[PH033] 多次元共感性尺度(MES)10項目版の検討
原版と同様の分析を通して
Keywords:共感性, 短縮版
問題と目的
多次元共感性尺度(MES;鈴木・木野, 2008)は,認知・情動の次元に加え,他者指向性・自己指向性という指向性の弁別を重視して作成された共感性尺度である。信頼性・妥当性以外にも利便性を考慮し,鈴木他(2000)による54項目版から複数回にわたる尺度検討を重ねた結果,「他者志向的反応(5項目)」「自己指向的反応(4項目)」「被影響性(5項目)」「視点取得(5項目)」「想像性(5項目)」の5下位尺度,計24項目からなる尺度が提案された。性格特性としての共感性を多面的に理解する上で有用と考えられ,以後の研究でも活用されている(e.g., 鈴木・木野, 2015)。
MESは今後もさまざまな研究での活用が期待される。その一つが,現在進行中の保育者養成課程の学生の共感性育成に関する研究である。これまでに筆者らは在学時から就職後までの追跡調査を行ってきた。長期追跡のためにWEB調査を導入し,また面接調査の中では,結果の即時フィードバックを検討している。このためには,より簡便な尺度の提案が望まれる。そこで,各下位尺度について2項目ずつ,計10項目で構成される短縮版の利用可能性について検討することとした。
方 法
短縮版の項目選定 項目の選定にあたっては,原版での因子負荷量やI-R相関等を参考にしつつも,内容的妥当性を重視して測定下位概念の代表性や広がり,項目内容のわかりやすさを基準に,著者2名の協議により行った(表1)。
調査対象者および調査内容 鈴木・木野(2008)の分析で用いられたデータを利用した。これは計5回の調査で871名の大学生から回答を得たものである。なお,このうち140名は,第1回調査と6ヶ月後の第2回調査の両方に回答した。MESに加え,対人反応性指標(IRI),情動的共感性尺度(QMEE),自己意識尺度,自己没入尺度,自尊感情尺度,個人志向性・社会志向性PN尺度,愛他行動尺度,Buss-Perry攻撃性質問紙,社会的スキル尺度,5因子性格検査,社会的望ましさ尺度への回答をいずれかの調査で求めた。
結果と考察
MES10項目版の下位尺度得点は,選定した2項目の評定平均とした。これを用いて,鈴木・木野(2008)と同様の相関分析を行った(表2)。
再検査信頼性については,6ヶ月間隔の縦断データの相関を求めた(r=.56~.67)。他者・自己指向的反応,視点取得ではやや低い値となったが,半年後の安定性としては許容範囲といえよう。
下位尺度間および他の共感性尺度(IRI,QMEE)との相関については,概ね,鈴木・木野(2008)で理論的に想定されたとおりの結果であった。ただし,MES自己指向的反応とMES想像性の関連はほとんど見られなかった(r=.11)。また,MES自己指向的反応が想定する測定範囲がIRI個人的苦痛よりも広いことから両者の間には弱い関連が想定されていたが,これもほとんど見られなかった(r=.17)。
この他の概念との関連については,一部で関連が弱いところも見られたが,想定から大きく外れるものではなかった。
以上から総合的に判断すると,10項目短縮版は,原版を著しく損なうものではなく,利用目的によっては,少数項目であるが故の弱点に配慮しながら,代替利用が可能なものであると考えられた。
多次元共感性尺度(MES;鈴木・木野, 2008)は,認知・情動の次元に加え,他者指向性・自己指向性という指向性の弁別を重視して作成された共感性尺度である。信頼性・妥当性以外にも利便性を考慮し,鈴木他(2000)による54項目版から複数回にわたる尺度検討を重ねた結果,「他者志向的反応(5項目)」「自己指向的反応(4項目)」「被影響性(5項目)」「視点取得(5項目)」「想像性(5項目)」の5下位尺度,計24項目からなる尺度が提案された。性格特性としての共感性を多面的に理解する上で有用と考えられ,以後の研究でも活用されている(e.g., 鈴木・木野, 2015)。
MESは今後もさまざまな研究での活用が期待される。その一つが,現在進行中の保育者養成課程の学生の共感性育成に関する研究である。これまでに筆者らは在学時から就職後までの追跡調査を行ってきた。長期追跡のためにWEB調査を導入し,また面接調査の中では,結果の即時フィードバックを検討している。このためには,より簡便な尺度の提案が望まれる。そこで,各下位尺度について2項目ずつ,計10項目で構成される短縮版の利用可能性について検討することとした。
方 法
短縮版の項目選定 項目の選定にあたっては,原版での因子負荷量やI-R相関等を参考にしつつも,内容的妥当性を重視して測定下位概念の代表性や広がり,項目内容のわかりやすさを基準に,著者2名の協議により行った(表1)。
調査対象者および調査内容 鈴木・木野(2008)の分析で用いられたデータを利用した。これは計5回の調査で871名の大学生から回答を得たものである。なお,このうち140名は,第1回調査と6ヶ月後の第2回調査の両方に回答した。MESに加え,対人反応性指標(IRI),情動的共感性尺度(QMEE),自己意識尺度,自己没入尺度,自尊感情尺度,個人志向性・社会志向性PN尺度,愛他行動尺度,Buss-Perry攻撃性質問紙,社会的スキル尺度,5因子性格検査,社会的望ましさ尺度への回答をいずれかの調査で求めた。
結果と考察
MES10項目版の下位尺度得点は,選定した2項目の評定平均とした。これを用いて,鈴木・木野(2008)と同様の相関分析を行った(表2)。
再検査信頼性については,6ヶ月間隔の縦断データの相関を求めた(r=.56~.67)。他者・自己指向的反応,視点取得ではやや低い値となったが,半年後の安定性としては許容範囲といえよう。
下位尺度間および他の共感性尺度(IRI,QMEE)との相関については,概ね,鈴木・木野(2008)で理論的に想定されたとおりの結果であった。ただし,MES自己指向的反応とMES想像性の関連はほとんど見られなかった(r=.11)。また,MES自己指向的反応が想定する測定範囲がIRI個人的苦痛よりも広いことから両者の間には弱い関連が想定されていたが,これもほとんど見られなかった(r=.17)。
この他の概念との関連については,一部で関連が弱いところも見られたが,想定から大きく外れるものではなかった。
以上から総合的に判断すると,10項目短縮版は,原版を著しく損なうものではなく,利用目的によっては,少数項目であるが故の弱点に配慮しながら,代替利用が可能なものであると考えられた。