The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PF

Thu. Aug 27, 2015 4:00 PM - 6:00 PM メインホールA (2階)

[PF051] キャリア発達・教育に関する研究(18)

理系女子のキャリア発達

松下美知子1, 苗田敏美2, 國眼眞理子3 (1.金沢大学, 2.金沢大学, 3.東北公益文科大学)

Keywords:キャリア発達, キャリア教育, 理系女子

1.問題と目的
近年の進路選択に関する総合的な調査の一つに、大学生を対象とした「進路選択に関する振り返り調査」がある(H17年度経済産業省委託調査報告書 ベネッセCo.)。報告書では、「女子の理工学系統への進学」を一つの章として取り上げ、職業意識の発達過程を分析している。昨今、理系分野への女性の進出が求められる社会状況下で、とりわけその数が少ない理工系で学ぶ女子学生と、同じ理系でも既に多くの参入がある医療系女子学生と比較した際に見られる違いを明らかにすることが本研究の目的である。具体的には、職業能力に対する認識や職業的同一性、また進路選択や生き方モデルにおける他者の影響、等の側面を取り上げて比較するとともに、理工系で学ぶ女子学生数の増加に繋がる方策について検討する。
2.方法
1)調査対象:国立大学法人理工系女子(学部~大学院)27名および医療系3年制専門学校の2年生52名(全員女性)が対象者である。
2)調査時期 2015年2月~3月
3)手続き:以下の内容である質問紙を作成し実施した。①重要だと思う職業能力(10項目から上位3項目を選択し、重要度の順に順位付け)、②「仕事」についてのイメージ(18項目5段階評定)、③職業的同一性SCT(園田1987、6項目、5段階評定)、④将来のライフコース、⑤職業選択の際の重要な他者、⑥職業決定の時期、等。また、職業意識の発達に関するレポートや必要に応じて面接等を実施。
3.結果と考察
1)重要だと思う職業的能力について
理工系女子・医療系(以降S系・医系と略す)女子ともに、「コミュニケーション能力」を最も重要視している。S系では以下「行動力・実行力」>「健康・体力」となり、「専門的知識・スキル」は4番目に挙がっている。一方医系は、コミュニケーションに続く2番目に「専門的知識・スキル」が重視されており、以下「熱意・意欲」>「理解力・判断力」と続く。両系の違いは、将来の仕事の内容についての理解度を反映している。有意な差(p<.01)が認められた項目は、行動力等(S系>医系)、専門的知識等(S系<医系)、創造性・企画力(S系>医系)の3項目であった。
2)職業的同一性SCT
職業的同一性6項目全体の合計得点を見ると医系の値(M=24.8 S.D.=5.69)がS系(M=21.8 S.D.=4.37)と比べて有意に高く(p<0.05)、職業人としての自分を、より明確に捉えている。
3)将来のライフコース
「(結婚・出産)退職型」「中断再就職型」「継続型(A子どもを持たない・B両立・C結婚/出産に関わらず)」の5タイプについて、「理想」と「現実」を尋ねた。「理想」において、S系は、B両立>C継続>中断再就職、一方医系は、中断再就職>B両立>退職であり、S系と医系間の選択には有意な差が見られた(p<.001)。また実際になりそうなライフコース(現実)では、S系が、継続>B両立>中断再就職であるのに対し、医系は、中断再就職>B両立>A/C継続となり、「現実」レベルでも、この2つの系において、有意な差を認めることが出来る(p<.001)。S系は、理想・現実ともに継続型を多く選択し、働く意欲が高いことを示している。また一方で、医系の中断再就職型は、国家資格があるための結果と言える。
4)進路選択に影響を与えた人
父をS系で、母を医系で選択する人が多く見られた(それぞれp<.05・p<.001)。
5)職業の決定とその時期
S系が学生・院生である現時点において、職業未定が半数を超えるのに対し、医系は、卒業まで1年以上も残している現在、既に98%が決定している。また、その決定の時期も、医系では高校時代が最も多く(62.7%)、S系が大学・大学院時代(今現在)とする傾向とは大きく異なる。
上記1)~5)より、理系女子のキャリア発達について、S系には次の3点が明らかとなった。
①将来従事する仕事について、S系で学ぶ女子学生は、働く自分の姿を描きにくい。そのため、重要な職業能力の選択では、「専門的知識・スキル」が上位にならない。
②医系と比べて、明確な資格(国家資格)がないことが、将来のライフコースの選択に影響している。しかし、仕事へのモティベーションは高い。
③S系は、医系と異なり文系からの進路選択が不可能であるため、進路の選択肢が少ない。
従って、女子生徒の中・高校時代において、もっと理工系の職場体験を計画することや意図的に理工系の職業情報を提供することが肝要である。