The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PC

Wed. Aug 26, 2015 4:00 PM - 6:00 PM メインホールA (2階)

[PG007] いじめ撲滅劇への参加による中学生の意識の変容

参加前および参加後の意識内容の検討を通して

冨田幸子1, 中間玲子2 (1.兵庫教育大学大学院, 2.兵庫教育大学大学院)

Keywords:いじめ撲滅, 意識の変容, 演劇

【問題と目的】
いじめは学校生活を脅かし,人の心に深刻な傷を与えるものである。昨今は,ネットの普及に伴い,教師も保護者も実態を把握しにくく,相談される時には深刻かつ複雑な事態に陥っているというケースが少なくない。
そうしたいじめに対応する開発的生徒指導の取組として,寝屋川市では平成19年度より「いじめ撲滅劇」を行っている。そこでは,中学生の日常生活でも起こりうるような現実味のあるオリジナルの台本が用意され,それが中学生たち自身によって演じられる。竹内(2012)によると,このいじめ撲滅劇の鑑賞後の中学生の間では,いじめの認知件数が半減するなどの効果が報告されており,この劇が生徒の内面に訴える力をもっていることが推測される。
同時に,劇に参加した生徒たちにとっては,劇の参加が体験的な学びの場としての意味をもつと思われる。いじめ撲滅劇は,寝屋川市内の12中学校による取り組みであり,学校を越えた関わりの中で作り上げられるものである。活動期間は5月から8月までと短いものではあるが,その期間に生徒たちは,他校の生徒も含めた他者と関わりながら,いじめという深刻な問題に向き合い,そこで共有した思いを,劇という作品に協同して仕上げていくという過程を経験する。この経験が,いじめに対する意識はもちろん,その他の側面においてもさまざまな変容をもたらす学びの場となっていると予想されるのである。
そこで本研究では,いじめ撲滅劇を通して意識変容が生じる側面を抽出し,それぞれの側面における変容の内容について記述することを目的とする。
【方 法】
(方法)平成26年いじめ撲滅劇出演生徒22名を対象に,劇参加前,および劇参加後に以下の内容に関する質問紙調査を行った。
⑴ 劇参加前の調査(平成26年5月)
以下の質問項目に対して,自由記述で回答を求めた:①劇のオーディションを受けた動機,②今回のいじめ撲滅劇での目標,③劇参加の中での自分の変化の予想
⑵ 劇参加後(平成26年8月)
以下の質問項目に対して,自由記述で回答を求めた:①自分にとってのいじめ撲滅劇の魅力,②いじめ撲滅劇に参加しての気づき,③いじめ撲滅劇参加での自分の変化,④劇参加経験が及ぼす今後への影響の予測
【結果と考察】
いじめ撲滅劇参加生徒に上演前後に行った自由記述の質問紙からM-GTA(木下, 2007)の研究法にのっとり概念を抽出した。質問項目ごとの分析も行ったが,項目にとらわれず,生徒の意識の様相をとらえる記述に注目して検討を行うこととした。
参加前のものからは10個の概念が,参加後のものからは11個の概念が抽出された。それらは共通して,「いじめ」「自己の変容」「他者との関わり」という3つの上位カテゴリーにまとめることができた(Table 1)。直接的な課題である劇に対する思いと共に,それに取り組む過程や取り組む自分自身についても自覚的に意識されていることがうかがえた。参加後の記述からは,「いじめ」については話し合いや演じることによって参加前からの認識の深まりが,「自己の変容」および「他者との関わり」については参加前からの期待が実現されたという記述と共に,今後の中学校生活に影響するようなポジティブな記述も見られた。
【参考文献】
竹内和雄(2012)ピア・サポートによる携帯電話・インターネット問題への対応策の検討 日本教育心理学会総会発表論文集(54),178