日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH036] 「大切な物」と他者とのつながり

-関連要因の検討を通して-

庄司一子1, 崔玉芬2, 新井雅3, 山田有芸4, 江角周子5 (1.筑波大学, 2.関東学園大学, 3.健康科学大学, 4.筑波大学大学院, 5.筑波大学大学院)

キーワード:大切な物

問題と目的
物にあふれる生活を送る中で人は物をどのように扱い,どうとらえ関わっているのであろうか。
河合(2009)は,人々が「物質的豊かさ」から「こころの豊かさ」を求めるようになり製品開発でも「気持ちよさ」「安心感」など心の領域のコンセプトが求められつつあると述べている。
Chikszentmihalyi & Rochberg-Halton(1981)は「モノの意味」を探る中で「自分とは何か」という自己定義に物が果たす役割,物の意味や人の存在との関わりに関する知見を得ている。また,池内(2006)は自己延長としての対象物の検討の中でマテリアリズム尺度の検討を行った。さらに庄司他(2014)は大切な物の意味として「機能」「魅力増幅」「生き方への影響」「自己存在・表現」「関係・経験の象徴的価値」「情緒的価値」の6つの価値を見い出した。本研究はこれらを踏まえ,大切な物が愛着や信頼などとの心理的変数とどのように関連するかを検討することが目的である。
方 法
調査対象 首都圏の大学生112名(男性60名,女性52名)。年齢18歳~55歳(平均22.47歳)。
調査内容 ①大切な物について:大切な物の有無,「大切な物の意味」尺度21項目5件法(庄司他,2014),②物との関わり:アニミズム尺度(池内,2010),③関連要因:愛着スタイル(中尾・加藤,2004),信頼感尺度(雨貝,2006)。
調査期間 2013年10月。調査手続き 授業終了後一斉に配布実施し,回答しない自由,個人情報保護を保証した。
結果と考察
大切な物の有無 大切な物が「ある」のは91名(74.6%),以前あった11名(9%),今も以前も「ない」は名(16.45%)であった。
大切な物の有無と大切な物の意味 大切な物の有無と性を独立変数とし大切な物の意味の6下位尺度得点の2要因分散分析を行った。その結果大切な物が「ない」群は「ある」群より物の「魅力増幅的価値」が高く(F(2, 106)=16.62, p<.001,一方「関係・経験の象徴的価値」は有意に低かった(F(2, 106)=7.34, p<.01)。また「自己存在・表現的価値」「関係・経験の象徴的価値」は女子が男子より有意に高かった(F(1, 106)=4.50, p<.05, F(1, 106)=6.74, p<.05; Fig.1~Fig.3)。情緒的価値には交互作用が示された。
大切な物との関わりについて 大切なものの意味と関連要因の関連性を検討した。まずアニミズム,愛着スタイル,信頼感尺度を大切な物の有無と性で分散分析したところアニミズム尺度の「所有者の分身化」「所有物の擬人化」において大切な物の有無に有意な主効果が認められ,大切な物がある人はない人より有意にこれらが高かった(F(2, 106)=4.40, p<.05; F(2, 106)=5.05, p<.01)。愛着スタイルの「見捨てられ不安」では性の主効果が示された(F(2, 106)=5.82, p<.05)。またアニミズム,愛着スタイルから物の意味への重回帰分析の結果から一部有意な回帰が示されたが,信頼感については分散分析,重回帰分析のいずれにおいても有意な結果は得られなかった。
対象者の7割以上に大切な物があり,大切な物がある人にとって物は周囲の人との関係や経験の象徴である。大切なものがない人や愛着で不安が高い人は物は自己の魅力を高めるものである。女子は物に情緒的価値を見いだし自己の存在の象徴ととらえアニミズムや愛着とも関連していた。