日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PG

2015年8月28日(金) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PG047] 幼児における初期の分数能力の発達

幼児は分数の同値をいかに説明するか

糸井尚子 (東京学芸大学)

キーワード:幼児, 分数

問題と目的
幼児期において初期の分数能力の発達の研究が行われてきた。今回は幼児が初期の分数課題で分数の同値性の判断を行えるか,分数の同値をいかに説明するかを検討する。
方 法
協力者 4才児クラス50人(平均年令4才10ヶ月),5才児クラス50人(平均年令5才10ヶ月)合計100人である。材料 四つ切りの青色の紙の上に,上段には,提示図版として円形のピザ(黄色)あるいは四角形のチョコ(茶色)で,12分割で2/12,6/12,8/12のいずれかが示されている。下段には選択図版として2つの白い長方形があり,それぞれの中に三角形が4つずつあり,そのうちの左方・あるいは右方のいくつかが上段の図形と同色に塗られている。課題は12枚で,6枚はピザ,6枚はチョコであり,それぞれ6枚のうち3枚は提示図版に分割線がなく,3枚は分割線がある。2/12,6/12,8/12のそれぞれに対して選択図版は順に(1/6,2/6),(2/6,3/6),(2/6,4/6)である。提示図版の四角形は(90mm×135mm:余白を含む外寸114mm×164mm)、円形は(半径60mm:外寸140mm×140mm)、選択図版は(正三角形1辺30mm:外寸50mm×210mm)である。手続き 「(上段の図形を指し)これはピザです。こっちの分(着色されていない部分)は食べて,こっちの分(着色されている部分)は残っています。(下段の2つの長方形を指し)下にもピザの箱が2つあります。この箱はこっちの分(着色されていない三角)は食べて,こっちの分(着色された三角)は残っています。この箱ではこっちの分は食べて,こっちの分は残っています。上のピザと同じ分食べて,同じ分残っているのはどっちの箱でしょうか。」,各課題で協力者が選択した後で,「どうしてこっちだと考えたのか教えてください。」と理由を聞いた。それぞれの協力者に12課題を実施し,提示順はランダムとした。
結果と考察
協力者全体の正答率は76.3%で,4歳では73.7%,5歳では78.8%であった。年齢群での正答率の比較を行ったところ,5%水準で有意差があった(χ2 (1, N=1200)=4.42, p<.05)。そのため,年齢群ごとに分析を行う。まず,4歳児群において,分割線の有無と提示図版の形と提示図版の分子数の3要因の角変換による分散分析を行った。提示図版の形,分子数の2つの主効果はいずれも1%水準で有意であった(順にχ2 (1)=6.85, χ2 (2)=106.01, どちらもp<.01)。分割線の有無の主効果は有意ではなかった(χ2 (1)=1.19, n.s.)。また,交互作用については分割線の有無と形,形と分子数は5%水準で有意であった(順にχ2 (1)=5.53,χ2 (2)=7.25,χ2 (2)=1.65, いずれもp<.05)。交互作用については分割線の有無と分子数においては10%水準で有意傾向があった(χ2 (2)=5.23, p<.10)。分割線と形と分子数の交互作用は有意でなかった(χ2 (2)=2.21, n.s.)。同様に,5歳児群でも3要因の角変換による分散分析を行った。その結果,提示図版の形,分子数の2つの主効果はいずれも1%水準で有意であった(順にχ2 (1)=9.92, χ2 (2)= 70.20, p<.01)。分割線の有無の主効果は有意ではなかった(χ2 (1)=1.42, n.s.)。
次に理由について分類を行った。2名の評定者が独立に分類を行い一致しなかったものについては合議で分類を決定した。一致率は96.0%であった。まず数による理由について出現比率は全体で37.6%,4歳児で33.0%,5歳児で42.2%であり,量による理由は全体で27.2%,4歳児で29.7%,5歳児で24.7%であった。数と量の両方に言及した場合を数量混合としたが,これは全体で5.4%であった。数の比率,量の比率を理由としたのは全体でそれぞれ0.3%,0.1%であった。その他と分類したものは全体で18.9%,無回答が全体で10.5%であった。数による理由,量による理由の出現比率を合計すると全体で64.8%であった。
幼児の初期の分数課題で正答率は70%を超え,分数の同値の判断が可能であることが示された。さらに,数による理由と量による理由を合計すると全体で64.8%であり,分数の同値性に幼児が数や量による理由づけをすることが明らかになった。