[PG031] 共同による学習環境デザインの実際(3)
協働学習が児童の知識獲得に及ぼす効果:小学3年生の漢字学習の実践から
Keywords:学習環境デザイン, 協働学習, 共同学習
1. 問題と目的
学校はともに学び合う場である。言語的あるいは非言語的なコミュニケーションを通じて,わかりあったり,共にできるようになったりしながら,知識を獲得し理解が深まると同時に,他者と関わり合いを体験的に感じ取り,認知のみならず情意,人間関係など,多面的に成長していく場が学校である。つまり,学校での学びは学習者個人の能力に焦点化することよりも,実践の成立のために,学習参加者相互の言語活動や支援が自然と生起するような協働する場が求められている。有元・岡部(2013)は,このような学習の場を,集合的学習の場であると捉え,みんながいることで何かが達成できるようになる「集合的達成」の概念を用いて,学習における共に取り組むことの価値を強調する。
本研究は,協働学習がもたらす児童の知識獲得への影響を比較し,効果的な学習環境デザインを検討することを目的とする。
2. 方 法
横浜市内の私立小学校3年生78名の漢字学習を対象とした。2014年10月より実施した全10回の漢字書き取りテストに向けた学習について,知識伝達群(39名)へは10回の学習全てにおいて,教師の板書と一方的な説明のみによる知識伝達型学習を行った。協働群(39名)へは,10回の学習のうち知識伝達型学習を前半5回行い,後半5回には児童らの教え合いを取り入れた協働学習を導入し学習を行った。
なお,全10回の学習実践の後,学習型式による児童の知識獲得への影響を考慮し,協働群と同じメソッドによる協働学習を,知識伝達群にも適用した。また,データの取り扱いに関しては,管理職の指導のもと個人情報に留意した。
3. 結果と考察
協働学習の効果を分析するため,導入前と導入後の両群の漢字テストの得点について分散分析を行った(表1)。その結果,協働学習導入前においては有意差が見られなかったが,導入後においては,1%水準で有意差が見られた。協働学習導入前には両群の得点差は無かったが,導入後は協働群の得点が高くなることが明らかになった。
次に,協働学習導入前の得点の平均を基準に,両群をそれぞれ高群・中群・低群の3つに分けた。協働学習の導入がどの得点層に影響があるかを分析するため,両群の得点についてそれぞれ分散分析を行った(表2)。その結果,高群と低群においては1%水準で有意差が見られ,中群においては5%水準で有意差が見られた。したがって,全ての得点層において協働学習の導入が得点を高くすることが明らかになり,特に高得点層と低得点層の得点が高くなることが示された。
協働学習は,多様な能力を持った他者との関わり合いの場,すなわち集合的学習の場が前提となる。これらの結果から,集合的学習の場の効果は,個人の能力の水準に限定されず発揮されることが明らかになった。
そこで問題となるのが,協働学習における教師の課題設定である。協働学習に取り組む場合,教師は個人の能力を重視するのではなく,それを超えた,子供にとって新しい領域を集合的に体験させるような課題設定が必要となる。つまり,子供が協働しなければ達成できない課題を教師が与えることで,子供を集合的学習の場に誘致することが望ましい。しかし,集合的学習は他者との関わり合いが前提となるため,多面的に極めて複雑な絡み合いの場となることが予想される。そのため,教師による協働学習への導きは,学習集団への社会・文化的な適応の視点からの支援が必要となる。教師は,そのような学習者相互の社会・文化的な繋がりに,即興的かつ効果的に支援してゆかなければならない。つまり,教師も支援という形で,学習集団に入り,子供たちと共に発達してゆくものなのである。しかし,このような学習環境デザインは,まだ具現化されていない。今後は,子供たちみんなが集合的学習の場へ導かれる協働学習に組み込まれた社会的文脈を明らかする必要がある。
学校はともに学び合う場である。言語的あるいは非言語的なコミュニケーションを通じて,わかりあったり,共にできるようになったりしながら,知識を獲得し理解が深まると同時に,他者と関わり合いを体験的に感じ取り,認知のみならず情意,人間関係など,多面的に成長していく場が学校である。つまり,学校での学びは学習者個人の能力に焦点化することよりも,実践の成立のために,学習参加者相互の言語活動や支援が自然と生起するような協働する場が求められている。有元・岡部(2013)は,このような学習の場を,集合的学習の場であると捉え,みんながいることで何かが達成できるようになる「集合的達成」の概念を用いて,学習における共に取り組むことの価値を強調する。
本研究は,協働学習がもたらす児童の知識獲得への影響を比較し,効果的な学習環境デザインを検討することを目的とする。
2. 方 法
横浜市内の私立小学校3年生78名の漢字学習を対象とした。2014年10月より実施した全10回の漢字書き取りテストに向けた学習について,知識伝達群(39名)へは10回の学習全てにおいて,教師の板書と一方的な説明のみによる知識伝達型学習を行った。協働群(39名)へは,10回の学習のうち知識伝達型学習を前半5回行い,後半5回には児童らの教え合いを取り入れた協働学習を導入し学習を行った。
なお,全10回の学習実践の後,学習型式による児童の知識獲得への影響を考慮し,協働群と同じメソッドによる協働学習を,知識伝達群にも適用した。また,データの取り扱いに関しては,管理職の指導のもと個人情報に留意した。
3. 結果と考察
協働学習の効果を分析するため,導入前と導入後の両群の漢字テストの得点について分散分析を行った(表1)。その結果,協働学習導入前においては有意差が見られなかったが,導入後においては,1%水準で有意差が見られた。協働学習導入前には両群の得点差は無かったが,導入後は協働群の得点が高くなることが明らかになった。
次に,協働学習導入前の得点の平均を基準に,両群をそれぞれ高群・中群・低群の3つに分けた。協働学習の導入がどの得点層に影響があるかを分析するため,両群の得点についてそれぞれ分散分析を行った(表2)。その結果,高群と低群においては1%水準で有意差が見られ,中群においては5%水準で有意差が見られた。したがって,全ての得点層において協働学習の導入が得点を高くすることが明らかになり,特に高得点層と低得点層の得点が高くなることが示された。
協働学習は,多様な能力を持った他者との関わり合いの場,すなわち集合的学習の場が前提となる。これらの結果から,集合的学習の場の効果は,個人の能力の水準に限定されず発揮されることが明らかになった。
そこで問題となるのが,協働学習における教師の課題設定である。協働学習に取り組む場合,教師は個人の能力を重視するのではなく,それを超えた,子供にとって新しい領域を集合的に体験させるような課題設定が必要となる。つまり,子供が協働しなければ達成できない課題を教師が与えることで,子供を集合的学習の場に誘致することが望ましい。しかし,集合的学習は他者との関わり合いが前提となるため,多面的に極めて複雑な絡み合いの場となることが予想される。そのため,教師による協働学習への導きは,学習集団への社会・文化的な適応の視点からの支援が必要となる。教師は,そのような学習者相互の社会・文化的な繋がりに,即興的かつ効果的に支援してゆかなければならない。つまり,教師も支援という形で,学習集団に入り,子供たちと共に発達してゆくものなのである。しかし,このような学習環境デザインは,まだ具現化されていない。今後は,子供たちみんなが集合的学習の場へ導かれる協働学習に組み込まれた社会的文脈を明らかする必要がある。