[PA40] 朗読予告による読み手の感情への影響
朗読の二段階モデルの観点から
Keywords:朗読予告, 読み手の感情, 朗読の二段階モデル
問題の所在
福田・楢原(2015)は,「声に抑揚がある」「声に強弱がある」「登場人物ごとに声色が変わっている」「発声が明確である」という4つの特徴をもった発声を朗読とした。ポジティブな物語を朗読した場合,音読するだけよりも読み手の感情がよりポジティブになることが明らかになり,彼らは朗読の二段階モデルを提案した。二段階モデルでは,読み手は第1段階で登場人物の気持ちや物語の内容を注意深く黙読する。その結果を用い,第2段階で実際に発声する。つまり,朗読するために第1段階で物語を深く理解をするため,物語が表している感情価と同様の感情が喚起されると考えた。
しかし,福田・楢原(2015)では朗読前と朗読後の読み手の感情を比較している。よって,深い理解をしていると考えられる第1段階の黙読時に,読み手の感情がどのように変化しているかを検討していない。そこで,本研究では朗読の二段階モデルの第1段階の黙読時における読み手の感情の変化を検討する。そのため,朗読を予告する条件とそうでない条件をもうけ,検討する。
方 法
実験計画 条件(朗読予告有り・予告無し)×測定時期(プレテスト・ポストテスト)の被験者内計画
実験参加者 男性11名,女性17名,計28名の大学生,大学院生で,年齢の範囲は18歳4ヶ月から26歳8ヶ月までであった。
材料 福田・楢原(2015)でポジティブな感情を表していると確認された「初がつおのたたき(西本,2004)」1,823文字,「たんぽぽの目(村岡,2014)」1,382文字を使用した。
質問紙 読み手の感情状態を測定するために,一般感情尺度(小川他,2000)を用いた。質問紙は肯定的感情因子・否定的感情因子・安静状態の3つの因子,各8項目,計24項目から構成されている。「全く感じていない」1点から「非常に感じている」4点までの4件法である。
手続き 参加者は無作為に2つの条件のうち1つに割り当てられ,1週間後にもうひとつの条件を行った。個別実験には約30分かかった。また,材料もカウンターバランスされた。
朗読予告有り条件では,最初にプレテストとして,自分の感情について評定した。その後,練習用の材料を用いて,参加者は朗読の練習を行った。その際,朗読の4つの特徴を教示し,それにそって発声できるまで練習を続けた。その後の本実験では,参加者はコンピュータの画面に提示された材料を1文ずつ,自分のペースで黙読した。黙読終了後,ポストテストとして自分の感情に関して評定をし,その後,実際に朗読を行った。一方,予告無し条件では,朗読の予告とその練習,実際に朗読すること以外は,予告有り条件とすべて同じ手続きであった。
結果・考察
感情に関する記述統計量をTable 1に示した。因子ごとに2×2の被験者内分散分析を行った。その結果,否定的感情得点と安静状態得点には,有意な主効果および交互作用は認められなかった。一方,肯定感情得点において,交互作用に有意傾向が認められた(F(1,27)=3.52,p=.07)。そこで,単純主効果検定を行った結果,朗読予告有り条件のみに,ポストテストの方がプレテストよりも得点が高かった(F(1,54)=5.42,p<.05)。プレテストにおいて条件に有意な差がないことも考え合わせると,朗読の第1段階で黙読をするだけで,読み手の感情価は物語のそれと同様な状態になると考えられる。朗読の予告だけで,読み手は浅い処理から脱却し,登場人物の気持ちや内容理解を深く理解すると考えられる。
主な引用文献
福田・楢原 (2015). 朗読をすると気分が良くなるのか?読書科学, 57, 23-34.
小川・門地・菊谷・鈴木 (2000). 一般感情尺度の作成 心理学研究, 71, 241-246.
福田・楢原(2015)は,「声に抑揚がある」「声に強弱がある」「登場人物ごとに声色が変わっている」「発声が明確である」という4つの特徴をもった発声を朗読とした。ポジティブな物語を朗読した場合,音読するだけよりも読み手の感情がよりポジティブになることが明らかになり,彼らは朗読の二段階モデルを提案した。二段階モデルでは,読み手は第1段階で登場人物の気持ちや物語の内容を注意深く黙読する。その結果を用い,第2段階で実際に発声する。つまり,朗読するために第1段階で物語を深く理解をするため,物語が表している感情価と同様の感情が喚起されると考えた。
しかし,福田・楢原(2015)では朗読前と朗読後の読み手の感情を比較している。よって,深い理解をしていると考えられる第1段階の黙読時に,読み手の感情がどのように変化しているかを検討していない。そこで,本研究では朗読の二段階モデルの第1段階の黙読時における読み手の感情の変化を検討する。そのため,朗読を予告する条件とそうでない条件をもうけ,検討する。
方 法
実験計画 条件(朗読予告有り・予告無し)×測定時期(プレテスト・ポストテスト)の被験者内計画
実験参加者 男性11名,女性17名,計28名の大学生,大学院生で,年齢の範囲は18歳4ヶ月から26歳8ヶ月までであった。
材料 福田・楢原(2015)でポジティブな感情を表していると確認された「初がつおのたたき(西本,2004)」1,823文字,「たんぽぽの目(村岡,2014)」1,382文字を使用した。
質問紙 読み手の感情状態を測定するために,一般感情尺度(小川他,2000)を用いた。質問紙は肯定的感情因子・否定的感情因子・安静状態の3つの因子,各8項目,計24項目から構成されている。「全く感じていない」1点から「非常に感じている」4点までの4件法である。
手続き 参加者は無作為に2つの条件のうち1つに割り当てられ,1週間後にもうひとつの条件を行った。個別実験には約30分かかった。また,材料もカウンターバランスされた。
朗読予告有り条件では,最初にプレテストとして,自分の感情について評定した。その後,練習用の材料を用いて,参加者は朗読の練習を行った。その際,朗読の4つの特徴を教示し,それにそって発声できるまで練習を続けた。その後の本実験では,参加者はコンピュータの画面に提示された材料を1文ずつ,自分のペースで黙読した。黙読終了後,ポストテストとして自分の感情に関して評定をし,その後,実際に朗読を行った。一方,予告無し条件では,朗読の予告とその練習,実際に朗読すること以外は,予告有り条件とすべて同じ手続きであった。
結果・考察
感情に関する記述統計量をTable 1に示した。因子ごとに2×2の被験者内分散分析を行った。その結果,否定的感情得点と安静状態得点には,有意な主効果および交互作用は認められなかった。一方,肯定感情得点において,交互作用に有意傾向が認められた(F(1,27)=3.52,p=.07)。そこで,単純主効果検定を行った結果,朗読予告有り条件のみに,ポストテストの方がプレテストよりも得点が高かった(F(1,54)=5.42,p<.05)。プレテストにおいて条件に有意な差がないことも考え合わせると,朗読の第1段階で黙読をするだけで,読み手の感情価は物語のそれと同様な状態になると考えられる。朗読の予告だけで,読み手は浅い処理から脱却し,登場人物の気持ちや内容理解を深く理解すると考えられる。
主な引用文献
福田・楢原 (2015). 朗読をすると気分が良くなるのか?読書科学, 57, 23-34.
小川・門地・菊谷・鈴木 (2000). 一般感情尺度の作成 心理学研究, 71, 241-246.