The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB80] 学級の社会的目標構造と学習動機づけの関連

2時点の調査による検討

大谷和大1, 岡田涼2 (1.北海道大学大学院, 2.香川大学)

Keywords:学級環境, 学習動機づけ, 小学生

問   題
 学級の目標構造とは,学級で強調され,学級の成員によって共有されている学業達成に関する目標であり(Kaplan et al., 2002),大きく,課題の熟達を強調する熟達目標構造と課題の遂行を強調する遂行目標構造の2側面から捉えられる。
 一方,日常の教育活動の中では,社会的な目標が多く強調される。例えば,学級目標として掲示されるものは,概して社会的な目標である。大谷ら(2014,2015,2016)は,学級で強調される社会的目標について,学級の社会的目標構造尺度を作成し,学習動機づけ,学級適応に関連するプロセスを検討している。その結果,児童の向社会的行動を強調する,向社会的目標構造の学級ほど,学習動機づけや学級適応と正の関連を有していることが示された。
 ただし,これらの調査は1時点のものであり,因果関係に対して積極的な言及をすることができないという問題もあった。本研究は,2時点の調査を行い,学級の社会的目標構造が学習動機づけに影響を及ぼすかどうかを検討する。
方   法
 調査参加者 関西圏内の3市の小学校に所属する小学校5,6年生を対象に2度の質問紙調査を行った。なお,2度の調査に協力を得た4校のみを本研究の分析の対象とした。学級数はk= 26,児童数はN= 845であった。本研究の結果は,各学校および学級の個別のニーズを聴取しつつ,フィードバックされた。
 質問紙 質問紙は全て5件法で実施し,値が高いほど当該の動機づけが強いことを意味する。調査は,以下の質問紙をおおよそ3~4ヶ月間隔で2度実施した。
① 学級の社会的目標構造(大谷ら,2014):14項目(規範遵守目標構造6項目,向社会的目標構造8項目)。
② 相互学習(岡田,2008):5項目。
③ 内発的動機づけ(田中・山内,2000):6項目。
④ 学業自己効力感(松沼,2004):8項目。 
結   果
 Time1,Time 2の学級の社会的目標構造,相互学習,内発的動機づけ,学業自己効力感それぞれについて潜在変化モデルにより切片と傾きを推定した。傾きは,Time1を0,Time 2を1に固定した。そして,学級の社会的目標構造それぞれの切片と傾き,統制変数(学年,性別)を説明変数とし,学習に関する変数の切片と傾きを説明するモデルを検討した。
 向社会的目標構造の切片は,全ての学習に関する変数の切片と有意に関連していた(γ= 0..24~0.41)。また,その傾きは,内発的動機づけと相互学習の傾きに対して有意な正のパスを示した(γ= 0.15, 0. 25p< .05, .001)。また,規範遵守目標構造の傾きは,自己効力感と相互学習の傾きに対して有意な関連を有していた(γ= 0.13, 0. 16, p< .05, .001)。モデルの適合度は,全ての分析において高い値を示していた。
考   察
 本研究では,学級の社会的目標構造の傾きが,学習に関する指標の傾きと有意に関連していた。このことは,学習における動機づけや仲間との学習の変化は,学級の社会的環境の知覚の変化と共変動していることを示すものである。学習動機づけについて学級の社会的な環境の側面から考えることの重要性が指摘できる。
 本研究の限界として,時点数の少なさ,学級数の少なさが挙げられる。今後もデータを積み重ねつつ,同時に多様なアプローチで検討していく必要があるだろう。
※本研究はJSPS科研費(課題番号24730536)の助成を受けた