日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG026] 機能と仕組みに注目する自己説明方略の指導が児童の説明文理解に及ぼす影響

是松沙羅1, 関口貴裕2 (1.東京学芸大学, 2.東京学芸大学)

キーワード:自己説明, 文章読解, 小学生

【背景および目的】
文章読解に有効な方略の一つに自己説明(self-explanation)がある。自己説明とは読解中に,読み手自身が内容に関する疑問を考えたり,意味を明確化したりする活動のことをいい,読解後の理解度テストの成績を向上させることが示されている(e.g., McNamara,2004)。しかしながら従来の研究では,何に注目して自己説明をすることが読解に有効なのかが明確でなかった。そこで深谷(2011)は,科学的概念の理解に焦点をあて,ある概念を構成する要素の機能・仕組みについて質問生成を行う自己説明訓練を中学生に対し行い,それにより,自由に質問生成を行った群に比べ,読解テストの成績が向上したことを報告している。これを受けて本研究では,学習場面における機能と仕組みに注目する自己説明訓練の有効性をより深く検討するために,1)機能と仕組みに注目する自己説明訓練が小学生高学年児童を対象とした場合でも有効なのか,2)自己説明訓練の効果は,訓練時と異なる分野(教科)の文章読解にも転移するのかの2点を明らかにすることを目的に実験を行った。
【方 法】
実験参加者 小学校5・6年児童103名。
要因計画 テスト時期(事前テスト/事後テスト)×訓練時の教科(テスト一致/テスト不一致)×方略教授内容(機能・仕組み説明/自由説明)の三要因混合計画(テスト時期のみ参加者内要因)。
刺激・手続き 実験は連続した5日間からなっていた。初日には参加者に理科分野の説明文(血液の仕組み,681字)を,読解中に考えたことを記述しながら読ませ,その後,語句の記憶を問う記憶問題と文中に明示的に書かれていない機能・仕組みを問う理解問題のそれぞれに答えさせた(事前テスト)。2~4日目では,文章を読んで質問とその答えを作成させる自己説明訓練を行った。その際,機能・仕組み説明条件の参加者には機能と仕組みに関する質問生成を行うよう指示し,一方,自由説明条件では特に制限は加えず自由に質問生成をさせた。訓練時の文章にはテスト一致条件では理科分野のものを,テスト不一致条件では社会分野のものをそれぞれ用いた。その上で,最終日に初日と同じ手順で理科分野の説明文(目の仕組み,781字)に関する事後テストを行った。
【結 果】
テスト成績 語句の記憶を問う記憶問題では,方略教授内容の違いによるテスト成績の違いは見られなかった(深谷, 2011と同じ結果)。一方,明示的に書かれていない機能・仕組みを問う理解問題(Fig. 1参照)では,事後テストにおいて,テスト一致条件・不一致条件ともに機能・仕組み説明条件の平均得点が自由説明条件のそれに比べ高くなっていた。三要因分散分析の結果,テスト時期×方略教授内容の交互作用が有意であり(F(1, 91)=4.44, p=.038),単純主効果検定の結果,事後テスト条件においてのみ方略教授内容の効果が有意であった(F(1, 93)=4.90, p=.029)。
テスト時の記述 事後テストの読解中に参加者が機能や仕組みに関する疑問を自発的に記述した程度を分析した。その結果,テスト一致条件では機能・仕組み説明条件の平均記述得点が自由説明条件のそれに比べ高くなっていた(F(1,43)=7.75, p=.008)。一方,テスト不一致条件では条件間で記述得点の差は見られなかった。
【考 察】
事後テストにおける理解問題の平均得点が,機能・仕組み説明条件で自由説明条件に比べ高かったことから,機能と仕組みに注目する自己説明訓練が小学生にも有効な読解方略であることが示された。また,この効果がテスト不一致条件でも見られたことから,機能と仕組みに注目することの効果が異なる分野(教科)の文章読解に転移することが示された。ただしテスト不一致条件における成績の向上は,参加者が機能・仕組みに対する疑問を自発的に生成したことによるものではないことも示唆された。成績の向上が何によりもたらされるかについてはさらなる検討が必要である。