日本教育心理学会第57回総会

講演情報

ポスター発表

ポスター発表 PH

2015年8月28日(金) 13:30 〜 15:30 メインホールA (2階)

[PH043] 幼児の接近・接触行動における対象との関係

アタッチメントとコンパニオンシップの観点から

阿部麻耶1, 秦野悦子2 (1.白百合女子大学大学院, 2.白百合女子大学)

キーワード:接近・接触行動, アタッチメント, コンパニオンシップ

問題と目的
幼児はどのような状況で他者に対して接近し,接触するだろうか。Bowlby(1969)は乳幼児が危機的場面で安全基地となる特定他者に接近・接触することを指摘し,その関係性をアタッチメントとした。ネガティブ情動を低減させる関係性であるアタッチメントに対し,ポジティブな情動を共有し協力・同調する関係性をコンパニオンシップと言う(Treverthen,2001)。つまり,ネガティブ情動が生起する場面ではアタッチメントに基づく情動-行動システムが働き,ポジティブ情動が生起する場面ではコンパニオンシップに基づく情動-行動システムが働き,それにより他者に対する接近行動・接触行動が行われると考えられる。本研究では,幼児の接近・接触行動を行動が生起した場面の情動により分類し,幼児が他者をどのようにとらえ,どのような接近・接触行動を用いてかかわっているのかを検討することを目的とした。
方法
研究協力児:A県の保育所にかよう2歳児クラスおよび4歳児クラスの子どもを観察対象児とした。うち,観察の中心となるターゲット児を各クラス4名抽出した。観察手続き:各クラス週に1回,午前中の保育で参与観察を行った。観察は,行動前後の文脈が理解できるよう,毎回ターゲット児を中心とし周囲の様子も含めて観察を行い,フィールドノーツを作成した。観察期間:2014年5月から2014年11月まで実施した。分析:ターゲット行動のコーディングを①行動の種類,②ターゲット児,③行動の対象,④情動(ポジティブ・ネガティブ・ニュートラル)について行った。
結果と考察
2歳児クラスと4歳児クラスの接近対象別にχ2分析を行った結果,クラスメイトと保育に参加した大人への接近行動は2歳児クラスに比べ4歳児クラスが1%水準で有意に多く,保育園の先生への接近行動が4歳児クラスに比べ2歳児クラスが1%水準で有意に多かった(χ2(5)=375.32,p<.01)。2歳児クラスと4歳児クラスの接触対象別にχ2分析を行った結果,クラスメイトへの接触回数は2歳児クラスに比べて4歳児クラスが1%水準で有意に多く,保育園の先生への接触回数は1%水準で,保育に参加した大人への接触回数は5%水準で4歳児クラスに比べ2歳児クラスが有意に多かった(χ2(5)=281.37, p<.01)。クラスメイトへの接近行動を情動別に検討したところ,4歳児クラスは2歳児クラスに比べてポジティブ情動が1%水準で有意に多かった。また,ニュートラル情動が4歳児クラスに比べ2歳児クラスが1%水準で有意に多かった(χ2(2)=18.58,p<.01)。保育園の先生への接近行動を情動別に検討したところ,4歳児クラスは2歳児クラスに比べてネガティブ情動が5%水準で有意に多かった(χ2(2)=6.23, p<.05)。クラスメイトへの接触行動を情動別に検討したところ,4歳児クラスは2歳児クラスに比べてポジティブ情動が1%水準で多く,2歳児クラスは4歳児クラスに比べネガティブ情動が1%水準で有意に多く,ニュートラル情動が5%水準で有意に多かった(χ2(2)=38.53, p<.01)。ポジティブ情動を生起した場面とネガティブ情動を生起した場面の具体的な接近行動・接触行動の特徴を検討した結果,どちらのクラスでも保育園の先生に対してのみアタッチメント行動と考えられるネガティブ情動時の接近行動・接触行動が観察された。ポジティブ場面ではコンパニオンシップのかかわりと考えられる接近行動・接触行動がどちらのクラスでも保育園の先生,クラスメイト,保育に参加した大人それぞれに見られた。ポジティブ情動時のクラスメイトへの何かを見せるための接近行動は2歳児クラスに比べ4歳児クラスが有意に多く(p<.05),クラスメイトへの情動伝染による接近,保育園に参加した大人への興奮による接近,保育園の先生に対する親和関係の心地よい接触は2歳児では観察されたが4歳児クラスでは観察されないなど,クラスによる差が見られた。また,親和関係の心地よい接触はどちらのクラスでもクラスメイトに対しては見られないが,保育に参加した大人には観察される等,対象による具体的な行動の違いが見られた。