[PG023] 作文と目標設定を取り入れた障がい理解教育の成果に関わる実証的研究(2)
キーワード:障がい理解教育, 障がい理解段階, 作文
【背景と目的】
現行の小中高等学校における学習指導要領(文部科学省,2008,2009)では,障がい理解教育の内容として,特別支援学校といった他機関との連携による交流活動が推奨されている。障がい理解教育の実践研究を概観すると,共通する活動の1つに,終末に行われる作文活動が挙げられる(山本ら, 2007;堤ら, 2008;小林・池本, 2010)。障がい理解教育における作文活動には,自らの考えを自覚し,深める手段として言語を伴う表現活動を担う意義がある(文部科学省,2008)。
本研究では,「逆向き設計」論に基づき,作文による振り返りの観点として,「目的・方法・成果」の3つの観点を設定する。具体的には,児童が,目的,方法の観点から目標を設定し,目標に即した行動を交流活動・共同学習で実行,その後,実際の行動に即した自己評価と作文による目標に対応する成果の振り返りを行うといった循環を学習に位置づけ,その有効性と留意点を検討する。なお,有効性は,トップダウンの手立てによる児童の障がい理解の深まり(金谷・梶井,2014)をもって検討する。
【方 法】
1 調査時期 平成25年9月中旬(1回目),10月中旬(2回目),10月下旬(3回目)の計3回,交流活動・協同学習後に実施した。
2 調査対象 附属竹早小学校5年生1学級に在籍する37名の児童を,初回の質問紙①(後述)から,高・中・低群に分け,その結果,高群(H1,H2の2名)と低群(L1,L2の2名)に属する4名を観察対象児として選出した。なお,この学級では,担任の教師が障がい理解教育に力を入れており,1学期から特別支援学校との共同学習を行っていた。
3 調査方法 学習は大きく3つに分かれており,1次は児童自らが書いた作文を見直し,目標シート(質問紙②)を用いて次時の活動について考える活動,2次は特別支援学校との共同学習活動,3次は共同学習を,自己評価シート(質問紙③)を用いて振り返り,作文を書く活動であった。本研究は,これら3つの学習活動を調査対象とした。(1)質問紙①:児童らの障がい理解の態度や認識を測定することを目的に,障がい児・者に対する多次元的態度尺度(徳田,1990, 1991)から項目を抽出し,児童用に文章を改訂したもの。因子は,①同一視(5項目),②交流積極性(4項目),③可能性意識(3項目),④負のイメージ(2項目)の4因子であった。(2)参与観察:1次と2次の学習活動の様子を,観察,記録した。なお,1次は,調査者が授業者として参与した。(3)質問紙②:児童らに,学習活動に対し目的意識をもたせることを目的としたものであり,次時の活動に向けた目標を目的と方法の観点から自由記述させるものであった。(4)作文分析:3次において児童が書いた作文の内容をコーディングし,そこで得られたカテゴリーと障がい理解段階(徳田,2003)の内容,ならびに各カテゴリーに該当した記述の出現頻度を分析の対象とした。(5)質問紙③:児童らが,活動前に立てた目標に対し自己評価を行うことを目的としたシートであった。
【結果と考察】
目標設定,目標に即した行動,実際の行動に即した自己評価,ならびに作文による振り返りの循環が機能していたH1とL2の児童は,交流相手に対する理解が高まる結果が示された。このことから,本研究で設定したトップダウンによる一連の手立ては,障がい理解を高めるための有効な手立ての1つになり得ることが示唆された。しかし,観察児童間で,本研究で設定した手立てが有効に機能した児童と,そうでない児童がみられたことから,自己評価活動を取り入れた作文活動の効果には個人差があることも示された。
本研究の結果から,手立てを有効に機能させる上での留意点として以下の4つが挙げられる。1つに,H2は,質問紙調査での「可能性意識」因子が活動内容により左右されたことから,多様な活動内容を設定し,様々な交流の機会を保障すること。2つに,障がい理解が低いL1とL2は,活動内容や自身の障がい理解の高さに相応しない目標を立てていたことから,各児童の課題に対応した目標を活動内容に即して立てることができるよう個別支援をすること。3つに,本研究の手立てが十分に機能しなかったH2は,行動観察で得られた目標に対応する発言内容【行動】の結果と自己評価が一致しない様子がみられたことから,自己評価に対し,例えば,教師からフィードバックを与えること。4つに,H1に比べ,本研究の手立てが機能しなかったL2は,作文による振り返りの際,事実や交流に関わること以外のことについても書く傾向が示されたことから,目的を明確にし,書く内容の焦点を絞る教示をすること。
