The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PA38] 対人関係傾向とアクティブラーニングの効果

公的自己意識の影響に着目して

山地弘起1, 川越明日香2 (1.大学入試センター, 2.長崎大学)

Keywords:大学教育, 公的自己意識, アクティブラーニング

問題と目的
 近年,教育方法としてのアクティブラーニング(以下AL)が政策的に注目され,AL型授業への転換が大学のみならず高校等にも期待されるようになっている(中教審, 2012, 2014)。ALは「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」(中教審, 2014)などと広く定義されるため,様々な教授法を含んでいるが,多くの場合グループワークを活用する。この点で,対人関係がストレス源となる学生・生徒にとっては,学習が十分に進まない可能性が危惧される。
 一方,学習や発達において,自尊感情,忍耐力,情動制御,社会性などの非認知的技能あるいは社会情動的技能の重要性が主張されている(ヘックマン, 2015; OECD, 2015)。大学の初年次教育でも,対人関係への動機づけが対人的適応を介して学業への適応につながることが示唆されている(中山ほか, 2015)。グループワークを多用する授業では,対人的適応の度合が学習を左右する可能性が強まると考えられるため,対人関係傾向と学業達成との関連を吟味しておくことは,今後のAL推進上の留意点を探るうえで不可欠であろう。
 そこで本研究では,抑制的同調を促進すると思われる公的自己意識(菅原, 1984)にまず着目し,AL型授業の前後での汎用的技能の自己評価や成績などとの関連を検討することを目的とした。
方   法
・実施計画:2015年10月および2016年1月実施の事前事後デザイン。
・対象授業:国立N大学での教養科目「多文化理解とことば」と「集団内コミュニケーション」。いずれもグループワークを多用するAL型授業で,科目担当者は同一教員。
・参加学生:男子47名,女子49名(性別不明2名)。N大学の9学部ほぼ全部から参加しており,ほとんどが2年次生(年齢M = 19.9, SD = 0.9)。
・使用尺度:主要な尺度として,①汎用的技能の自己評価尺度(山地・川越, 2014)の改訂版17項目。「自律的に学ぶ力」「批判的に考える力」「他者と関わる力」「表現し働きかける力」の4下位尺度から成る。②菅原(1984)から公的自己意識7項目。副次的な尺度として,③小島ほか(2003)から拒否回避欲求8項目。④菊池(1988)の社会的スキル尺度KiSS-18。いずれも5件法であり,①は事前事後双方で,②は事前のみで,③④は事後のみで,他の探索的項目と併せて実施した。
結果と考察
 AL型授業の成果として汎用的技能の自己評価の伸張を確認したところ,4下位尺度の合計点で事前(M=3.47, SD=0.49)から事後(M=3.60, SD=0.52)に有意に増加がみられた(t(81)=3.27, p=.002)。この自己評価合計点は, 事前において公的自己意識と無相関(r=.02)であったが,事後において拒否回避欲求および社会的スキルと有意な相関があった(それぞれr=-.33, p=.001; r=.78, p<.001)。また,事前の自己評価合計点を統制すると,事前の公的自己意識と事後の自己評価合計点との間で偏相関が有意であった(r=-.22, p=.046)。一方,成績は以上のどの変数とも有意な相関がなかった。
 これらの結果は少なくとも次の3点を示唆する。第一に,グループワークを多用するAL型授業では汎用的技能の自己評価が伸張するとともに,この自己評価は対人的適応の指標と正相関をもつ。第二に,対人的不適応の一側面として,公的自己意識は汎用的技能の自己評価の伸張に負の影響を及ぼし,公的自己意識が高い場合に学習の進展が妨げられる可能性がある。第三に,科目の成績と以上の指標との間には有意な相関がみられなかったため,今後実際の行動レベルで対人関係傾向と学業達成との関連をさらに検討していく必要がある。
引用文献
中教審 (2012). 新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)
中教審 (2014). 初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)
ヘックマン/古草秀子訳 (2015). 幼児教育の経済学 東洋経済新報社
菊池章夫 (1988). 思いやりを科学する 川島書店
小島弥生・太田恵子・菅原健介 (2003). 賞賛獲得欲求・拒否回避欲求尺度作成の試み 性格心理学研究, 11, 86-98.
中山留美子・中西良文・長濱文与・中島 誠 (2015). 初年次前期の授業での対人関係への動機づけが大学適応に及ぼす影響 心理学研究, 86, 170-176.
OECD (2015). Skills for social progress: The power of social and emotional skills. OECD Publishing.
菅原健介 (1984). 自意識尺度(self-consciousness scale)日本語版の作成の試み 心理学研究, 55,184-188.
山地弘起・川越明日香 (2014). 教養教育の目標整理と授業設計支援―長崎大学での試み 大学教育学会第36回大会発表(名古屋大学)