[PG038] 大学生における問題発見力の向上を目指した介入授業の効果
文脈構成力の育成による効果の検討
Keywords:問題発見力, 高等教育, 文脈構成
問題と目的
本研究は大学の授業を通して学生の問題発見力(問い生成力)を高めることを目指し,特に文脈構成力を育成することの効果を検討したものである。
向井・丸野(2013 学会発表)では,学生が問いを見出すために,講義内容のどこに注目し,どのように考えを展開(文脈構成)すればよいかを,大まかな問いのイメージから逆算的に考える力(逆算的な文脈構成力)が高い者程,問題発見力が高いことが示されている。
こうした結果を踏まえ,本研究では逆算的な文脈構成力を高めるための介入が問題発見力の向上に及ぼす影響を検証することが目的である。
方法
対象者 女子大学の1~4年生89名。2012年度受講生が48名(1年生:38名,2年生:9名,4年生:1名)。2014年度受講生が41名(1年生:37名,3年生:3名,4年生:1名)。
条件群 介入群:2014年度受講生。授業内で逆算的な文脈構成作業を実施するだけでなく,Web学習システムを用いた授業外トレーニングを実施した。統制群:2012年度受講生。授業内で逆算的な文脈構成作業を実施するのみ。
授業の実施概要 学習心理学の7つのテーマからなる15回の講義。講義の中で学生自身が「問い」や「自分なりの答え」を考えたり,他の学生の問いや答えを見聞きしたり,良い点を評価する機会を設けた。また隔週で受講生が実際に考案した問いを1つ紹介し,その問いの考案者が,どのように考えてその問いに至ったのか,具体的内容を伴う思考の流れ(文脈)をできるだけ詳しく記述させた(逆算的文脈構成)。2014年度受講生には上記の活動以外に,自身が考えた問いについても思考の流れを記述させたり,Web学習システムによるトレーニングも実施した(2週間で4~5問×5セット)。Web学習システムでは記述式だけでなく,より簡単な穴埋めや選択問題も用意し,逆算的文脈構成が苦手な者も取り組めるようにした。また提示される問い・答えは全て2012年度受講生(統制群)も授業中に目にしていたものを用いた。
問題発見力の測定・評価 各講義後に,学生個人で講義内容に関する「問い」と「自分なりの答え」を考えさせた。創造的に知識を拡張したり,理解を深めるような問題発見であるかを評価するために,「問い」だけでなく,問いに対する「自分なりの答え」も含め,以下の3つの観点から評価した。1.問いの再帰性:問い,答えを考えることで,元の学習内容の構造に新たな情報を付加する。2.答えの説明性:学習内容においてそれまで説明されていない事柄(なぜなのか,理由が明示されていない事柄)を説明している。3.答えの具体性(特殊性):当該の問い内容に特化し,ある程度具体性がある答え。1~3全て満たす問い-答えを“深い問題発見”として評価した。
評価は著者と大学院生によって行われ,深い問題発見についての評価の平均一致率は88.6%であった。
結果と考察
全講義を前期(2テーマ),中期(3テーマ),後期(2テーマ)にわけ,それぞれの期間ごとに,深い問題発見の平均出現率を算出した(Figure1)。条件群×時期の2要因分散分析の結果,前期では群間に問題発見率の有意な差はなく,中期・後期において介入群の方が有意に問題発見率が高いことが示された(前期:p<.05,後期:p<.01)。以上の結果から,逆算的な文脈構成力を育成する介入が問題発見力を高めることが明らかになった。また,このことは両者の因果的関係を示唆しており,問題発見の認知プロセスにおいて逆算的な文脈構成が行われているという仮説(向井・丸野,2013学会発表)を支持するものであると考えられる。
本研究は大学の授業を通して学生の問題発見力(問い生成力)を高めることを目指し,特に文脈構成力を育成することの効果を検討したものである。
向井・丸野(2013 学会発表)では,学生が問いを見出すために,講義内容のどこに注目し,どのように考えを展開(文脈構成)すればよいかを,大まかな問いのイメージから逆算的に考える力(逆算的な文脈構成力)が高い者程,問題発見力が高いことが示されている。
こうした結果を踏まえ,本研究では逆算的な文脈構成力を高めるための介入が問題発見力の向上に及ぼす影響を検証することが目的である。
方法
対象者 女子大学の1~4年生89名。2012年度受講生が48名(1年生:38名,2年生:9名,4年生:1名)。2014年度受講生が41名(1年生:37名,3年生:3名,4年生:1名)。
条件群 介入群:2014年度受講生。授業内で逆算的な文脈構成作業を実施するだけでなく,Web学習システムを用いた授業外トレーニングを実施した。統制群:2012年度受講生。授業内で逆算的な文脈構成作業を実施するのみ。
授業の実施概要 学習心理学の7つのテーマからなる15回の講義。講義の中で学生自身が「問い」や「自分なりの答え」を考えたり,他の学生の問いや答えを見聞きしたり,良い点を評価する機会を設けた。また隔週で受講生が実際に考案した問いを1つ紹介し,その問いの考案者が,どのように考えてその問いに至ったのか,具体的内容を伴う思考の流れ(文脈)をできるだけ詳しく記述させた(逆算的文脈構成)。2014年度受講生には上記の活動以外に,自身が考えた問いについても思考の流れを記述させたり,Web学習システムによるトレーニングも実施した(2週間で4~5問×5セット)。Web学習システムでは記述式だけでなく,より簡単な穴埋めや選択問題も用意し,逆算的文脈構成が苦手な者も取り組めるようにした。また提示される問い・答えは全て2012年度受講生(統制群)も授業中に目にしていたものを用いた。
問題発見力の測定・評価 各講義後に,学生個人で講義内容に関する「問い」と「自分なりの答え」を考えさせた。創造的に知識を拡張したり,理解を深めるような問題発見であるかを評価するために,「問い」だけでなく,問いに対する「自分なりの答え」も含め,以下の3つの観点から評価した。1.問いの再帰性:問い,答えを考えることで,元の学習内容の構造に新たな情報を付加する。2.答えの説明性:学習内容においてそれまで説明されていない事柄(なぜなのか,理由が明示されていない事柄)を説明している。3.答えの具体性(特殊性):当該の問い内容に特化し,ある程度具体性がある答え。1~3全て満たす問い-答えを“深い問題発見”として評価した。
評価は著者と大学院生によって行われ,深い問題発見についての評価の平均一致率は88.6%であった。
結果と考察
全講義を前期(2テーマ),中期(3テーマ),後期(2テーマ)にわけ,それぞれの期間ごとに,深い問題発見の平均出現率を算出した(Figure1)。条件群×時期の2要因分散分析の結果,前期では群間に問題発見率の有意な差はなく,中期・後期において介入群の方が有意に問題発見率が高いことが示された(前期:p<.05,後期:p<.01)。以上の結果から,逆算的な文脈構成力を育成する介入が問題発見力を高めることが明らかになった。また,このことは両者の因果的関係を示唆しており,問題発見の認知プロセスにおいて逆算的な文脈構成が行われているという仮説(向井・丸野,2013学会発表)を支持するものであると考えられる。