日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB86] Likert型評定法の元々の意味

Thurstone, Thorndike, Karl Pearsonとの関係

椎名乾平 (早稲田大学)

キーワード:評定法, LIkert, 心理測定法

 Likert型の評定尺度法は多用されているが,理論的根拠は脆弱で,Guilford(1954)等の正統的心理測定法の本にもごく簡単な解説しかない。
●Likert(1932)元論文の概要 彼は態度研究の文脈で,表1のような評定データを得た。ここでの態度質問項目は“All men who have the opportunity should enlist in the citizens military training camps.” であり,解答カテゴリーは表1上部にあるような5段階の文章である。彼はまず「Sigma Method」を用いて解答カテゴリーの尺度化を行う方法と,その簡便法を同時に提案し,両者の相関が非常に高いので(.99程度),簡便法で十分であると論を進めている。この簡便法が現在良く使われている「解答カテゴリーに1, 2, 3, 4, 5という整数値を割り当てる」方法である。一方,簡便法の妥当性を担保するはずのSigma Methodがどのような方法なのかについての引用・詳細説明はなく,表1の数値例が挙げられるのみである。
●Sigma Methodとは? ただし,Thorndike(1913)の数表を利用したとは書かれている。そこでThorndike(1904, p.91; 1913, p117)の表を見てみると,計算式はなく,正規分布の,上からAパーセント,下からBパーセントを除いた残りの部分の平均値の表とされている。とすると,切断正規分布の期待値の表のはずである。そこで表1のパーセントから累積パーセントを作り,累積正規分布の逆関数を用いて求めたz値をカテゴリー境界値とみなして,境界値と境界値の間で定義された切断正規分布の平均値を計算すると,表1のsigma valueの値を再現することができた(図1も参照)。計算式は基準正規分布の密度関数をf(x),分布関数をF(x),分布の下端をa,上端をbとしてであり,比較的良く知られている式である(蓑谷,2012; Guilford, 1954, p.237; 田中良久,1977,p.156)。
●Sigma Methodは誰の創案? ところが当時の標準的教科書であるKelley(1923, p.101)に,表1にそっくりの表と数学的説明があり,さらにYerkes(1921)の陸軍知能検査報告書のBrownによる章が引用されている。この章にはPearsonの援助を受けたとの謝辞があり,また切断正規分布と相関係数に関する見事な解析がなされている(p.629)。「カテゴリーの裏に,潜在的連続変数と正規分布が存在する」と仮定するのはThurstone, Fechner, Pearsonに共通するが,カテゴリーを区間[a, b]で表現する考えは,Pearson(1901)に端を発し,(1)式に相当する式は(1909, 1913)にある。従って,Sigma MethodはThorndikeが力技で数表を作り,その後Pearsonの理論で補強されたものと推測する。
●Thurstoneの系列カテゴリー法が使用されたのはSaffir(1937)が最初でありLikert論文の5年後である。この方法は刺激の尺度化をするものなので,元来Sigma Methodとは異なるものである。Sigma Methodと直接比較可能なのは等現間隔法(1929)であり,Likertら(1934)も含めかなりの比較研究がなされたが,簡便性を理由にLikert法に好意的なものが多い。Sigma Methodは現在廃れているが,もっと使用されてよい。この方法の妥当性は,潜在変数の正規性が前提とするが,それでも盲目的に簡便法を用いるよりはずっと良いと思われる。なぜなら,(一応)間隔尺度を与えてくれるし,各種統計手法との相性も悪くないからである。