかし心理学は基本的に文系の学部に設置されており,数学に対する苦手意識を持つ学生も少なくない(大橋,2009)。このことから,文系学生が心理統計の授業を困難に感じていると考えられる。
村井・山田・杉澤(2009)によると,学生は統計の授業に関して,授業中に分からない点をやさしく丁寧に汲み取ってくれる授業こそ力がつくと考えているという。分からない点を学生そして教員の双方にとって明確にするための行動として,質問行動の有効性が指摘されている(藤井・山口,2003)ことから,本調査では質問行動に着目する。そして,統計の授業に対する学生の姿勢と質問行動についての検討を目的とする。授業に対する学生の姿勢の指標には,篠ヶ谷(2013)の「意味理解志向」に修正・加筆したものを用いた。
方 法
対象者 大学で統計の授業を受けたことのある心理学専攻の大学生50名(M=21.76)。
手続き 質問紙を配布した。実施の際には,「統計の授業中に感じた疑問の解決方法としての『先生に質問する』という行為についてたずねます」という教示を与えた。
質問紙の内容 質問紙は「統計の授業における質問行動」「統計の学習における意味理解志向(篠ヶ谷,2013に加筆)」,「統計の授業中に感じた疑問を質問しない理由」に関する質問項目から成り立っていた。回答は「まったくあてはまらない~とてもあてはまる」の5件法で自己評定を求めた。
結 果
授業に対する学生の姿勢と質問行動についての検討を行うために,「統計の学習における意味理解志向」について,すべての質問項目(α=.81)の平均値を意味理解志向得点(篠ヶ谷,2013)とし,高群(M=4.00,SD=0.47)と低群(M=2.72,SD=0.59)に分けた。そして高群と低群の「統計の授業における質問行動」の差を比較するためにt検定を行った(Figure1)。「授業中に疑問を感じたら,質問したいと思う」(t=-.24)および,「授業中に疑問を感じたら,実際に先生に質問をする」(t=-1.10)に関して,有意差は認められなかった。
さらに「統計の授業中に感じた疑問を質問しない理由」について因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行ったところ,感じた疑問を言葉にまとめることができない「質問生成」(M=3.09,SD=0.93,α=.85)と,質問することによって満足な理解や回答が得られないと考える「理解」(M=2.09,SD=0.85,α=.78)となった。これらの因子を意味理解志向得点の群別に比較したところ,「質問生成」(t=-.94)および「理解」(t=-.82)に関して,有意差は認められなかった。また,上記の因子と「統計の授業における質問行動」との相関を分析すると,「理解」との間に負の相関が認められた(r=-.38,p<.001)。
考 察
「統計の授業における質問行動」に関して,意味理解志向得点の高低による有意な差がみられなかったことから,授業中に疑問を感じたり,実際に質問をする際に意味理解志向性の違いは大きな影響を与えないことが示唆される。また,「統計の授業中に感じた疑問を質問しない理由」に関しても,意味理解志向得点の高低による有意な差がみられなかったことから,統計の授業中に質問をしない理由は,学生の意味理解志向性に関わらないと考えられる。
「統計の授業における質問行動」と「理解」の因子に負の相関があったことから,質問することによる理解の経験が,その後の質問行動に結びつくのではないかと考えられる。以上から,統計の授業における質問行動には,「理解」が関連していると示唆される。今後は,統計の授業における質問行動を促進させられるような具体的な支援方法の検討を行う。
近年,統計学への関心が高まっている。そして心理学を学ぶ者にとっても,心理統計は必須の科目である。統計学は本来数学の延長線上に位置づけられ,数学と切り離すことができない。しかし心理学は基本的に文系の学部に設置されており,数学に対する苦手意識を持つ学生も少なくない(大橋,2009)。このことから,文系学生が心理統計の授業を困難に感じていると考えられる。
村井・山田・杉澤(2009)によると,学生は統計の授業に関して,授業中に分からない点をやさしく丁寧に汲み取ってくれる授業こそ力がつくと考えているという。分からない点を学生そして教員の双方にとって明確にするための行動として,質問行動の有効性が指摘されている(藤井・山口,2003)ことから,本調査では質問行動に着目する。そして,統計の授業に対する学生の姿勢と質問行動についての検討を目的とする。授業に対する学生の姿勢の指標には,篠ヶ谷(2013)の「意味理解志向」に修正・加筆したものを用いた。
方 法
対象者 大学で統計の授業を受けたことのある心理学専攻の大学生50名(M=21.76)。
手続き 質問紙を配布した。実施の際には,「統計の授業中に感じた疑問の解決方法としての『先生に質問する』という行為についてたずねます」という教示を与えた。
質問紙の内容 質問紙は「統計の授業における質問行動」「統計の学習における意味理解志向(篠ヶ谷,2013に加筆)」,「統計の授業中に感じた疑問を質問しない理由」に関する質問項目から成り立っていた。回答は「まったくあてはまらない~とてもあてはまる」の5件法で自己評定を求めた。
結 果
授業に対する学生の姿勢と質問行動についての検討を行うために,「統計の学習における意味理解志向」について,すべての質問項目(α=.81)の平均値を意味理解志向得点(篠ヶ谷,2013)とし,高群(M=4.00,SD=0.47)と低群(M=2.72,SD=0.59)に分けた。そして高群と低群の「統計の授業における質問行動」の差を比較するためにt検定を行った(Figure1)。「授業中に疑問を感じたら,質問したいと思う」(t=-.24)および,「授業中に疑問を感じたら,実際に先生に質問をする」(t=-1.10)に関して,有意差は認められなかった。
さらに「統計の授業中に感じた疑問を質問しない理由」について因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行ったところ,感じた疑問を言葉にまとめることができない「質問生成」(M=3.09,SD=0.93,α=.85)と,質問することによって満足な理解や回答が得られないと考える「理解」(M=2.09,SD=0.85,α=.78)となった。これらの因子を意味理解志向得点の群別に比較したところ,「質問生成」(t=-.94)および「理解」(t=-.82)に関して,有意差は認められなかった。また,上記の因子と「統計の授業における質問行動」との相関を分析すると,「理解」との間に負の相関が認められた(r=-.38,p<.001)。
考 察
「統計の授業における質問行動」に関して,意味理解志向得点の高低による有意な差がみられなかったことから,授業中に疑問を感じたり,実際に質問をする際に意味理解志向性の違いは大きな影響を与えないことが示唆される。また,「統計の授業中に感じた疑問を質問しない理由」に関しても,意味理解志向得点の高低による有意な差がみられなかったことから,統計の授業中に質問をしない理由は,学生の意味理解志向性に関わらないと考えられる。
「統計の授業における質問行動」と「理解」の因子に負の相関があったことから,質問することによる理解の経験が,その後の質問行動に結びつくのではないかと考えられる。以上から,統計の授業における質問行動には,「理解」が関連していると示唆される。今後は,統計の授業における質問行動を促進させられるような具体的な支援方法の検討を行う。