現行の小中高等学校における学習指導要領(文部科学省,2008,2009)では,障がい理解教育の内容として,特別支援学校といった他機関との連携による交流活動が推奨されている。障がい理解教育の実践研究を概観すると,共通する活動の1つに,終末に行われる作文活動が挙げられる(山本ら, 2007;堤ら, 2008;小林・池本, 2010)。障がい理解教育における作文活動には,自らの考えを自覚し,深める手段として言語を伴う表現活動を担う意義がある(文部科学省,2008)。
本研究では,「逆向き設計」論に基づき,作文による振り返りの観点として,「目的・方法・成果」の3つの観点を設定する。具体的には,児童が,目的,方法の観点から目標を設定し,目標に即した行動を交流活動・共同学習で実行,その後,実際の行動に即した自己評価と作文による目標に対応する成果の振り返りを行うといった循環を学習に位置づけ,その有効性と留意点を検討する。なお,有効性は,トップダウンの手立てによる児童の障がい理解の深まり(金谷・梶井,2014)をもって検討する。
【方 法】
1 調査時期 平成25年9月中旬(1回目),10月中旬(2回目),10月下旬(3回目)の計3回,交流活動・協同学習後に実施した。
2 調査対象 附属竹早小学校5年生1学級に在籍する37名の児童を,初回の質問紙①(後述)から,高・中・低群に分け,その結果,高群(H1,H2の2名)と低群(L1,L2の2名)に属する4名を観察対象児として選出した。なお,この学級では,担任の教師が障がい理解教育に力を入れており,1学期から特別支援学校との共同学習を行っていた。
3 調査方法 学習は大きく3つに分かれており,1次は児童自らが書いた作文を見直し,目標シート(質問紙②)を用いて次時の活動について考える活動,2次は特別支援学校との共同学習活動,3次は共同学習を,自己評価シート(質問紙③)を用いて振り返り,作文を書く活動であった。本研究は,これら3つの学習活動を調査対象とした。(1)質問紙①:児童らの障がい理解の態度や認識を測定することを目的に,障がい児・者に対する多次元的態度尺度(徳田,1990, 1991)から項目を抽出し,児童用に文章を改訂したもの。因子は,①同一視(5項目),②交流積極性(4項目),③可能性意識(3項目),④負のイメージ(2項目)の4因子であった。(2)参与観察:1次と2次の学習活動の様子を,観察,記録した。なお,1次は,調査者が授業者として参与した。(3)質問紙②:児童らに,学習活動に対し目的意識をもたせることを目的としたものであり,次時の活動に向けた目標を目的と方法の観点から自由記述させるものであった。(4)作文分析:3次において児童が書いた作文の内容をコーディングし,そこで得られたカテゴリーと障がい理解段階(徳田,2003)の内容,ならびに各カテゴリーに該当した記述の出現頻度を分析の対象とした。(5)質問紙③:児童らが,活動前に立てた目標に対し自己評価を行うことを目的としたシートであった。
【結果と考察】
目標設定,目標に即した行動,実際の行動に即した自己評価,ならびに作文による振り返りの循環が機能していたH1とL2の児童は,交流相手に対する理解が高まる結果が示された。このことから,本研究で設定したトップダウンによる一連の手立ては,障がい理解を高めるための有効な手立ての1つになり得ることが示唆された。しかし,観察児童間で,本研究で設定した手立てが有効に機能した児童と,そうでない児童がみられたことから,自己評価活動を取り入れた作文活動の効果には個人差があることも示された。
本研究の結果から,手立てを有効に機能させる上での留意点として以下の4つが挙げられる。1つに,H2は,質問紙調査での「可能性意識」因子が活動内容により左右されたことから,多様な活動内容を設定し,様々な交流の機会を保障すること。2つに,障がい理解が低いL1とL2は,活動内容や自身の障がい理解の高さに相応しない目標を立てていたことから,各児童の課題に対応した目標を活動内容に即して立てることができるよう個別支援をすること。3つに,本研究の手立てが十分に機能しなかったH2は,行動観察で得られた目標に対応する発言内容【行動】の結果と自己評価が一致しない様子がみられたことから,自己評価に対し,例えば,教師からフィードバックを与えること。4つに,H1に比べ,本研究の手立てが機能しなかったL2は,作文による振り返りの際,事実や交流に関わること以外のことについても書く傾向が示されたことから,目的を明確にし,書く内容の焦点を絞る教示をすること。