[PG029] 共同による学習環境デザインの実際(1)
English Campという協同学習の効果
Keywords:第二言語習得, 共同学習, 課題価値
1. 問題と目的
コミュニケーション能力向上のための活動と,文法や語彙を学習するような英語学習はトレードオフの関係にある。つまり,コミュニケーション能力を向上させようとすると,文法や語彙の習得がおろそかになり,文法や語彙の学習を重点的に行うと,コミュニケーション力が育成されない可能性があるという事である。新学習指導要領では,外国語科の目標の中で,コミュニケーション能力の育成を重要視している(文部省, 2009)。グローバル社会において,異なる文化の人々を理解し,自分を表現し,彼らと協調して生きていく為には,外国語を用いたコミュニケーションはきわめて重要である。こうした「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」に関する学習動機づけが今後,英語教育を行う上で重要になる。八島 (2003) は,自発的にコミュニケーションを行う意思の事をWillingness to Communicate (以下WTC)とし,第二言語を用いて自発的にコミュニケーションをしようとする意思と定義している。指導要領の改訂に伴い,英語教員はコミュニケーション能力向上重視の授業を行っている。しかし,学習者にとって英語学習は,入学試験に合格するため等の実践的・制度的利用であると価値づけている学習者も多い(Hughes, 2005)。上述の事に関して,伊田 (2013) は,学習者が課題に見出している価値を課題価値 (task-value) と呼び,学習動機の重要な裏付けとしている。そのため,英語の授業を行うにあたって,学習者の学習意欲や動機をどのように高めていくかが重要な課題であると言えるだろう。本研究では,英語でのコミュニケーションを行うEnglish Camp活動を通して,学習者の英語に対する課題価値やWTCの変化を学習者の振り返り記録から分析することを目的とする。
2. 方法
調査対象者は,A地方の教育委員会が毎年主催しているEnglish Campの上級クラスの生徒12名(中学3年生~高校3年生の男子1名,女子11名)とした。分析対象者はMain Camp(以下MC,平成26年7月26日~30日)とPost Camp(以下PC,平成27年1月8日~11日)の両方に参加した生徒8名である。活動終了後,筆者とALT(Assistant Language Teacher)と共に10~15分程度の自由想起による振り返りを英語で個人ごとに行った。振り返りの内容は①1日を振り返って心に残っている事とその日頑張った事,②次の日に頑張りたい事。振り返りは,個人が持つしおりに記述してもらい,その後データとして記録した。データ化に関しては,生徒12名全員の同意を得た上で行った。1年間のキャンプを通して,の伝達内容 (Contents),文法(Grammar),語彙(Vocabulary)の3項目において生徒たちの能力の変化をデータ化するために振り返り記録の印象評定を行った。印象評定に関しては筆者があらかじめ上記の三項目に関して評価基準を作成し,筆者を含む心理学研究室の大学院生2人と日本に留学経験のあるネイティブスピーカー2人で印象評定を5件法(5: Excellent~1: Poor)で行った。
3. 結果
語彙数の変化 MCと5カ月後開催のPCの両方に参加した生徒8名のキャンプの振り返り記録の語彙数を分析したところ,以下の表1のようになった(小数点第二位以下四捨五入)。
1年間のCampを通しても語彙数は増えない事が分かった。
伝達・文法・語彙 抽出した8名の生徒全員の印象評定の平均を算出したところ,以下の表2のようになった(小数点第二以下四捨五入)。
1年間のCampを通しても上記3項目の能力が養われないという事が分かった。
感想の内容 抽出された生徒のほとんどは英語でのコミュニケーション力の向上について書いていた。何人かの生徒は,コミュニケーション力の向上からCamp自体を楽しむこと等の「英語使用そのもの」が目的となっているのではなく,英語が「コミュニケーション能力向上」のための道具として使用されている事が分かった。
4. 考察
キャンプの中では主に生徒たちのWTCを養う事を目的としており,文法や語彙指導をあまり行っていない。そのため,文法の正しさよりも,相手に自分の事を伝えたいと言う気持ち(WTC)がキャンプを通して養われるような学習環境が作られていたと推察する。また,文法や語彙を重視し活動を行っていないことから,生徒たちが元々持っている語彙力でコミュニケーションを図ろうとしている結果が振り返り記録で明らかになったのではないかと推察する。キャンプを通して生徒たちの英語に対する価値が実践的・制度的利用価値から私的獲得・興味価値へと変化したと推察する。
