The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PG

Fri. Aug 28, 2015 10:00 AM - 12:00 PM メインホールA (2階)

[PG056] 日常記憶の自己評価に関する成人発達

年齢層の異なる成人による日常記憶質問紙(EMQ)への評定反応の分析

清水寛之1, 金城光#2 (1.神戸学院大学, 2.明治学院大学)

Keywords:日常記憶質問紙, 加齢, メタ記憶

問 題
メタ記憶質問紙(metamemory questionnaire)は,調査参加者個人の記憶信念,及び自らの記憶行動や記憶能力に関する主観的評価や回想的判断を調べるものであり,人間のメタ記憶の構造を知るための有用な手がかりを提供すると考えられる。メタ記憶質問紙のなかでも,Sunderland, Harris, &Baddeley (1983, 1984)によって開発された日常記憶質問紙(Everyday Memory Questionnaire:以下,EMQと略す)は健常者だけでなく,脳損傷や脳卒中,多発性硬化症などの疾患をもつ患者を対象にさまざまな臨床場面で活用されている。本研究の目的は,このEMQを年齢層の異なる成人3群(若齢者,中年者,高齢者)に実施し,EMQの28個の質問項目のなかで年齢の効果が認められるものとそうでないものを明らかにし,加齢の効果の有無によってEMQの質問項目全体を整理しなおすことにある。そうすることによって,加齢効果の認められる質問項目とそうでない質問項目とを明確に特定化することが可能になるだろう。
方 法
調査時期 調査は,2010年10月から2011年7月にかけて実施された。
調査参加者 若齢者群(99名:平均21.1歳,19-25歳),中年者群(97名:平均45.5歳,38-55歳),高齢者群(103名:平均68.0歳,63-75歳)の三つの年齢群が構成された。
調査実施手続き 年齢群ごとに複数の集団が編成され,それぞれの集団ごとに異なる日程で実施された。若齢者群は大学の放課後や休日を利用して2~25名の集団で,中年者群は大学の構内で10~20名の集団で,高齢者群は業務依頼先のシルバー人材センターの集会所で約20名の集団で実施された。回答時間は15分程度であった。
質問紙 日常生活場面での特定の記憶行動や記憶現象を表す記述文(全28項目:例えば「物を置いた場所を忘れる。身の回りの品物をなくす」)に対して,その出現頻度を「最近6ヶ月で1回もない」⑴~「日に1回以上」⑼の9件法で評定することが求められた。
結果と考察
平均評定値の高低順位に基づく質問項目のパターン分類 3群の平均評定値の高低順位に基づいて全28項目を分類・整理すると,以下の六つのパターンに分かれることが示された。
(a) 3群間に評定値の有意差が認められなかった項目(若齢者群=中年者群=高齢者群:12項目)は,主として,事物の位置や置き場所の想起困難,日常習慣からの逸脱困難などに関するものであった。
(b) 若齢者群と中年者群との間に評定値の有意差が認められず,その両群がともに高齢者群よりも有意に評定値が高かった項目(若齢者群=中年者群>高齢者群:4項目)は,主として,過去の出来事や特定の人物・事物の名前の失念に関するものであった。
(c) 中年者群と高齢者群との間に有意差が認められず,その両群がともに若齢者群よりも評定値が有意に低かった項目(若齢者群>中年者群=高齢者群:4項目)は,主として,展望記憶(prospective memory)に関する失敗や会話時の混乱に関連していた。
(d) 若齢者群が高齢者群よりも平均評定値が有意に高く,中年者群は若齢者群とも高齢者群とも有意差が認められなかった項目(若齢者群>高齢者群:6項目)は,主として,過去の出来事や行為,発話に関する想起困難に関連していた。
(e) 若齢者群の評定値がもっとも高く,次いで中年者群で,高齢者群がもっとも評定値が低く,それらの間にそれぞれ有意差が認められた項目(若齢者群>中年者群>高齢者群:1項目)は,他者との会話中に本筋から脱線して別の話題に移ったあと,当初の発話の意図や内容を失念してしまい元の話題に戻れない,というものであった。
(f) 若齢者群が中年者群よりも評定値が有意に高く,高齢者群が若齢者群とも中年者群とも有意差が認められなかった項目(若齢者群>中年者群:1項目)は移動・方向や見当識における失敗行動に関連していた。
項目パターンに基づく日常記憶の自己評価に関する加齢変化 成人期における日常記憶の自己評価に関する加齢変化のパターンは課題状況によって異なるものの,全体としては自己評価が低い状態から高い状態へと段階的に推移していくようである。言い換えれば,日常記憶の自己評価は,全般的に悲観的な自己評価から楽観的な自己評価へと変化していくと言えるかもしれない。