[PH041] 達成目標志向性および暗黙の知能観の安定性
韓国人大学生を対象に
キーワード:達成目標志向性, 暗黙の知能観, 安定性
問題と目的
達成目標理論(achievement goal theory; Dweck & Leggett, 1988)において個人は“有能さを求める存在”と仮定され,その有能さを求めて人は達成目標を設定するとされる(上淵,2004)。達成目標は自己研鑽をめざす“マスタリー目標”と,他者よりよい成績を修めようとする,または悪い成績を修めることを避けようとする“遂行目標”に大別される。個人が課題遂行時に設定する達成目標の相違によって,課題遂行後に経験する感情や後続の行動パターンが異なるとされる。
Dweck(1986)のモデルでは,自己効力の高低によって,遂行目標を設定する者の課題遂行のパターンは異なるとされる。自己効力が高い者はマスタリー目標を持つ者と同様の行動パターンを示す一方,自己効力が低い者は,課題に失敗したり困難を感じたりした場合,課題に回避的になるとされる。これらを踏まえ,近年は遂行目標を“接近”,“回避”の2軸で分割し,それぞれ“遂行接近目標”,“遂行回避目標”とする3目標説の他に,マスタリー目標も2分する4目標説などがある(Elliot & Church, 1997; Elliot & McGregor, 2001)。
種々の研究において,達成目標はその持ちやすさ,すなわち“達成目標志向性”として特性的に扱われている。これらの達成目標志向性は,“暗黙の知能観”と呼ばれる知能に対する素朴理論によって規定される。知能は統制可能であり,変化しうると考える増大的知能観を有する者はマスタリー目標志向性を持ちやすい一方,知能は安定的で,変化しにくいと捉える実体的知能観を有する者は,遂行目標志向性を持ちやすいとされる。
Fryer & Elliot(2007)は,188名の大学生を対象に,5週間ごとに2度,3目標からなる達成目標志向性の測定を行い,その安定性を検討した。その結果,時点1と時点2の達成目標志向性の相関係数はrs=.67-.78,時点1と時点3ではrs=.59-.74の値をとっており,達成目標志向性は変化しにくい特性的なものであることを示唆している。
本研究では,韓国人大学生を対象に,暗黙の知能観および達成目標志向性の安定性を検討する。
方 法
対象者 韓国ソウル市内の女子大学生110名(年齢のM=20.92,SD=1.92)を対象とした。
尺度 達成目標志向性尺度は伊藤・上淵・藤井・大家(2013)の尺度を現在形に修正して用いた。暗黙の知能観尺度は藤井・上淵(2010)で使用された尺度を韓国語に翻訳して用いた。
手続き 講義時間の一部を使用して上述の尺度への回答を求めた(時点1)。その約3か月後に期末試験を実施した際に再度,上述の尺度への回答を求めた(時点2)。
結果および考察
尺度構成 まず時点1のデータで因子分析(最尤法プロマックス回転)を行い,どの因子に対しても負荷量の低かった2項目を除き再度同様の因子分析を行った。その結果から,マスタリー目標は5項目,遂行接近・遂行回避目標は各4項目として合算平均し,下位尺度を構成した(ωs=.69-.74)。暗黙の知能観尺度3項目は主成分分析を行い,1因子と解釈することが妥当であると判断した(因子寄与率66.47%,ω=.86)。時点2ではこれと同様に尺度構成を行った。時点1と2の対応がついたのは71名であったため,以下に示す相関分析はこの71名で行った。
安定性の検討 各尺度について2時点間の相関係数を算出した(Table 1)。2時点間の達成目標志向性の相関はrs=.52―.69という値をとっており,Fryer & Elliot(2007)の値と比してやや低いが,いずれも有意な正の相関を示していた。また,暗黙の知能観も2時点間の相関はr=.43(p<.01)であり,これも比較的安定していると考えられる。