コミュニケーション能力向上のための活動と,文法や語彙を学習するような英語学習はトレードオフの関係にある。つまり,コミュニケーション能力を向上させようとすると,文法や語彙の習得がおろそかになり,文法や語彙の学習を重点的に行うと,コミュニケーション力が育成されない可能性があるという事である。新学習指導要領では,外国語科の目標の中で,コミュニケーション能力の育成を重要視している(文部省, 2009)。グローバル社会において,異なる文化の人々を理解し,自分を表現し,彼らと協調して生きていく為には,外国語を用いたコミュニケーションはきわめて重要である。こうした「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」に関する学習動機づけが今後,英語教育を行う上で重要になる。八島 (2003) は,自発的にコミュニケーションを行う意思の事をWillingness to Communicate (以下WTC)とし,第二言語を用いて自発的にコミュニケーションをしようとする意思と定義している。指導要領の改訂に伴い,英語教員はコミュニケーション能力向上重視の授業を行っている。しかし,学習者にとって英語学習は,入学試験に合格するため等の実践的・制度的利用であると価値づけている学習者も多い(Hughes, 2005)。上述の事に関して,伊田 (2013) は,学習者が課題に見出している価値を課題価値 (task-value) と呼び,学習動機の重要な裏付けとしている。そのため,英語の授業を行うにあたって,学習者の学習意欲や動機をどのように高めていくかが重要な課題であると言えるだろう。本研究では,英語でのコミュニケーションを行うEnglish Camp活動を通して,学習者の英語に対する課題価値やWTCの変化を学習者の振り返り記録から分析することを目的とする。
2. 方法
調査対象者は,A地方の教育委員会が毎年主催しているEnglish Campの上級クラスの生徒12名(中学3年生~高校3年生の男子1名,女子11名)とした。分析対象者はMain Camp(以下MC,平成26年7月26日~30日)とPost Camp(以下PC,平成27年1月8日~11日)の両方に参加した生徒8名である。活動終了後,筆者とALT(Assistant Language Teacher)と共に10~15分程度の自由想起による振り返りを英語で個人ごとに行った。振り返りの内容は①1日を振り返って心に残っている事とその日頑張った事,②次の日に頑張りたい事。振り返りは,個人が持つしおりに記述してもらい,その後データとして記録した。データ化に関しては,生徒12名全員の同意を得た上で行った。1年間のキャンプを通して,の伝達内容 (Contents),文法(Grammar),語彙(Vocabulary)の3項目において生徒たちの能力の変化をデータ化するために振り返り記録の印象評定を行った。印象評定に関しては筆者があらかじめ上記の三項目に関して評価基準を作成し,筆者を含む心理学研究室の大学院生2人と日本に留学経験のあるネイティブスピーカー2人で印象評定を5件法(5: Excellent~1: Poor)で行った。
3. 結果
語彙数の変化 MCと5カ月後開催のPCの両方に参加した生徒8名のキャンプの振り返り記録の語彙数を分析したところ,以下の表1のようになった(小数点第二位以下四捨五入)。
1年間のCampを通しても語彙数は増えない事が分かった。
伝達・文法・語彙 抽出した8名の生徒全員の印象評定の平均を算出したところ,以下の表2のようになった(小数点第二以下四捨五入)。
1年間のCampを通しても上記3項目の能力が養われないという事が分かった。
感想の内容 抽出された生徒のほとんどは英語でのコミュニケーション力の向上について書いていた。何人かの生徒は,コミュニケーション力の向上からCamp自体を楽しむこと等の「英語使用そのもの」が目的となっているのではなく,英語が「コミュニケーション能力向上」のための道具として使用されている事が分かった。
4. 考察
キャンプの中では主に生徒たちのWTCを養う事を目的としており,文法や語彙指導をあまり行っていない。そのため,文法の正しさよりも,相手に自分の事を伝えたいと言う気持ち(WTC)がキャンプを通して養われるような学習環境が作られていたと推察する。また,文法や語彙を重視し活動を行っていないことから,生徒たちが元々持っている語彙力でコミュニケーションを図ろうとしている結果が振り返り記録で明らかになったのではないかと推察する。キャンプを通して生徒たちの英語に対する価値が実践的・制度的利用価値から私的獲得・興味価値へと変化したと推察する。