日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH030] 目標断念-再設定尺度の作成

自己省察に着目して

笠井祥穂1, 安藤有美2, 中谷素之3 (1.名古屋大学大学院, 2.四国大学, 3.名古屋大学大学院)

キーワード:目標断念, 目標再設定, 自己省察

問題と目的
人は誰しも,人生においてさまざまな目標を立て,それに向かって行動する。しかしながら,実際にはすべての目標を達成することは困難であり,達成不可能である目標を追い続けることは,かえって精神的健康にネガティブな影響を及ぼすと考えられる。Wrosch, Scheier, Carver & Schulz(2003)は,目標を追求し続けることと同様に重要なのは「目標を断念すること」「目標を再設定すること」であると主張している。
Wrosch et al.(2003)は,Goal Disengagement and Goal Reengagement Scaleを作成し,様々な変数との関連を検討している。また我が国では,Wrosch et al.(2003)の尺度を基に目標への関与尺度(浅野・小玉,2009)が作成されている。しかし,これらの尺度では,目標を断念してから,目標を再設定するために必要とされる要素について言及されていない。Trapnell & Campbell(1999)は,自分に注意を向けている状態及びそうしやすい性格特性である自己注目を「自己反芻」と「自己省察」に分類し,「自己省察」は自己理解や精神的健康を促進すると示している。また,坂本(2005)は,失敗後に自己に注意を向け,どこが悪いのか考えることは,同じ過ちを繰り返さないようにするために必要であると述べている。以上より,本研究では,目標を再設定するために重要だと考えられる「自己省察」の要素を含めて尺度を構成し,より妥当性のある尺度を作成することを目的とする。
方 法
対象者 自分にとって,重要な目標が達せられなかった経験が「ある」と答えた大学生538名(男性188名,女性350名,平均年齢19.36歳,SD=1.01)
質問紙 ①主観的幸福感尺度(伊藤・相良・池田・川浦,2003)②人格特性的自己効力感尺度(三好,2003)③意欲低下尺度(下山,1995)④精神的回復力尺度(小塩・中谷・金子・長峰,2002)⑤抑うつ気分(尾関,1993)⑥目標断念-再設定尺度(Wrosch et al., 2003;浅野・小玉,2009を参考に作成)
結果と考察
目標断念-再設定尺度の24項目について,探索的因子分析を行い,信頼性・妥当性の低かった項目を削除し再度因子分析を行ったところ,固有値の推移と解釈可能性から2因子構造が妥当であると判断された。項目内容および先行研究より,第1因子を「目標再設定」因子,第2因子を「目標断念」因子とした(Table 1)。
尺度の信頼性を検討するためにクロンバックのα係数を算出したところ,項目の一貫性が示された。また,妥当性の検討のため,精神的回復力尺度との相関係数を算出した(Table 2)。その結果,目標再設定は精神的回復力尺度の下位因子と正の関連,目標断念は負の関連を示し,本尺度の一定の妥当性が確認された。