[PA77] 熟年教師が語る若手教師の保護者対応における「見える能力」と「見えない能力」
Keywords:熟年教師, 保護者対応, 見えない能力
研究の目的
本研究では,小学校に勤務する熟年教師のインタヴュデータから,彼らが若手教師に求める保護者対応の力を検討していく。
ここでは,スペンサーら(1993)の「コンピテンシーの氷山モデル」を理論的ベースとし,水面から顔を出している氷山の上部にあたる可視的な「見える能力」をパフォーマンスとする。「見える能力」は表出されるもので,多くの人が観察可能な能力として扱う。これに対して,「見えにくい,見えない能力(以下,見えない能力とする)」を水面下に隠れた潜在的な能力,つまりコンピテンシーとする。「見えない能力」は多様な文脈の中で表出され,厳格な評価が困難な能力として扱う。
熟年教師のインタヴュデータから若手教師の保護者対応における「見える能力」と「見えない能力」についての語りを抽出し分析することで,彼らが若手教師に求める保護者対応の力を検討する。
研究の方法
教職経験20年以上の小学校教師11名を調査協力者とした保護者対応に関するインタヴュ調査(2013年~2016年実施)で収集したデータを分析対象とする。類似したデータをまとめ,彼らが若手教師を指導して感じたり,自分の若手期をふりかえるなかで考えた保護者対応の「見える能力」と「見えない能力」について検討する。
結果と考察
図1が,熟年教師が考えた保護者対応において若手教師に必要となる「見える能力」と「見ない能力」を図示したものである。
まず,「見える能力」には日常生活に必要な基本的コミュニケーションスキル,そして,判断する力と相談する力の3つをおいた。1つ目の基本的コミュニケーションスキルとは,気持ちのよい挨拶をすること,返事をすること,丁寧な受け応えをすること,話すこと,伝える必要のあることは伝えることなどである。保護者に対応するとき必要とされるものではあるが,日常生活の様々な場面で人として求められるコミュニケーションスキルでもある。そして,2つ目の判断する力とは若手教師が自分で応えられないことは保留することであり,3つ目の相談する力とは同僚教師に聞いてみること,相談することである。保留したことを同僚教師に相談するという意味において,判断する力と相談する力は対の関係にある力といえる。
一方,若手教師の「見えない能力」には,聴く力・対話力と受け止める力,そして,地域・異世代とつながり交流する力,さらに,自律性・主体性・人間性の4つをおいた。まず,1つ目の聴く力・対話力とは保護者の話に耳を傾けて一生懸命に聴くこと,本音を聴きとることである。2つ目の受け止める力とは思いを受け止めることであり,聴く力・対話力と対の関係にあるといえる。インタヴュに応えている全ての熟年教師がとりあげている力である。次の3つ目にある地域・異世代とつながり交流する力とは地域に入っていくこと,異世代とかかわりをもち関係をつくっていくことである。保護者対応は若手教師にとって自分より年齢が上の世代である保護者とかかわりをもつことであり,異世代とつながり交流する力が大切であるということである。4つ目においた自律性・主体性・人間性とは,一生懸命さ,成長していきたいという意識,学ぶ気構え,責任感をもつこと,善悪の価値基準をもつこと,ヴィジョンをもつこと,そして,人となりなどである。「見える能力」の基本的コミュニケーションスキルと同様に,4つ目は教育活動全般において教師として,また,社会人として必要な能力である。
引用文献
Spencer, L. M. and Spencer, S. M., (1993). Competence at work:models for superior performance, John Wiley & Sons(梅津祐良他訳(2011). コンピテンシー・マネージメントの展開・完訳版.生産性出版)
附 記
本研究はJSPS科研費26350304の助成を受けた。北海道教育大学倫理委員会の承認を受けている。なお本研究の詳細は,今年度発刊予定の渡部編著『教育現場の「コンピテンシー評価」:「見えない能力」の学習評価を考える(仮)』において報告予定である。
本研究では,小学校に勤務する熟年教師のインタヴュデータから,彼らが若手教師に求める保護者対応の力を検討していく。
ここでは,スペンサーら(1993)の「コンピテンシーの氷山モデル」を理論的ベースとし,水面から顔を出している氷山の上部にあたる可視的な「見える能力」をパフォーマンスとする。「見える能力」は表出されるもので,多くの人が観察可能な能力として扱う。これに対して,「見えにくい,見えない能力(以下,見えない能力とする)」を水面下に隠れた潜在的な能力,つまりコンピテンシーとする。「見えない能力」は多様な文脈の中で表出され,厳格な評価が困難な能力として扱う。
熟年教師のインタヴュデータから若手教師の保護者対応における「見える能力」と「見えない能力」についての語りを抽出し分析することで,彼らが若手教師に求める保護者対応の力を検討する。
研究の方法
教職経験20年以上の小学校教師11名を調査協力者とした保護者対応に関するインタヴュ調査(2013年~2016年実施)で収集したデータを分析対象とする。類似したデータをまとめ,彼らが若手教師を指導して感じたり,自分の若手期をふりかえるなかで考えた保護者対応の「見える能力」と「見えない能力」について検討する。
結果と考察
図1が,熟年教師が考えた保護者対応において若手教師に必要となる「見える能力」と「見ない能力」を図示したものである。
まず,「見える能力」には日常生活に必要な基本的コミュニケーションスキル,そして,判断する力と相談する力の3つをおいた。1つ目の基本的コミュニケーションスキルとは,気持ちのよい挨拶をすること,返事をすること,丁寧な受け応えをすること,話すこと,伝える必要のあることは伝えることなどである。保護者に対応するとき必要とされるものではあるが,日常生活の様々な場面で人として求められるコミュニケーションスキルでもある。そして,2つ目の判断する力とは若手教師が自分で応えられないことは保留することであり,3つ目の相談する力とは同僚教師に聞いてみること,相談することである。保留したことを同僚教師に相談するという意味において,判断する力と相談する力は対の関係にある力といえる。
一方,若手教師の「見えない能力」には,聴く力・対話力と受け止める力,そして,地域・異世代とつながり交流する力,さらに,自律性・主体性・人間性の4つをおいた。まず,1つ目の聴く力・対話力とは保護者の話に耳を傾けて一生懸命に聴くこと,本音を聴きとることである。2つ目の受け止める力とは思いを受け止めることであり,聴く力・対話力と対の関係にあるといえる。インタヴュに応えている全ての熟年教師がとりあげている力である。次の3つ目にある地域・異世代とつながり交流する力とは地域に入っていくこと,異世代とかかわりをもち関係をつくっていくことである。保護者対応は若手教師にとって自分より年齢が上の世代である保護者とかかわりをもつことであり,異世代とつながり交流する力が大切であるということである。4つ目においた自律性・主体性・人間性とは,一生懸命さ,成長していきたいという意識,学ぶ気構え,責任感をもつこと,善悪の価値基準をもつこと,ヴィジョンをもつこと,そして,人となりなどである。「見える能力」の基本的コミュニケーションスキルと同様に,4つ目は教育活動全般において教師として,また,社会人として必要な能力である。
引用文献
Spencer, L. M. and Spencer, S. M., (1993). Competence at work:models for superior performance, John Wiley & Sons(梅津祐良他訳(2011). コンピテンシー・マネージメントの展開・完訳版.生産性出版)
附 記
本研究はJSPS科研費26350304の助成を受けた。北海道教育大学倫理委員会の承認を受けている。なお本研究の詳細は,今年度発刊予定の渡部編著『教育現場の「コンピテンシー評価」:「見えない能力」の学習評価を考える(仮)』において報告予定である。