以上のことから,韓国人大学生においても,達成目標志向性は安定的であること,そして暗黙の知能観も同様に安定的であることが示された。
達成目標理論(achievement goal theory; Dweck & Leggett, 1988)において個人は“有能さを求める存在”と仮定され,その有能さを求めて人は達成目標を設定するとされる(上淵,2004)。達成目標は自己研鑽をめざす“マスタリー目標”と,他者よりよい成績を修めようとする,または悪い成績を修めることを避けようとする“遂行目標”に大別される。個人が課題遂行時に設定する達成目標の相違によって,課題遂行後に経験する感情や後続の行動パターンが異なるとされる。
Dweck(1986)のモデルでは,自己効力の高低によって,遂行目標を設定する者の課題遂行のパターンは異なるとされる。自己効力が高い者はマスタリー目標を持つ者と同様の行動パターンを示す一方,自己効力が低い者は,課題に失敗したり困難を感じたりした場合,課題に回避的になるとされる。これらを踏まえ,近年は遂行目標を“接近”,“回避”の2軸で分割し,それぞれ“遂行接近目標”,“遂行回避目標”とする3目標説の他に,マスタリー目標も2分する4目標説などがある(Elliot & Church, 1997; Elliot & McGregor, 2001)。
種々の研究において,達成目標はその持ちやすさ,すなわち“達成目標志向性”として特性的に扱われている。これらの達成目標志向性は,“暗黙の知能観”と呼ばれる知能に対する素朴理論によって規定される。知能は統制可能であり,変化しうると考える増大的知能観を有する者はマスタリー目標志向性を持ちやすい一方,知能は安定的で,変化しにくいと捉える実体的知能観を有する者は,遂行目標志向性を持ちやすいとされる。
Fryer & Elliot(2007)は,188名の大学生を対象に,5週間ごとに2度,3目標からなる達成目標志向性の測定を行い,その安定性を検討した。その結果,時点1と時点2の達成目標志向性の相関係数はrs=.67-.78,時点1と時点3ではrs=.59-.74の値をとっており,達成目標志向性は変化しにくい特性的なものであることを示唆している。
本研究では,韓国人大学生を対象に,暗黙の知能観および達成目標志向性の安定性を検討する。
方 法
対象者 韓国ソウル市内の女子大学生110名(年齢のM=20.92,SD=1.92)を対象とした。
尺度 達成目標志向性尺度は伊藤・上淵・藤井・大家(2013)の尺度を現在形に修正して用いた。暗黙の知能観尺度は藤井・上淵(2010)で使用された尺度を韓国語に翻訳して用いた。
手続き 講義時間の一部を使用して上述の尺度への回答を求めた(時点1)。その約3か月後に期末試験を実施した際に再度,上述の尺度への回答を求めた(時点2)。
結果および考察
尺度構成 まず時点1のデータで因子分析(最尤法プロマックス回転)を行い,どの因子に対しても負荷量の低かった2項目を除き再度同様の因子分析を行った。その結果から,マスタリー目標は5項目,遂行接近・遂行回避目標は各4項目として合算平均し,下位尺度を構成した(ωs=.69-.74)。暗黙の知能観尺度3項目は主成分分析を行い,1因子と解釈することが妥当であると判断した(因子寄与率66.47%,ω=.86)。時点2ではこれと同様に尺度構成を行った。時点1と2の対応がついたのは71名であったため,以下に示す相関分析はこの71名で行った。
安定性の検討 各尺度について2時点間の相関係数を算出した(Table 1)。2時点間の達成目標志向性の相関はrs=.52―.69という値をとっており,Fryer & Elliot(2007)の値と比してやや低いが,いずれも有意な正の相関を示していた。また,暗黙の知能観も2時点間の相関はr=.43(p<.01)であり,これも比較的安定していると考えられる。
以上のことから,韓国人大学生においても,達成目標志向性は安定的であること,そして暗黙の知能観も同様に安定的であることが示された。