[PB04] 児童期前期の自己主張の検討
仮想場面を用いた具体的内容の分析を通して
Keywords:自己主張, 児童期前期, 対人場面
問題と目的
自己主張とは,「他人の権利を侵害することなく,個人の嗜好と感情を,敵対的でないしかたで表現できる能力」(濱口,1994)であり,子どもが獲得すべき社会的能力である(鈴木,2009)。
自己主張の中身に注目すると,幼児期のうちに非言語的主張から言語的主張へと変わっていく(山本,1995)が,その表現の多様性を検討した研究は少ない(鈴木,2009)。近年,自分の思いや考えを上手く表現できない子どもが増加していることから,スキルトレーニングに関する研究は増えているが,具体的な主張内容の実態は十分に検討されているとはいえない(江口・濱口,2009)。よって本研究では,これまでの研究であまり扱われておらず,さらに対人関係における手厚い支援や配慮が求められる(大久保,2014),児童期前期の子どもの具体的な自己主張の実態を検討する。
方 法
(1)研究協力者
関西圏の公立小学校1~3年生96名(男子47名,女子49名)。学年は,1年生29名(平均7歳5か月),2年生33名(平均8歳5か月),3年生34名(平均9歳6ヵ月)。
(2)調査内容および手続き
個別記入式の質問紙を用いた。日常生活においてよく見られ,自己主張が求められる2種類の仮想場面を用意した。一つ目は,自分が読みたい本を貸してほしいと友人に依頼する場面,二つ目は,友だちからの遊びの誘いを断る場面である。文章とイラストで提示し,自分ならどう答えるかを,登場人物の吹き出しの中に記入してもらった。回答に影響が出ないよう,登場人物の表情は意図的に抜いた。
筆者の教示の下,クラス別に集団一斉方式で実施した。
結 果
場面ごとに,子どもたちの回答を内容に応じて以下のカテゴリーのいずれかに分類した。
(1)依頼をする場面
①譲歩的提案②強制的主張③非主張④その他の4つのカテゴリーに分類した(Table 1)。学年とカテゴリーの関連を検討するためにカイ二乗検定を行った結果,有意な差が見られた(χ2(6)=15.677,p<.05)。残差分析の結果,1年生は他の学年と比べて「譲歩的提案」が少なく,「強制的主張」「非主張」が多かった。また,3年生は他の学年と比べて「非主張」が少なかった。
(2)断る場面
①単純な拒否②配慮的提案③交渉的提案④非主張⑤その他の5つのカテゴリーに分類した(Table 2)。学年とカテゴリーの関連を検討するために,カイ二乗検定を行ったが,有意差はなかった。
考 察
依頼をする場面では学年による有意差があったことから,1年生では他の学年に比べると,相手よりも自分の欲求を優先させた主張をしたり,相手に自分の気持ちを主張しない子どもが見られることが分かった。つまり,相手に配慮した依頼の仕方は1年生から2年生にかけて身に着けていくのだと思われる。3年生になると,全員が何かしらの提案とともに,相手を傷つけない言い方で記述できていた。
対して,断る場面では,1年生のうちから「配慮的提案」「交渉的提案」がなされており,学年による差もなかったことから,こういった場面でのスキルは早期に獲得できている可能性がある。
課題として,今回の研究では限られた場面のみの調査であり,それが一般的傾向かどうかの確認まではできていないことがある。今後,質問する場面の設定について,さらに検討を加えていく必要がある。
自己主張とは,「他人の権利を侵害することなく,個人の嗜好と感情を,敵対的でないしかたで表現できる能力」(濱口,1994)であり,子どもが獲得すべき社会的能力である(鈴木,2009)。
自己主張の中身に注目すると,幼児期のうちに非言語的主張から言語的主張へと変わっていく(山本,1995)が,その表現の多様性を検討した研究は少ない(鈴木,2009)。近年,自分の思いや考えを上手く表現できない子どもが増加していることから,スキルトレーニングに関する研究は増えているが,具体的な主張内容の実態は十分に検討されているとはいえない(江口・濱口,2009)。よって本研究では,これまでの研究であまり扱われておらず,さらに対人関係における手厚い支援や配慮が求められる(大久保,2014),児童期前期の子どもの具体的な自己主張の実態を検討する。
方 法
(1)研究協力者
関西圏の公立小学校1~3年生96名(男子47名,女子49名)。学年は,1年生29名(平均7歳5か月),2年生33名(平均8歳5か月),3年生34名(平均9歳6ヵ月)。
(2)調査内容および手続き
個別記入式の質問紙を用いた。日常生活においてよく見られ,自己主張が求められる2種類の仮想場面を用意した。一つ目は,自分が読みたい本を貸してほしいと友人に依頼する場面,二つ目は,友だちからの遊びの誘いを断る場面である。文章とイラストで提示し,自分ならどう答えるかを,登場人物の吹き出しの中に記入してもらった。回答に影響が出ないよう,登場人物の表情は意図的に抜いた。
筆者の教示の下,クラス別に集団一斉方式で実施した。
結 果
場面ごとに,子どもたちの回答を内容に応じて以下のカテゴリーのいずれかに分類した。
(1)依頼をする場面
①譲歩的提案②強制的主張③非主張④その他の4つのカテゴリーに分類した(Table 1)。学年とカテゴリーの関連を検討するためにカイ二乗検定を行った結果,有意な差が見られた(χ2(6)=15.677,p<.05)。残差分析の結果,1年生は他の学年と比べて「譲歩的提案」が少なく,「強制的主張」「非主張」が多かった。また,3年生は他の学年と比べて「非主張」が少なかった。
(2)断る場面
①単純な拒否②配慮的提案③交渉的提案④非主張⑤その他の5つのカテゴリーに分類した(Table 2)。学年とカテゴリーの関連を検討するために,カイ二乗検定を行ったが,有意差はなかった。
考 察
依頼をする場面では学年による有意差があったことから,1年生では他の学年に比べると,相手よりも自分の欲求を優先させた主張をしたり,相手に自分の気持ちを主張しない子どもが見られることが分かった。つまり,相手に配慮した依頼の仕方は1年生から2年生にかけて身に着けていくのだと思われる。3年生になると,全員が何かしらの提案とともに,相手を傷つけない言い方で記述できていた。
対して,断る場面では,1年生のうちから「配慮的提案」「交渉的提案」がなされており,学年による差もなかったことから,こういった場面でのスキルは早期に獲得できている可能性がある。
課題として,今回の研究では限られた場面のみの調査であり,それが一般的傾向かどうかの確認まではできていないことがある。今後,質問する場面の設定について,さらに検討を加えていく必要がある。