[PG025] WM容量の小さい学習者における手続き的説明文の読解過程に対する支援可能性
本当に後置質問は役立つのか?
Keywords:読解過程, 手続き的説明文, WM容量
目 的
手続き的説明文の読解では,順序性の正確な理解が求められる。そのため,読解過程が進むにつれて読解は複雑化すると考えられるが,ワーキングメモリ (以下,WM)容量の小さい学習者は分配できる注意資源が少なくなるために (苧阪, 2014),読解過程終盤のつまずきが生じやすくなると考えられる。こうしたつまずきに対して,小島・山本(2014)は,後置質問が有効であることを示唆したが,これは期待の域を出ていない。そこで,本研究ではWM容量の小さい学習者に対して後置質問による支援可能性を評定法により検討する。
方 法
参加者 大学生・大学院生30人(平均年齢21.9歳)。WM容量の測定に小林・大久保(2014) のオペレーションスパンテスト(以下,OSPAN) を用い中央値で低群と高群に分けた。
材料 山本 (2011) の「携帯電話からの119番電話のかけ方」についての手続き的説明文 (非挿入型説明文と呼ぶ)。これをもとに,前置質問と後置質問をとりいれた説明文を作成 (前者を前置型説明文,後者を後置型説明文と呼ぶ)。なお全ての挿入質問の内容は「携帯電話からの119番のかけ方に注意し,手順を理解することができましたか」であった。
手続き 参加者には,説明文を読んだ後,理解度を評定させた。評定項目は手順についての理解度 (手順の理解度),説明文全体についての理解度 (全体の理解度),説明文の用語についての理解度 (用語の理解度)あった。評定は「非常に分かりにくい」~「非常に分かりやすい」までの7段階で求め,評定値に0点~6点を与えて分析を行った。閲覧の順序・繰り返し,評定の修正は自由に行えた。説明文の提示順序はランダムにし,カウンターバランスをとった。評定後,OSPANを実施した。OSPANは計算課題・記銘課題・再生課題・フィードバックの手順を繰り返した。
結 果
3つの評定値を従属変数として,挿入質問(3)×WM容量の低高(2)の2要因分散分析を行った。その結果,まず手順の理解度で,挿入質問の主効果が有意傾向であり(F(2,27)=3.07, p<.10),多重比較(LSD法)の結果,非挿入型説明文と後置型説明文で有意(p<.05) であった(Figure 1)。次に全体の理解度については,挿入質問の主効果が有意であり(F(2,27)=5.18, p<.05),多重比較の結果,非挿入型説明文<後置型説明文(p <.01),前置型説明文<後置型説明文(p <.05)で有意であった。
以上から手順の理解度に対して後置質問の有効性が示されたため,WM容量が3つの手順の理解度を規定するプロセスをモデル化し(Figure 2),WM容量の低群と高群で共分散構造分析を行った。分析ツールにはAMOS20.0.0.1を用い,係数の推定には最尤法を用いた。この結果,適合度の高かったのは低群モデルにおいてであった(χ2(3)=5.06(ns.)),GFI=.868,AGFI=.561,RMSEA=.222)。Figure 2の数値は標準化偏回帰係数である。Figure 2のように,WM容量の低群において,WM容量から前置型説明文の手順理解度では有意でなかったが,後置型説明文の手順理解度では有意であった(p<.001)。
考 察
上記より手順の理解度に対して後置質問の有効性が示されたが,ここにはWM容量との関係が示された。特に,MW容量の小さい学習者においてのみで,後置型説明文についての理解度をWM容量が規定することが示された。これは,WM容量の小さい学習者であっても,一定水準を超えた学習者に後置質問の有効性がおよぶことを示唆する。ここでは,読解過程終盤において後置質問が読み返しを支援したためとも考えられるが,今後の検証を待ちたい。ただ,手続き的説明文の読解において後置質問はWM容量の小さい学習者の読解過程終盤への支援可能性は示唆されたと言える。
手続き的説明文の読解では,順序性の正確な理解が求められる。そのため,読解過程が進むにつれて読解は複雑化すると考えられるが,ワーキングメモリ (以下,WM)容量の小さい学習者は分配できる注意資源が少なくなるために (苧阪, 2014),読解過程終盤のつまずきが生じやすくなると考えられる。こうしたつまずきに対して,小島・山本(2014)は,後置質問が有効であることを示唆したが,これは期待の域を出ていない。そこで,本研究ではWM容量の小さい学習者に対して後置質問による支援可能性を評定法により検討する。
方 法
参加者 大学生・大学院生30人(平均年齢21.9歳)。WM容量の測定に小林・大久保(2014) のオペレーションスパンテスト(以下,OSPAN) を用い中央値で低群と高群に分けた。
材料 山本 (2011) の「携帯電話からの119番電話のかけ方」についての手続き的説明文 (非挿入型説明文と呼ぶ)。これをもとに,前置質問と後置質問をとりいれた説明文を作成 (前者を前置型説明文,後者を後置型説明文と呼ぶ)。なお全ての挿入質問の内容は「携帯電話からの119番のかけ方に注意し,手順を理解することができましたか」であった。
手続き 参加者には,説明文を読んだ後,理解度を評定させた。評定項目は手順についての理解度 (手順の理解度),説明文全体についての理解度 (全体の理解度),説明文の用語についての理解度 (用語の理解度)あった。評定は「非常に分かりにくい」~「非常に分かりやすい」までの7段階で求め,評定値に0点~6点を与えて分析を行った。閲覧の順序・繰り返し,評定の修正は自由に行えた。説明文の提示順序はランダムにし,カウンターバランスをとった。評定後,OSPANを実施した。OSPANは計算課題・記銘課題・再生課題・フィードバックの手順を繰り返した。
結 果
3つの評定値を従属変数として,挿入質問(3)×WM容量の低高(2)の2要因分散分析を行った。その結果,まず手順の理解度で,挿入質問の主効果が有意傾向であり(F(2,27)=3.07, p<.10),多重比較(LSD法)の結果,非挿入型説明文と後置型説明文で有意(p<.05) であった(Figure 1)。次に全体の理解度については,挿入質問の主効果が有意であり(F(2,27)=5.18, p<.05),多重比較の結果,非挿入型説明文<後置型説明文(p <.01),前置型説明文<後置型説明文(p <.05)で有意であった。
以上から手順の理解度に対して後置質問の有効性が示されたため,WM容量が3つの手順の理解度を規定するプロセスをモデル化し(Figure 2),WM容量の低群と高群で共分散構造分析を行った。分析ツールにはAMOS20.0.0.1を用い,係数の推定には最尤法を用いた。この結果,適合度の高かったのは低群モデルにおいてであった(χ2(3)=5.06(ns.)),GFI=.868,AGFI=.561,RMSEA=.222)。Figure 2の数値は標準化偏回帰係数である。Figure 2のように,WM容量の低群において,WM容量から前置型説明文の手順理解度では有意でなかったが,後置型説明文の手順理解度では有意であった(p<.001)。
考 察
上記より手順の理解度に対して後置質問の有効性が示されたが,ここにはWM容量との関係が示された。特に,MW容量の小さい学習者においてのみで,後置型説明文についての理解度をWM容量が規定することが示された。これは,WM容量の小さい学習者であっても,一定水準を超えた学習者に後置質問の有効性がおよぶことを示唆する。ここでは,読解過程終盤において後置質問が読み返しを支援したためとも考えられるが,今後の検証を待ちたい。ただ,手続き的説明文の読解において後置質問はWM容量の小さい学習者の読解過程終盤への支援可能性は示唆されたと言える。